ダサエルフから巻き上げろ!
「師匠、これが今持っている我々のすべてのお金です」
「はい」
「わかりますか、この危機が」
「わかります」
「どうすればいいかもわかりますね?」
「わかります」
「では仕事をしましょう」
「はい…」
我儘の申し子のようなニーナが素直に従うのも当然と言えば当然だ。
二人の所持金は合計で5400ゼニー。
この王都での1日の平均的な出費はおよそ2,3000ゼニーと言われている。
つまり切り詰めた生活をしたとしても2,3日が限度、酒などと娯楽に興じる余裕は一切合切なかった。
さすがのニーナでもそれはまずいと思い、素直に仕事をする気になったのだ。
訪れたのはギルド。
下町の一角にそびえたつその建造物は冒険者全員が入ったとしても余裕があるほど巨大だ。
クエストを受けるカウンターや、掲示板などがあるエリア。
クエストを完了した者達が集い食事などをする場所まで完備されている。
二階には商談をする部屋や、緊急案件などを話し合う会議室まである。
そしてそのギルドに集まる人々も多岐にわたる。
人種に獣種。エルフやドワーフに圧倒的に個体数が少ない妖精族まで見える。
ニーナとイールが所属しているギルドは王都唯一のギルドにしてかなりの規模を誇る。
およそ300人近い冒険者が所属している。
しかし比率的には『ブロンズ』『シルバー』と言った下位の階級が7割を占めているため、このギルドで二人しかいない『クリスタル』向けの依頼書は1枚も張り出されていなかった。
「あー依頼書がないんじゃ仕事できないなー、これは帰って剣の稽古するしかないなー(棒)」
「ならゴールドのクエスト行きます、行きます。」
「2回言わなくても…」
「行きます。」
「というより、ゴールドならイール一人でもこなせるでしょ?私いる?」
頑なに働きたくないニーナ。
頑なに働かせたいイール。
そんな世界一底辺なせめぎ合いが繰り広げられていたその時。
「そんなにお金に困ってるなら私と勝負しないかい?」
声をかけてきたその高身長で金の髪を肩のあたりで切り揃えたエルフの男性だった。
整った顔立ち、金色の瞳。
装飾が施されているお高そうな服を着ている。
スタイル抜群でカッコいいというより綺麗と言った印象を受ける。
「もし私と勝負して、勝ったのなら先日達成した『アダマン』の報酬をすべて譲ろうじゃな―」
「受けてたとう!」
「お、おお、それはなにより…」
あまりの即答に引き気味なエルフの男性。
「お金稼げればいいんだよね?んじゃこれも仕事ってことで!」
「ま、まあ今回は許しましょう…」
仕事というより賭け事じゃないかなあ?
まあとりあえずやる気出してくれたしいいでしょう…
「もう勝ったつもりかい?ちなみに僕の階級はこのギルドに二人しかいない『クリスタル』だ。あまりなめてもらっては困るな?」
「へーそうですか。早くしましょう。」
「クッ!この私をアドリアン・ベサンツォーニをバカにしたことを後悔させてやる…!」
「それは楽しみだー、では早くしましょう、えっと…ドリアン・ベンツホニャーンさん」
「殺してやるッ!」
興味もなさそうにそそくさとギルドから出ていく。
そしてギルドのすぐ裏手、冒険者達の鍛錬場として設けられたその場所に向かう。
「もし私が勝った場合、貴様の三神の名を頂く!」
「はーお好きに」
正直なところニーナは三神だの、最強だのすべてがどうでもよかった。
この決闘の場ですら頭の中では『腹減ったなー…カリカリベーコンとお酒で今日はキメたいなあ』などと考えている。
そんなどこまでも上の空なニーナを見て怒りを露わにする。
「どこまでもバカにしおってえええええ!」
激高し細身の剣を引き抜くドリアン、ではなくアドリアン。
クリスタル同士の戦いということもあり、観客は100人以上集まっている。
そんな中イールが声をかけてくる。
「師匠、決して!絶対に!物は壊さないでくださいね!絶対ですよ!」
「わかってるわかってる、だからこれは使わないし安心して!」
そう言い剣をイールに預ける。
「貴様武器も持たずこの私を倒すだと…?そこまで行くと傲慢が過ぎるぞ?」
「まあまあ、そんな傲慢な私を倒せばあなたが欲しい肩書も手に入るしいいじゃないですか?」
そんな語らいの数舜。
アドリアンの超速の突貫。
ニーナの顔面めがけて殺意が込められた突きが放たれる。
その突貫は下位の階級の人達では目が追い付かないほどの速度だが、それを難なく避け次にまた次にと迫りくる剣戟をすべて避ける。
空間を切り裂くような横なぎを。
稲妻のような突きを。
大気を割る袈裟斬りを。
まるで作業かのように淡々と無表情で避けて避けて避けまくる。
そんなニーナを見てアルドリアンは後ろに飛びのき
「貴様!なぜ反撃しない!バカにしているのか!」
「いえ、そうではなく。あなた本・当・に・ク・リ・ス・タ・ル・階・級・の・人・で・す・か・?
