第53話 ユースティアを探して
レインとエルゼ達が戦っている同じ頃、コロネとイリス達も動き始めていた。
「イリスさん、こっちッス」
「は、はい」
家の影に隠れるようにして移動しながらイリスはコロネの後を追う。
「エルゼ様達の陽動は上手くいってるみたいッスね」
「そうですね。おかげでこっちの方はほとんど人がいません」
「いまの内にユースティア様を探すッス。問題はどこにいるかってことッスけど……」
キョロキョロと周囲を見渡すコロネ。しかし見える範囲にあるのは家だけだ。
どこにユースティアがいるかなどまるでわからない。
「んー、困ったッスね。あたしは魔法は苦手なんで、捜索系の魔法も使えないッスし。一軒ずつしらみつぶしに探していくしか——っ! イリスさん、隠れるッス」
「っ!」
コロネに隠れるように言われたイリスは慌てて家の影に隠れる。
するとそこにやって来たのは『魔導神道』の兵士達だった。
「早く装備を整えろ。あそこで食い止めないと面倒なことになるぞ!」
「わかってる! これ以上進ませたら地下への入り口も」
どうやら男達は装備を整えに戻って来たようだった。
それをコロネは隙と捉えた。
(この二人しかいない。周囲に他の敵影もないッス。やるなら今ッスね)
足音を殺し、兵達の入った家へと近づくコロネ。
そして、身を低く屈め地を這う様にして動いたコロネはそのまま右側に立っていた男の殴って昏倒させる。
「な、きさ——」
「静かにするッス」
「んぐっ!?」
男の背後を取り、腕を極めて首にナイフを突きつけるコロネ。
「その気になればすぐにでも殺せるッス。それが嫌ならこっちの望む情報を吐くッスよ。そしたら殺しはしないッス」
「ぐっ……だ、誰が情報を……」
「あぁ、もしかして姉様……エルゼ様の部隊だから殺されないとでも思ってるッスか? ならその甘えた考えは捨てるッス。姉様もここに何人いるかなんてことまでは把握してないッス。つまり、人が一人消えたところで気付かれない。あたしは今までそうやって何度も消してきたッス」
スッとコロネの持つナイフが男の首を皮を薄く切る。そのナイフの冷たい感触、そしてコロネの声音に男はどうしようもないほどに本気を感じ取ってしまった。
「幸いなことにこっちにもう一人いるッスからね。一人くらい殺しても……」
「わ、わかった! 話す。俺の知ってる情報は全部話すから!」
身近に迫る死の恐怖に、男はあっさりと音を上げた。
男の目に宿る恐怖が本物で、欺く意思なしと判断したコロネはそのままの姿勢で話すように促す。
「さっき地下って言ってたッスね。その地下への入り口はどこにあるッスか?」
「……地下の入り口には印がつけられてる。全部三か所だ。ここを出て、まっすぐ進んでから五軒目の家。枯れ井戸の内側。そして村の中心にある塔の下だ」
「ユースティア様はそのどこにいるッスか?」
「知るかそんなこと!」
「…………」
「ほ、本当に知らないんだ!! 俺達に与えられた指令は地下への入り口を死守せよ、ただこれだけだ! どこに聖女が囚われてるかなんて知らない! 本当だ、信じてくれ!」
「……嘘は言ってないッスか。わかったッス。それじゃあ情報提供感謝するッスよっと」
「がっ!」
男が小さく呻き、崩れ落ちる。
「……殺したんですか?」
「ん? あはは、殺してないッスよ。それは姉様の主義に反するッスから。人は殺さず捕らえるようにって言われてるッスからね」
「でもさっき」
「あれは嘘ッスよ。あぁ言うとだいたいビビッて教えてくれるッスから。やっぱり皆自分の命は大事ってことッスね」
そう言って笑うコロネだが、イリスにはどうしても本気にしか見えなかった。
その声音も、手法も。完全にやり慣れている尋問の仕方だった。
「さてさて、ちょっとかまけてみたんスけどユースティア様は地下に囚われてるみたいッスね。でもどの入り口かわからないのは面倒ッスね。とりあえず村の中心の方に行くッス。他の場所は別部隊に任せるッスよ」
「はい。そうですね」
地下への入り口の場所を聞いたコロネとイリスは、そのまま村の中心にある塔へと向かう。
しかしその場所には当然と言うべきか。地下への入り口を守るように複数人の兵士達が立っていた。
「んー、まずいッスね。あの人数を一度で仕留めきることはできないッスし。一人でも逃げられたら騒ぎになってこっちに兵が集まってくるッス。そうなったらユースティア様を探すどころじゃなくなるッス」
目に見える限り、兵の数は八人。せめて全員まとまっているならばコロネが対処することもできたのだが、八人の兵が三つに分かれて周囲を警戒している。
どこか一つを潰している間に逃げられる可能性が高かった。
「こうなったら多少騒ぎになることは覚悟してでも」
「いえ、ちょっと待ってください」
「? どうしたんスか?」
「ようはこちらの存在に気付かれずにあの人達を倒せばいいんですよね」
「そうッスけど……もしかしてできるんスか?」
「コロネ様に協力してもらえれば」
「できることならするッスよ」
「これを、思いっきり向こうへ投げていただけませんか。できればあの兵達がいる頭上あたりに」
そう言ってイリスが取り出したのは三つの掌サイズの袋だった。
「? なんスかこれ」
「眠り粉と麻酔粉を混ぜて作られた特殊な薬品です。何かあった時の自衛のために持たされていたんです。なんでもユースティア様曰く、吸わせるだけで効果があるそうなので。彼らの頭上でそれを射貫きます」
「あぁ、なるほど。わかったッス」
「三つ同時でお願いします」
「えぇ!? いけるんスか?」
「はい。三つまでなら、大丈夫です」
確かな自信を滲ませて。イリスはコロネに告げる。
「わかったッス。それじゃあ行くッスよ!」
イリスが三つの矢を同時につがえるのを見て、コロネは渡された袋を兵士達の頭上に向けて投げる。
コロネの投げた袋は狙い違わず男達の頭上へと飛び、それを見たイリスは三つ同時に矢を放つ。
イリスの矢に撃ち抜かれた三つの袋はその中に入っていた薬を撒き散らす。
「うっ……」
「ぐぁっ」
「ぅ……」
薬を嗅がされた男達は、そのまま意識を失って地面に倒れ伏す。
「おぉ! すごいッスねイリスさん!」
「いえ。連れてきていただいたのですから私も役に立たないと」
「いや、これは大活躍ッスよ!」
「そんなに褒めないでください。恥ずかしいので。それよりも先を急ぎましょう」
「そうッスね。何が待ってるかわからないッスから、注意していくッスよ」
気持ちを落ち着け、警戒心を前面に出しながら地下への入り口を探す。
「ん? ここは……」
手探りで探す中で塔の柱の部分に見つけた小さな突起にコロネは手を伸ばす。そこはスイッチのようになっていた。
「押すしかないッスね」
躊躇いなくボタンを押すコロネ。するとガコン、という音と共に地下への扉が開かれた。
「これは……あったすよイリスさん」
「……この先にユースティア様がいるんでしょうか?」
「わかんないッス。でもとにかく進むしかないッスね」
そして、コロネとイリスは闇のようにぽっかりと口を開く地下へと降りていくのだった。
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