3.

〈ウヴェト文明〉の名を初めて聞いた夜から数日後、僕は祖父さんの運転するオンボロ・トラックに乗せられ、町の外の荒野に連れ出された。

 ゴロゴロした石の上で高速回転する無限軌道クローラーの振動に揺すられながら三時間ほど走ると、平たい荒野に突然隆起した小高い丘ような地形に行き当たった。

 近づいてみると、それは、複数の巨岩が微妙なバランスで互いに支えあっている天然の構造物だった。

 支えあう巨岩の足元には、人が通れるくらいの大きさの隙間があった。

 祖父は、その手前で車を停め、「行くぞ」とだけ言って運転席のドアを開け車外に出た。

 僕も慌てて助手席から降り、祖父の後を追った。

 携帯ライトを持った祖父に続いて岩の中に入り、下り坂になった天然のトンネルを、奥へ奥へと進んだ。

 三十分くらい歩くと、広いドーム状の地下空洞に出た。

 明らかに、人工的に造られた空間だった。

 祖父に従い、にぎこぶしほどの大きさの石が敷かれたゆかの上を、ドームの壁に沿って歩いた。

 祖父が携帯ライトで壁を照らした。

 壁は……無数の石化したゴキブリで埋め尽くされていた。

 体長一・五メートル程の半楕円状をしたゴキブリの甲羅が、壁の表面に並んでいた。

「これは……クリスタル・ゴキブリ……?」問いかけるようにつぶやいた僕に、祖父は「ああ、そうだ」とうなづいた。

「ああ、そうだ……数千万年の時を経て石化し、灰色に変色してしまっているがな……足元を見ろ、ソウタ」言いながら、祖父がゆかを照らす。

 石畳を構成するこぶし大の石一つ一つが、石化したゴキブリだった。

「小さいけど……これも……クリスタル・ゴキブリなのかい?」僕は顔を上げ祖父を見て言った。

「いや……」祖父が小さく首を振った。「おそらく別の種類だろう……いずれにしろ〈ウヴェト文明〉によって作られた物には違いないだろうが」

「作られた? ゴキブリの化石が?」

「化石の元になった生物それ自体が、人工の産物だって言ってるんだ」

「生き物が人工の産物って、どういう意味だよ?」

「〈ウヴェト文明〉を築いた古代人たちは、生物を設計し製造する技術を持っていたって事だ」

「じゃあ、〈大糞穴おおくそあな〉の中に居るゴキブリどもは何だっていうんだよ? 祖父さんが糞穴に降りて行って狩っている、あのゴキブリは……僕らが甲羅をいで売り、肉を食っている、あのゴキブリどもは何なんだよ?」

「ウヴェト文明人が滅んだあと、生き残った少数の『被造物』が野生化・繁殖したものだろう」

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