猟奇的な兄貴が「大丈夫?」と聞いてくる。大丈夫じゃない。

mafumi

1.目覚

 その朝は、最悪の寝覚めだった。

 ベッドから身体を起こすと、頭の中で黒い塊がぐるぐると回っていて、ひどく目眩がした。

 まるで二日酔いのようだと思ったが、お酒を飲んだ記憶はない。そもそも、僕は下戸であるから、二日酔いを経験したことがない。おそらく二日酔いとはこういう感じだろう、と勝手に思ったに過ぎない。

 薄目を開けて周囲を見渡した。

 差し込む陽の光にてらされた室内は、恐ろしく散らかっていた。

 ただ、足の踏み場だけは確保しようとした様子で、ベッドから部屋の出口にむかって、細く道があった。僕はベッドから立ち上がり、フラフラと部屋を出た。

 僕の部屋は、我が浅場家の二階の廊下のいちばん奥にあった。その手前には、兄貴の部屋がある。兄はつい一年ほど前に、両親のとりなしで近所にアパートを借りて一人暮らしを始めていた。そして時折帰ってきては、僕や両親らと食事を伴にして、またアパートの部屋に戻って行くのだ。

 それを一人暮らしと言うのかといわれると、ちょっと違うかもしれない。ただ、そんな生活も、もう出来ないのだろうという事は、兄貴も僕もぼんやりと理解していた。

 両親は一階の奥の間で寝起きをしていた。

 今では、その部屋には小さな仏壇があって、その中に両親の写真が収まっている。

 僕らの父親と母親は、僕と兄貴を置いて、つい最近事故で亡くなっていた。

 僕らの生活は、それ以降、少なからず変わってしまっていた。

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