第34話 水の精霊



「ラグナディーン様、どうかわたくしも、幼竜様方が孵化される場に立ち会わせてくださいませ」


「勿論じゃ。そなたは妾に仕える聖女じゃからの、その資格がある」


「……っ! ありがとうございますっ」


「良いよい。我が子らが孵化する時、この際、我が半身にも会わせようぞ。会いたがっておったであろう?」


「はいっ、随分と昔のことですのに覚えていてくださったのですね。嬉しいですわ」


「そなたは特別じゃ。さて、もういつ休眠が終わるかもしれぬ。部屋を用意させたから、今日からはそこで休むが良い」


「まあ、ラグナディーン様。よろしいのですか?」


「聖女になった祝いじゃ。受け取れ」


「はい、ではありがたく。これからよろしくお願い致します」


「うむ。そなたの世話は、この神殿に住み着いている妾の眷属たちがするであろう。おいで、紹介しておこう」


「はい」




 神竜の眷属となった者達が、ここにはたくさん住んでいるらしいのだが、聖女以外は一人も神殿に入れないので、アンドレアも今日初めて対面することになる。

 眷属はもれなく人外で、主が招いた者しか立ち入ることは出来ないという。


 湖の上にあるという場所柄と、主が水竜ということで、一番多い眷属は同属性である水の精霊になるようだ。


 アンドレアの世話は、主に彼らがしてくれるらしい。


 水の乙女達は喋ることは出来ないが共感能力に優れているので、意思疎通に困ることはないそうだ。


 陽気な性格なのはいいのだが、いたずら好きなところがちょっと玉に傷なんだとか。

 昔は幼竜と一緒になってよくふざけて遊んでは、主に怒られることもあったようだ。


 しかし、そこさえちょっと目をつぶれば、自分の領域と決めた場所を整えることに優れ、よく気がつくので神殿を管理させるには最適らしい。




 ラグナディーンに連れられて来た先に、ズラリと並んで控えていた水の精霊は全て女性型で、二人が姿を見せると微笑みながら揃って一礼された。

 こんなにたくさんの精霊を一度に見るのは初めてだ。さすが、この世界の頂点に立つ竜族の居城といったところか……圧倒されそうだ。


 いずれ劣らぬ美しい乙女達からは、歓迎の意が伝わって来て嬉しくなる。


「皆様、ありがとう。これからよろしくお願いしますわ」


 アンドレアが微笑みながら礼を返すと、了解したと言う風に目を会わせてコクコクと頷かれた。人外なのに、そんな仕草は人間らしくて、これなら一緒に暮らして行けそうだと思ったのだった。






 そのまま、彼女の専属を勤めることになった一体の精霊と一緒に、割り当てられた部屋へと向かうことになったのだが、その際、神竜様自ら案内に立ってくれた。ありがたくも恐れ多いことである。



 長くて広い廊下を歩きながら、先程からずっと気になっていたことを尋ねてみた。


「しかし驚きました。初めて入らせていただきましたけれど、神殿の中がこんなにも広かったなんて……予想以上でしたわ」


「うむ。ここは我らが竜体になった時の事を考え、空間を大きく引き伸ばしておるからのぉ。 空間拡張と言う魔法じゃ」


「まあ、そんな魔法があるのですか……とっても便利ですわね」


「重宝しておるが、人の姿で移動するとなると中々大変での」


「ふふふっ、確かにそうですわね。でも、これはとても利便性の高い素晴らしい魔法ですし、人の世にもあればよいのにと思ってしまいますわ……」


「術式を展開するには竜族独自の固有魔法を使う必要があるからのぉ。我らとて、習得には百年単位の修練が必要になるのじゃ。人族にはちと厳しいのではないか?」


「成る程、それは到底無理ですわねぇ」


 残念ながら、習得する前に寿命が来てしまう。




「そうじゃ、この先にある宝物殿には一人で近寄らないように注意しやれ」


 思い出したかのようにラグナディーンが言った。


「宝物殿……ですか」 


「うむ」




 ――竜は元来、キラキラとした美しいものを好んで巣に溜め込む習性がある。


 この神殿はグローリア王国が興ったのと同時期に設建され、それ以来ずっとラグナディーンの巣になっている。

 と言う訳で、約二百五十年の間に溜まりに溜まった、きらびやかで豪華絢爛な宝物がぎっしりと、余多の部屋に詰め込まれているのだとか。


 ―― 眷属達がせっせと整理しているようだが、その全容は神竜様ご自身でさえも把握し切れてないのだという……。





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