第88話 七水晶剣

「【零涙智剣ティズダム】——『七水晶剣セブンスクリスタル』」


 エルゼの言葉に呼応するかのように手にしていた水晶の剣は砕け散る。しかしそれはそのまま散ることはなく、エルゼの周囲に浮かびやがて七本の小型の水晶の剣へと変化した。


「っ、その剣は……」


 キラキラと輝くその七つの剣は赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色で彩られている。あまりの美しさに見る者の目を奪うほどだ。だがしかしこれらの剣は飾りではない。大きな力を内包していることが一目見てわかるほどだった。


「さぁ、贖罪の時間です」

「っ!」

「『紅焔』『炎塵』『雷刃』『水閃』『葉砕』『夜月』『毒壺』」

「七つの上級魔法を一度に!?」

「上級魔法? いいえ、これは超級魔法です」


 七つの超級魔法の平行発動。それはユースティアであってもできない。超越した魔法使いであるエルゼと【零涙智剣ティズダム】の力があってこそできる神業だった。

 七色に輝くその剣から放たれる七つの超級魔法。


「くぅっ、『罪障壁』!」

「無駄です。その程度の壁で防げるほど私の魔法は甘くない」

「っ!?」


 エルゼの超級魔法はユースティアの展開した『罪障壁』を紙のように容易く斬り裂き、ユースティアへ直撃する。


「がはぁっ!!」


 壁を失ったユースティアは超級魔法をその身で受けるしかなく、とっさに罪の力を全身に巡らせることで防御力を上げてしのぐことしかできなかった。


「ぐぅ……はぁ、はぁ……舐めるなぁ!!」


 ユースティアの体から無尽蔵に溢れ出る罪力は傷ついたユースティアの体を半ば強制的に修復していく。


「七つの超級魔法の同時展開……確かに私にはできない離れ業だ。だが、私にはそもそも不必要な技だ」

「超級魔法の直撃も耐えるとは……今の一撃で沈んでくれれば楽だったんですけどね」

「見せてやろう。私が魔神となって手にした力を! 【罪魔法】——『罪禍ノ砲塵』」

「っ、これは……」

「塵と化せ!!」


 力任せに放たれる罪力を込めた砲撃。呑み込むもの全てを塵へと変えてしまうであろう一撃を前にて、エルゼはそれでも冷静だった。


「多重展開【魂源魔法】——『煙罪否定』」


 七つの剣はエルゼの前に扇状に展開し、全てを飲み込む赤黒い罪の光を遮断する。


「はははははっ! まさかこの一撃まで防ぐとはな! まさか【魂源魔法】を剣の力を使って多重展開するとは……ならもう一撃だ!」


 再び放たれる砲撃をエルゼは同じように【魂源魔法】を使って防ぐ。ユースティアは力任せに何度も攻撃を放つが、エルゼの展開する七つの剣には傷一つついていない。


「無駄ですよ。何度【罪魔法】を使ったとしても、私の剣は突破できない」

「確かに相当厄介だな、その剣は。だがそうじゃないと面白くない」

「私は面白い面白くないで戦ってるわけではないので、早く終わらせてしまいたいのですが。そろそろ正気に戻っていただけませんか?」

「正気だと? 私は正気だし。この状態こそが私の素だ。聖女だった頃の私がおかしかったんだ」

「まったくあなたという人は……本当に懲りないというか。やはり無理やり叩き起こすしかなさそうです。あなたの中に眠る本当の彼女を」

「あいにくだが、これが本当の私だ。あぁそうだ。これこそが私の求めていた力……何者にも屈することのない、至高の力だ!」

「呆れて物が言えないとはこのことでしょうかね」


 もはやユースティアは自分の力を自分の内だけで抑えておくことができなくなっていた。その体から溢れ出る力だけで周囲に影響を及ぼすほどだ。まさに歩く天災という状態。しかし暴走状態の今のユースティアにその自覚はなかった。

 ただ全身に満ちる力に酔いしれ、全能感だけがその身を支配していた。


「少々強引に行かせてもらいます——『七水晶剣セブンスクリスタル』!」

「せいぜい抗ってみせるがいい——『罪禍ノ砲塵』!」


 エルゼとユースティア。聖女と魔神。おおよそ人の枠を超えた二人の力が正面からぶつかり合い、巨大な爆発が巻き起こった。

 

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