第6話 村長、高く売られそう。村長、ありがとうございます
ペットとドリルがムギのもとに、すばやく駆け寄る。ボロボロのムギの様子を見てペットが嘆く。
「むちゃ、すんなー。怖いよ、引くよ」
「でも、なんか生きてるし。手加減してくれたのかも」
「むちゃ、すんなー。怖いわー、引くわー」
「2回目」
ペットが呆れた顔をしらながらも、ムギの顔を心配そうに覗きこむ。
「頭が働くとか、買い被っちまったじゃねーか」
二人の会話を遮り、ムギの様態をドリルが確認する。
「悠長に会話してる場合じゃない。回復能力のある者を探さないと」
すると、ラルフが駆け寄ってくる。
「ムギ君!この村の方が回復能力あるって」
初老の男性が歩みよってくる。ムギの体に手をかざし、ムギの体を温かい光が包む。
「そこまで強力な回復じゃないから、ちゃんとしたところで診てもらわないと」
ムギの顔色が少し良くなる。先程までとは、比べ物にならないくらい体が軽い。
「大分、楽になりました。ありがとうございます」
その様子を見てラルフが目を輝かせている。
「いいなー、我が村にも回復能力者欲しいなー」
ラルフの頭をペットがペシッと叩く。
「お前、反省しろよ」
素直にラルフが、うなだれる。
「はい」
ラルフがムギを背負い村人達にペコペコ謝っている。ムギは眠っているのか意識がない。ムギの一部始終を見ていたためか、村人達が見送ってくれている。
「すみません、賠償金なんかは後ほど」
「まー、今はその子を早くちゃんとした能力者に見せてやってくれ」
「ありがとうございます」
ラルフがペコペコしながら、ムギを背負って村を去る。フラフラ浮遊しながら、それにペットも付いていく。
<゜)))彡 <゜)))彡 <゜)))彡
ムギが朦朧とした意識の中、目を少し覚ます。ムギをラルフが、おぶっているようだ。「あれ、どうしたんだっけ」と、記憶が混乱する。ペットはムギの肩に乗っている。だんだん今日のことを思い出してきた。ドリルがいないが、ドリルはどうしたのだろう。
「村長、ドリルさんは?」
「あ、起きた?ドリルさんは帰ったよ。仕事抜けてきてもらっちゃったから」
ラルフが、ムギをおぶって村まで帰るのだろうか。
「村長、すみません」
「いいんだよ。もともとは僕のせいだし」
「そうですね」
具合の悪さで、ムギはろくに考えずに答えてしまう。
「え!」
「すみません。気を使う余裕が」
ラルフが「よいしょ」っと、ムギを背負い直す。
「いーよ、いーよ、寝てな。それよりペットくらい浮いててよ」
ムギの肩に垂れ下がってるペットがだるそうに答える。
「俺も力使い果たして、限界だ」
そこへ先程のやさぐれ者があらわれ、ムギ達は囲まれてしまう。ナイフをチラつかせている。ラルフがため息をつく。
「はーっ、次から次へと。みれば分かるだろ、怪我人なんだ。どいてくれ」
「金目のもの置いていってもらおうか」
「仕方ない、全部もっていけ。我が村民の命に比べれば金など安いもの」
ムギがぐったりした意識の中で言う。
「村長、カッコイイ」
すると、やさぐれ者がラルフの顔を覗き込む。
「うん?このキンパの兄ちゃん、キレーな顔してんな。高く売れるんじゃないか?」
「え! 私は男なんだが」
やさぐれ者がラルフの肩に手を置く。
「安心してくれ。金持ちのご婦人やら需要はいくらでもあるぞ。おじさまとかも。可愛がってもらえるぞ」
ラルフが言葉を失う。
「おじ…」
遠くでラルフが何やら話している声がするが、意識が朦朧としてて、ムギはよく分からない。とりあえず何かしてくれているようだ。
「村長、すみません。ありがとうございます」
「え!」
何かラルフが驚いていることは、分かった。反応を間違えたようだ。
「すみません、気を使う余裕が」
「絶対、気遣いとかの問題じゃないよね!?」
ペットも、ぐったりした様子で同調する。
「お前、いっつもイケメだの、まだまだ若いだの言ってるじゃねーか」
「ペットまで!」
「治ったら、助けに行くんで…」
ラルフが人生一番というくらいに、焦る。
「その間にどうにか、なっちゃうよ!?」
そこへ人影が現れ、やさぐれ者が握っていたナイフを蹴り飛ばす。やさぐれ者の手を離れ宙に舞うナイフ。そのナイフを見もしないで、人影がキャッチする。
そこにはライラが勇ましく、やさぐれ者の前に立ちはだかっている。
そのままライラが、やさぐれ者の眼球ギリギリにナイフを向けて言う。
「私がお前らを可愛がってやろうか」
今度は、やさぐれ者達が慌てる番だ。
「さっきのキャンプファイヤー女!」
「5 秒やる。うせろ」
激しく、うろたえる、やさぐれ者達。
「この女はヤベー」
ライラがすぐさま秒読みを始める。
「5、4、3 」
秒読みがやたら早い。
「早い、早い!読み方早いっすよー」
走って逃げていく、やさぐれ者達。
「ライラ君!」
ラルフが救世主の登場に感激の表情になる。
「損害賠償分、お前の村で働いてやる」
「本当!?」
ライラが顎でムギの方を指す。
「あと、代われ」
ラルフは何のことを言っているのかわからない。
「そいつを背負うのだ」
「そんな女性に力仕事を」
「なめんな。お前よりよっほど鍛えてる」
「それも、そうだね」
ライラがムギを背負う。眠っているかと思ったムギが目を閉じたまま話す。
「なんか、気まずいね」
ライラがムギの言葉に応えず、無言で歩く。少したってからライラが口を開く。
「仲直り……したんだろ」
そう言ってから「よいしょっ」と、ムギを背負い直す。
ムギは少し照れくさい。瞼を重たそうに少し開ける。
「ふふっ。そうだね」
ラルフが腕で目元を拭う。ムギの肩から離れて、飛んできたペットがラルフの顔を覗き込む。
「なんだ、お前泣いてるのか?」
ラルフが、目元がうるうるしている。
「だって」
ペットが冷静にラルフを見る。
「反省しろよ」
ラルフがまた素直に、うなずく。
「はい」
「じゃあ、いっちょいくかな」と言ってライラが、ムギを背負って猛ダッシュする。さすがに、めちゃくちゃに速い。ムギはライラの猛ダッシュの振動で更にダメージを食らう。「あうあう」言っている。
慌ててラルフが叫ぶ。
「待って! 速い! 速すぎる! 怪我人だから、速いのはありがたいけど、揺らさないであげて。ペット!」
仕方ないという感じでペットが答える。
「あーもー俺もヘトヘトなんだよ」
ライラとムギを追ってペットが飛んでいく。
第2章 取り扱い注意な少女現る
おわり
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