第4話 凡人 VS 天才能力者
ムギが走って行くと、ゴマ村の自警団と、オミソ村の自警団が戦っている。ゴマ村の自警団の隊長と思われるのは、黒色の制服に身を包んだ、黒髪のショートカットの少女で、炎の能力をめったやたらに発動している。その攻撃を受けヒロ達が能力による透明な防御壁で迎えうつが、少女の威力の方がかなり強い。押し負け、ヒロが倒れる。
そこへムギが木の棒をもって、少女の前に、立ちふさがる。倒れたままヒロが叫ぶ。
「ムギ! 無能力者のお前は下がってろ。その女、強いだけじゃない。ちょっと、おかしい!」
ボロボロのヒロをみて、ムギが驚く。そして少女に向かって言う。
「おい、お前! やりすぎたろう! いくら能力者だって交渉ってもんを、知らないのか」
「交渉ならした。御神体を寄越さないというから、強奪する」
「どういう論理だよ」
「なんだ? その木の棒。無能力者か? なめてるのか」
少女の手のひらから火の玉が放たれ、ムギに飛んでくる。思わず目をつぶる。恐る恐る目を少し空けると、ヒロがムギをかばい倒れる。
「ヒロちゃん!」
ムギが思わず昔の呼び名で、ヒロを呼んでしまう。ヒロが虫の声で返す。
「恥ずかしいから、やめろ。昔、俺がいじめられてた時助けてくれただろ。能力発覚しなかったからって性格変わりすぎなんだよ」
貧しいが、なんやかんや平和に生きてきたムギにとって、村が襲われるなんて経験は衝撃だ。しかも、自分を、かばってくれた幼馴染が倒れている。恐怖と不安とヒロへの申し訳なさで、ムギの目に涙が滲む。少女が倒れているヒロを見下げる。
「その程度の能力で、この村ではさぞや、勝ち誇ってたんだろうなー」
そして、ヒロの頭を少女が踏む。ムギは一瞬、ショックで言葉が出ない。目にギリギリまで溜め込んでいた涙が、もう、持ちこたえることなく、ムギの目からポロポロとこぼれ落ちてくる。
「ヒロちゃん、ゴメン。コンプレックスで避けてたのは……、勝手に、みじめに思ってたのは」
涙を腕で拭って、木の棒を剣のように構える。
「僕だ!」
少女が、ムギの方を蔑むように見る。
「なんだ無能力者が」
「ふざけんな! とにかく、その足をどけろ!! 能力なんて、いらない……いらない」
ムギが首を横に振る。少女が面倒くさそうにムギの言うことを聞いている。
「あ? おかしくなったか」
「ずっと、ずっと、アンタみたいな能力者になりたかった。でも、アンタみたいになるなら、そんな力いらない」
「能力あった方が、いいに決まってるだろう。私のような強力な力が」
「足をどけろっていってんだろ! どういう育ち方したら人にそんなことができるんだよ!」
少女が、突然態度を変え、きつくムギを睨みつける。怒りが伝わり、ムギが後ずさりする。
「私が能力だけに頼る人間に見えるのか。心外だなー。じゃあ、能力使わないでやるよ」
剣を鞘にいれたまま、ムギの握った木の棒を払い除ける、ムギは自分を守るために必死にまた木の棒を自分の中央にもっていくが、右に左に剣を使い、繰り返し払い除けられる。
「怠惰なお前と違って!」
少女が力いっぱい剣を振るう。
「私は努力してきたんだよ!」
ムギが、どんどん後ずさっていく。あまりの力に、手がしびれる。少女は怒りが収まらない。
「どんな育ち方っていったよな? こういう、ことしかされてこなかったんだよ!」
少女が力いっぱい剣を振り回す。ムギは木の棒を掴んでる手が痛くて、苦痛な表情を浮かべる。高笑いする少女。
やがて、ムギと少女は住宅に挟まれた少し狭い路地に入っていく。ゴマ村の自警団も少女に続くような形で付いてくる。また強く払いのけられ、あまりの勢いに少し離れたところに弾き飛ばされ尻もちをつく。
少女が勝ち誇った笑みを浮かべる。
「能力以外もてんでダメ。そこまで劣ってると同情の気持ちさえ生まれてくるよ。可哀想に。よく、生きていけるね」
ムギがイテテと言いながら、打ったお尻と、背中をさすりながら、立ち上がる。
「こんなんでも、アンタみたいに恵まれてなくても、何も持たないまま生きて行くしかない」
ムギが、木の棒を下から上に、一直線に掲げる。
「生きていく!」
村人の一人が大声をあげる。
「みんな! 合図だ!」
村人が屋根から一斉に石を投げる。ゴマ村の自警団に石の雨が降りかかる。
「は?」
何が始まったか、理解できない少女にも石の雨が降る。ムギが今度は木の棒を横に払い、叫ぶ。
「やめ!」
石の雨が止む。そこへ今度は家や、家の裏から村人がでてきて、ゴマ村の自警団から、剣を奪う。不意打ちだったことと、武器を奪われたことで、ゴマ村の自警団は抵抗ができない。
そして、オミソ村の人達がゴマ村の自警団に対して木の棒で応戦していく。
ムギも少女から剣を奪う。かがんで剣を抱えたところで、少女の影がムギにかかる。見上げると、鬼の形相の少女がいる。大きな石が当たったのか、頭から血を流している。