「な…ッ!」
「係員さんいますか?」
唐突にギルド職員を呼びつける。
出てきたのは受付にいた猫耳少女だった。
「はいニャ」
「このドリアンなんとかさんって本当にクリスタルですか?クエストの内容見たことあるけどこの人じゃ確定で死ぬ内容だと思うですよねえ…」
失礼極まりないことをペラペラと喋りだし、今にもぶちぎれそうなドリアン、ではなくアドリアン。
「名簿によると確かにドリアンさんの階級は『クリスタル』だニャ」
「ドリアンじゃない!『ア』ドリアンだ!バカにしすぎだろ君たち!!」
「ただ『クリスタル』に昇格した経緯がですニャ…」
ばつが悪そうに喋りだす。
要約すると、そのギルド最強を謳われていたアダマンの人がクリスタルへの昇格が決まっていたのだが、直前にクエストで戦死。他の国にはクリスタル階級がいるにも関わらずこの王都にはいなかったため、宣伝やお国の都合上、不都合だと判断された。そこで白羽の矢が立ったのがドリアンだった。しかし三神の一人、ニーナのギルド加入。ドリアンの実力ではクリスタルでは通用せず無駄死にさせてしまう恐れがあるため、クリスタル階級の依頼は張り出さず、ギルドでも扱いに困っていたらしい。
「何だと!私がただの代理だと…?!ふざけるな!」
「なるほど、納得出来ました、ありがとうございます」
プライドの高いドリアンが自分の経緯を聞いてひどく自尊心を傷つけられる。
ニーナが来るまで唯一のクリスタル階級という誇りが崩れ去り、誰かの代理での位置づけ。
今までのクリスタルとしてのプライドがズタズタにされたのだ、激高するのは当然と言える。
それなのにニーナはケモミミ少女をモフっていた。
火に油を注いだうえに、その中に爆薬を突っ込むような行為を平然とニヤニヤしながらモフっていた。
もうそれは耳から尻尾までモッフモフだった。
「ンニャアアアニーナ様触るのうめえニャアア」
「ふざ…けるなッ…ふざけるなあああああああああ!」
激高したアドリアンがモフられている職員に突貫する。
本気の殺意が込められたその高速の突き。
しかしそんな殺気に気づかないニーナではない。
「グッ?!」
その剣が届く前に、ニーナにより突貫は止められ右手首をつかまれていた。
ギリギリと力を込めて握られ苦虫を噛み潰したかのような顔になっていくアドリアン。
「あなたの相手は私でしょうに。それなのに逆恨みで何も悪くないこんなモフモフの至高職員さんに、一応ではあるが『クリスタル』が本気の攻撃をするなんて…」
目を伏せ怒りに打ち震えるニーナ。
そんな姿を見たイールは『いやあんたが悪いんでしょうが…』と呆れる。
「黙れ!この私をこけにしたこいつらが悪いんだあああアアアアア、待って!ほんと!まじ!やばいああああああ砕けるからあああああああああああ!!」
喋ってる途中に握りつぶされそうになる手首。
あまりの痛みに膝をつき涙目なドリアン。
「何か、言いましたか?」
殺気のこもった紅玉のような紅い瞳が上から恫喝する。
その紅の威圧に戦意を失ってしまう。
もうドリアンの様は狼に睨まれる小型犬並みの迫力しかない。
が、しかしそこでやめるほど優しいニーナではなかった…
すかさず武器を奪う。
「まあ職員に手を上げたからには追放は確定でしょうからこれ以上やる意味もないですが…私の気が収まらないんですよねえ」
「え?」
不敵な、そして圧倒的な圧力を感じる笑みを浮かべながらドリアンさんに死刑宣告をしだす。
恐怖と焦りで顔から噴き出るように汗をかくアドリアン。
それを喜々として眺めるニーナ。
「そうですねえ、もう許してくれと、『全財産』を献上するので許してくださいと。そう思うほどの事をしないと気が収まりそうにないなあ~」
邪悪な笑みを浮かべながら、楽しそうに狂気を発する。
なんて、なんて非人道的なんだろう…とイールは思うものの
アダマン階級の人の全財産、ごくり…と思う一面もあり止めに入れない。
ニヤニヤと笑うニーナに絶望の瞳を向けるアドリアン。
その瞳には時すでに光が消え失せていた。
その直後、奪った剣を数閃。
体は切らず、服のみを切り裂いた。
そしてその場の全員が言葉を失う。
その切り裂かれた服の下にある下着。
そのパンツが。
店に並んでいても100人中100人は手に取らないであろうその哀れなパンツ。
服のセンスと相まってのその衝撃的なパンツ。
「なんで…服は高そうな物だったのに…どうして…」
「なんでパンツだけださいんだよおおおおおおおお!!」
「ししょおおおおおおおおおやりすぎだあああああああ!」
思わずしゃがみこんでいるアドリアンの顔面に、思いっきりハイキックをかましてしまったニーナ。
ぶっ飛ぶアドリアン、巻き込まれる群集、大穴が開くギルドの壁、宙を舞うダサパンツ。
「ししょおおおおおおおおおおおおお!」
「またやっちゃったあああああああああああ!」
あまりの出来事に飛来するパンツのことなど一瞬で皆が忘れたのであった。
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