第75話 レインの決断
『罪丸』を飲むか否か。
レインはまさにその決断を迫られていた。
そして、レインが悩んでいる間にも目の前で繰り広げられるユースティアとエルゼの戦いは激しさを増していく。
ことここに至って、エルゼも一切の躊躇をしている余裕はなくなった。
ディアボロスと戦っていた時ですらまだ魔力の余裕を残していたエルゼだったが、ユースティアが相手となってはそうも言っていられなくなったのだ。
全力でかからねば一瞬で呑まれる。そう思わせるだけの凄みと実力がユースティアにはあった。
「あははははっ! 流石だなぁエルゼ! これだけの魔法を放ってもまだ耐えきるとは!」
「そういうあなたこそ。昔とは比べ物にならないほど魔法の腕を上げたようですね。ですが……まだ粗い」
「っ!」
ぶつかり合う魔法と魔法。
その間隙を縫って無詠唱で放たれた魔法がユースティアの頬を掠める。
「へぇ……」
「そんな姿となり……いいえ、そんな姿になってしまったからこそあなたの魔法は粗くなっている。私に魔法で勝とうと思うのならば、もう少し魔法のことを学ぶべきでは?」
「ふふ……あははっ! 言ってくれる……面白い。本当なら使うつもりは無かったけど……エルゼなら遊べるかもしれない」
「っ!」
哄笑から一転、どす黒い雰囲気を纏ったユースティアがその右腕に異常なほどの罪の力を集約される。
「まさかユースティア様……あの魔法をお使いになられるので? あははははっ、いいですねぇ。その力、ぜひ研究したいと思っていたんです!」
「これは……」
ユースティアの右腕に集まる罪の力を見たエルゼは思わず目を見開く。それは今までに見たこともないほどに強力、かつ濃い罪だった。
それが放たれればどうなるかなど想像に難くなかった。
「こんなところか? さぁ踊れ踊れ……『罪禍業炎』」
「っ! 『セイクリッドシールド』!!」
エルゼは反射的に魔法の盾を生成する。その直後、襲いかかってきたのは凄まじい衝撃。
「ぐ……ぅ……」
思わず膝をつきそうになるほどに衝撃がエルゼを襲う。しかしあまりにも範囲が広すぎてその場から動いて避けることもできない。
「この力は……」
「罪力……魔人だけが持つ超越者としての力。まぁ大半の魔人はまともに使いこなすことすらできないみたいだが。私にかかれば他愛無い話だ。魔力も罪力も、ようは慣れ。ありがとうエルゼ。エルゼとの魔法の撃ち合いで体の中に流れる罪力の感覚を掴めた」
「まさか……最初からそのつもりで……」
「いいや。もちろん魔法で勝つつもりだった。でも、それは厳しそうだからなぁ。エルゼの力を完全に侮っていた。だからこの力を使うことにした」
全力で耐えるエルゼに対し、罪力を使うユースティアにはまだまだ余力があるように見える。
それは誰の目にみても明らかだった。
「俺は……ただ見てるだけでいいってのか? あいつが……あんな力を振るってるのを」
驚異的とも言える力を振るうユースティアを見て、レインは無意識の内にその手に力を込めた。
「言い訳が……ないだろ! どんなことがあったかなんて知らない。でも、あいつが……俺の知ってるユースティアがあんな力を望むはずがねぇ! ならそれを止めるのは他の誰でもない、俺の役目だ!」
後のことなど何も考えず、レインは手の中にある『罪丸』を一気に飲み込んだ。
「っ、ぐぅぁ……」
今のユースティアに対抗するためには、生半可な解放では足りない。
そう考えたレインは完全に封印を解放するために、倍以上の『罪丸』を口に含んだ。
そしてその直後、抑え込んできた罪が体中に満ちるのをレインは感じていた。
「ぁぁああああああっっ!!」
意識すらも呑まれそうになり、気が狂いそうになりながらも、レインは必死に己の意識を保つ。
「これ以上……呑まれてたまるか」
ルーナルの作った『罪丸』のもう一つの効果がようやく効き始め、ギリギリの所でレインは意識を保つ。
しかしそれも万全ではない。こうして立っている今もレインの意思には【憤怒】に呑まれそうになっていた。
(前までより……力が溢れてる。【憤怒】の力が……前までよりも強くなってるのか。でも……この力なら)
赤く染まりそうになる視界の中でレインはユースティアを見据える。
「お前は……俺が止める。絶対に!」
『紅蓮竜牙』にあらん限りの罪の力を込めるレイン。
それに呼応するように『紅蓮竜牙』は赤い光を放つ。
「行くぞ!」
人を超えた脚力で地を蹴り、レインはユースティアとエルゼが戦っている場所へと介入した。
「っ! リオルデルさん!? その力は……」
「話は後です。今はユースティアを止めます。喰らい尽くせ……【憤怒】!!」
レインが放った罪弾がユースティアの放った『罪禍業炎』を押し返す。
「っ!」
『罪禍業炎』が押し返されたことにユースティアは軽く驚きつつ、しかし冷静に対処した。
「驚いた……まさかお前がこの戦いに首をつっこんでくるなんてなぁ、レイン」
「はぁはぁ……当たり前だこのバカが。何してんだよお前!」
「何……だと? お前には話したはずだがな。私の中に流れるこの血について」
「それがなんだってんだよ!」
「血の力が目覚めてわかった。いや、理解した。私はやはり……こちら側なんだと」
「っ……ふざけんな! 違うだろうが! 俺の知ってるユースティアはそんなこと言わねぇ。何があってそんなバカな真似してんのか知らねぇが。ぶん殴ってでも目を覚まさせてやる!」
「……ふふ、面白い。今のお前の力には興味もある。かかって来いレイン、お前達二人ともまとめて遊んでやろう」
「上等だ!」
大切なものを、ユースティアを取り戻すために力を解放したレイン。
その戦いが幕を開けた。
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