「くだらない小細工を。私は他とは違う。武器がなくても能力を発動できる。残念だったな。つまならない、無駄な策だ。お疲れ様」
ムギの顔の前に手をかざす少女。ムギが少女をじっと見上げる。その先には時計台がある。
「なんだ、その目は! 私に逆らったことを毎日思いだせるように、顔に傷を作ってやるよ」
ムギの顔の目前で、少女の手のひらから火の能力が発動している。
後方からゴマ村の部下の叫ぶ声がする。
「隊長! 帝国軍です!」
少女の顔が驚きで固まる。ムギが、笑顔で言い放つ。
「バーカ、時間稼ぎしたかっただけだよ。能力者には勝ってこないから、能力者は能力者に任せなくっちゃ」
「帝国軍がなんで、こんな村を。お前、私を出し抜いたのか」
「それじゃあ!」
中腰でコソコソと逃げようとする。逃げるムギの肩を強い力でつかみ、ムギを振り向かせる。少女の指がムギの肩にめり込んで痛い。
「構わない。どうでもいい。お前にトラウマを植え付けるには十分時間がある」
少女は怒りで震えている。少女の手のひらから先程より大きな炎が生まれる。
「ちょっと、待って! ごめんて! 御神体奪おうとするお前らがいけないんだろ」
ムギの声が震える。
「お前が奪ったものは、そんなもんじゃない。許さない」
少女から手のひらの炎が青くそまっていく。高温になっていく熱がムギにも感じられる。ペットが、その様子を見ている。
「何にもすんなって言われたけど、さすがに想定外だよな!」
ペットが、すかさず助けにく。
「ムギ!」
だが、少女がペットを簡単に払いのける。ムギが叫ぶ。
「ペット!」
ペットが地面に、激しく叩きつけられてしまう。
「死なない程度で、一生後悔させてやる」
ムギが目を固くつぶる。
「私の大切な有権者に何しやがる!」
能力が発動するギリギリで少女に、思いっきりラルフが体当たりする。怒りで周りに気を配れなかったのか、意外にもラルフの攻撃が少女に効く。少女が倒れ、炎は軌道をそれて街灯に直撃し、街灯が倒れる。ラルフに向かって少女が叫ぶ。
「なんだ、おっさん!」
すぐさま帝国軍の能力者が少女を取り囲み、帝国軍に連行されていく。
「私は偉大なんだ! こんな小細工!!」
と、叫び続けている。
ラルフが手を差し出し、ムギがその手を掴み立ち上がる。
「よくやってくれたね!」
ラルフがムギを抱きしめ、感激で力いっぱいムギの背中を叩く。
「腰! 腰打ったんで、痛いです」
「ああ、ゴメン、ゴメン!」
ラルフがムギを離す。ムギは自分の両手のひらを見る。
「まだ手が震えてるかも」
「ちょっと、頑張らせすぎちゃったね。みんなにも」
ムギが不安な顔をラルフに向ける。
「ヒロちゃんが、ペットが」
ペットがヒョロヒョロ浮かびあがってくる。
「俺なら大丈夫だ」
「ヒロ君も、もう村の人が手当してくれてる」
「よかった……。よく帝国軍がこんな村に干渉してくれましたね」
「帝国軍の支部隊長に金を渡したんだよ。結構出したよー。でも、御神体は我が村の貴重な観光資源だからね。御神体があれば、すぐ取り戻せる額!安いくらいさ」
「ズブズブですね。だと思ってましたけど」
村を見回すラルフ。街灯が壊れてることに気付く。
「ああ! あれもちゃんとゴマ村に請求しなくちゃ! ああ! 避難頂いている観光のお客様にご説明に行かなくちゃ! いやいやいや、まずケガ人を」
ペットがラルフの頭をペシッと叩く。
「落ち着け。村のみんなの方が大変だったんだからな。お前、いってみれば金払いに行っただけだからな」
せわしないラルフにムギが少し笑ってしまう。
「何か手伝います」
「ありがとうッ!」
ラルフが調子よくキラキラの笑顔を向ける。相変わらず、すごい顔面偏差値。
「ところでムギ君、今後、私の仕事を手伝ってくれないかい?」
ムギの顔が、とたんに輝く。
「え! 秘書にしてくれるんですか?」
「たまにでいいよ。人形売りの仕事は続けなさい。村の大切な産業だし。何より君、浮かれやすそうだし」
ペットがムギの顔をみながら納得する。
「この年頃はうかれるな」
そんな二人を見て、ムギは少しふてくされる。
「君ら、ちょいちょい失礼だからね」
ラルフがペットと目を合わせて言う。
「反省しよう」
ペットもうなずく。
「うん」
ムギがそんな二人を飽きれた目で見て言う。
「素直だな」
でも、心の中は嬉しい。
これからどんどん忙しくなりそうだ。オミソ村だけでなくムギ自身も。
ムギの心の中で、ずっと止まっていたもの、ずっとずっと動いて欲しかったものが、小さくカチリと音をたてた。
第1章 抜けてるイケメン村長現る
おわり
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