抜けてるイケメン村長現る
第1話 顔面偏差値えげつない
少年ムギが木の棒を剣のように構え、ゴマ村の自警団に対峙している。
「あんたみたいに恵まれてなくても、このまま生きていくしかない……何もないまま生きていく!」
ムギがこんなピンチに見舞われているのは、ラルフとの出会いが発端。ムギとラルフとの出会いまで、ちょっと時間を巻き戻し。
<゜)))彡 <゜)))彡 <゜)))彡
襟のないタイプのシャツに、サスペンダー付のチェックのズボン、栗色のくせ毛が印象的な16 才の少年ムギはオミソ村の住人だ。
今日も役場の求人案内を眺めていた。めぼしいものがなく、ため息をついて役場を出る。
役場の外には、先日当選したばかりの30才の村長ラルフが簡易の机と、椅子を設置し座っている。
オミソ村が今回初の選挙を行うことにしたところ、ラルフが、他国からわざわざ移住してきて、そしてただ一人立候補、そのまま当選した。
そんな変わり者の若き村長の横には「珍事なんでも相談コーナー」と書かれたのぼりがたっている。
暇そうに座っているラルフの様子をみると、相談しに来たものは、まだ誰もいないのだろう。
それを、物好きなボンボンがやってきたものだと、冷めた目で見ているとラルフと目があってしまう。慌てて目をそらすがラルフは逃さない。
「ちょっと、そこの少年!」
構わず立ち去ろうとするムギだが、ラルフもあきらめない。
「待って! ちょっと寄っていきたまえ。ルールルルル、ルールルル」
子供扱いどころか、野生のキツネか何かを呼ぶ真似をされ、さすがにイラッとする。
この世間擦れしていないボンボンを言い負かしてやろうという気が起きてラルフの前に座る。
ラルフはスーツにシャツ、襟元にスカーフを巻いている。この村でそんな格好をしている者はいない。なにより、軽くウェーブのかかった金髪に、青い目と、おそろしく、整った顔をしていた。だが日々に疲れているムギにとって、それは感嘆でも、憧れでもない、ただの事実でしかない。恵まれてるヤツは全部もってるものだなとは思った。そしてつい、言ってしまう。
「顔面偏差値えげつないですね。胡散臭ささえ感じます」
「本来褒められるべきを、そんなふうに言われたのは初めてだよ」
なんだかちょっと煮えきらない変な顔をした後、ムギに向ける顔は優しい。続けてラルフが話しかけてくる。
「なんか困ったことや、相談したいことはないかい?」
ラルフの性格の良さそうな振る舞いでさえ、ムギは、恵まれて健やかに育ってきたからこそのものなんだろうなと、また腹が立つ。
「仕事がありません」
ラルフは自信満々に大袈裟に肩を揺らして笑う素振りをみせる。
「それは、大丈夫。手は打ってある」
こんな村に打つ手は、果たしてあるものかと、少し考えていると、青い詰め襟の制服を着た村の自警団数人がムギの側を通る。その中にはムギの幼馴染ヒロの姿もあった。自警団は能力者だけがなれる。火や、水や、風を操り村を守る。ムギは子供の頃からずっと、ずっと憧れていた。ヒロがムギを冷やかす。
「いいよな。無職は、こんなとこで油売ってられて」
悔しさで、じっと、うつむくムギ。ヒロはムギが言い返すのを待っているようでもある。また、屈託なくラルフが言う。
「いいのか少年。言い返してやりたまえ」
たまらずムギは席を立つ。ヒロもため息をついて、その場を通りすぎていく。
「あ、少年!」
ラルフの声が背後に聞こえ、さすがに村長に対して失礼かなと思ったが、とてもその場にはいたくなかった。
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