その涙さえ命の色

新吉

第1話 その雨さえ水の色

 なんて呼ぼうか

 雨がなかなか雪にならないことを



 ここはアメのまち。まちの名前ではなく、アメという名前の女の子が住んでいる。アメはあまり似ていない父と二人暮らしだ。山に囲まれアメがよく降る。ここ最近しばらくやまないアメが降り続いている。雨季は特に大きな川ができ、乾季には小さくなる。そして季節がめぐって冬になればアメは雪になる。


 アメはまちにでかけた。ボコチと呼ばれる空も飛べば素早く走りもする、巨大な鳥を連れて歩いている。大きな翼と足と目が特徴でとても人懐っこい。飼っているのは別の人だが、このボコチはアメによくなついていた。



「ボーちゃん、アメ当たって冷たくない?」


「フルルルゥ」



 ボコチが体を揺らし水気を払った。突然の攻撃にもすかさず赤い傘でガードするアメ。



「私は冷たいんだからやめてよ」



 怒ってはいない、楽しげだ。ボコチも悪気があったわけではない様子。首輪に繋がれたツナをしっかりと握り直して、まちを歩く。民家が続いている。家の前と石畳の道のスミは細い水路が繋がる。川へ排水しないと水没してしまう小さなまち。川は海へと流れていく。水でできた道にもアメは降り続いている。



「今年はまだ雪にならないね」



 ボコチに話すでもなく、呟く。今は雨季ではない。山の上は白くなり雪が降っている。しかしまちに降りてくるころにはアメになってしまう。



「同じ名前だし、嫌いじゃないんだけどね」



 アメは真っ白な頭を揺らしながら、傘を回す。

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