オヤジ レンタル 株式会社 ディーン☆

遠野 彬

第1話 キュートな 依頼人

ある昼下がりの事…


玲奈「こんにちは~。ココって…オヤジレンタル株式会社…ですか?」


拓人(たくと)は「ああ…?」と言いながら、やっと机の上に上げていた足を下ろした。


玲奈「あのう…オヤジ貸してください! 今すぐ…私、ボディーガードが必要なんです! あの…追われているんです! だから…私をガードしてほしいんです!」


矢継ぎばや に喋る制服を着た女子学生らしき人物は…

「隠れて! そこ! 窓から離れて!」


そう言って彼女も…事務所の机の陰に隠れた!


「追われているのか!」

腰が引けながら机の陰に隠れた拓人の問いには答えず…


玲奈「あいつ! 付けてきたんだわ!……  

ねえ! 契約は3日間! 仕事は私を護る事! 報酬は10万! どう?」


拓人「分かった! 10万で手を打とう! ただし…状況しだいでは危険手当を上乗せして貰うからな!」


それから二人の逃亡劇が始まった。




玲奈「車を手配して! 逃げるのよ!…そう、なるべく遠くが良いわ!」


拓人「分かった! 経費は別だからな! 宜しく… 」


そんな声も…この制服を着た依頼人の耳には届いていない!


この依頼人の足の速さには驚いた! 拓人が走るのが犬の速さだとすると…玲奈の それはカモシカくらい速かった!


玲奈「オジサン! 速く!」


拓人「ああ…なんて日だ! これも別料金で頼むよ!」


玲奈「オジサン!乗って! 早く車を出すのよ!」


玲奈「ねえ…もっとスピード出ないの! 追っ手に追い付かれちゃうわ!」


拓人「いったい…誰に追われてるんだ?」


玲奈「それを聞いたら…あなたも追われる事になるけど…良い?」


拓人「いや…それは困る! こちとら 商売だからな…。まあ言いたく無ければ 別に良いよ。」


二人が一時間ほど車を飛ばして着いた場所は、玲奈が生まれて育ったという温泉街だった。



玲奈「懐かしいわ! そこに車を停めて! 後は徒歩ね。」


道幅の狭い温泉街は町の中央に駐車場があって、そこから歩いて宿に向かうようになっていた。


玲奈「そこを曲がると露天風呂があってね。ここの温泉はリュウマチ、腰痛なんか良いらしいわ。」


車の中から玲奈は ある温泉宿に予約を入れていたみたいだ。


《陶酔館》というナマメカしくもあり、変な名前の旅館だった。


コンパートメント形式(架空の設定)の部屋を予約していて、リビングが共用で寝室が2つあり、友達で利用できる部屋の作りになっている。


玲奈「明日は東京まで足を伸ばすわ! 今のうちに休んでいてちょうだい。 明日は 7 時に出発よ。」


「ええ…っと…。」

拓人は無償ならいろいろ尋ねてみたかったが…有償なので、詮索するのをやめた。


まだ19時というのもあり、玲奈に教えて貰った露天風呂に浸かりに行った。


「あれっ?… 」ふと拓人は[依頼人を護るのが今回の仕事だよな! しまった! 部屋を空けるんじゃ無かった!]


慌てて部屋へ帰って来ると…

リビングで玲奈が倒れていたのである!


「玲奈さん! しっかり! 大丈夫ですか!」

拓人が玲奈を心配して抱き起こすと…


玲奈「うん…大丈夫。 長風呂で ちょっと貧血になっただけみたい…。」



拓人は倒れている依頼人の玲奈を…

リビングのソファーに寝かせてやった。


玲奈「ありがとう…オジサン、私を部屋まで連れて行ってくれないかしら…。」


「ああ…それは良いんだが…オジサンって呼ぶの…そろそろ 止めてくれないかな。」

拓人はそう言いながら玲奈を部屋のベッドに運んでやった。


玲奈「ええ…分かったわ。 何て呼べば良い?」


拓人「名前は出院(でいん)って言うんだよ。」


玲奈「でいん? ……それは 可笑しいわ。 ディーン…そう ディーンが良いわ。」


「まあ…オジサン以外なら何でも良いよ。」

…………


次の朝、玲奈は歯ブラシを咥えたままボーっとして部屋から出て来た。


拓人「玲奈ちゃん、どうだい?体調は?」


「うん…頭がボーっとする以外は大丈夫よ。 じゃあ 9時に出発ね…。」

玲奈はそう言うと部屋に入って行った。

もう一寝入りするつもりだろう。


拓人は8時半にはジャケットにネクタイの服装でリビングに座っていた。


「ディーン…おはよう。」

玲奈は9時丁度に部屋から出て来た。

制服姿でカバンを持っている。



拓人は手際よく車をスタートさせた。

モタモタしてると直ぐに玲奈に文句を言われる……

と思ったから。


拓人「東京で良いんだよな…。 東京のどの辺り…?」


玲奈「麻布十番…。」


「さすがオシャレだねえ…。」

拓人は依頼人への賛辞も込めた。


玲奈「麻布十番の〈CREST〉っていう服飾デザイナーズ・ブランドの店。 母さんがやってるの…。」


拓人「そうなんだあ…。」


玲奈「父さんはメディア系のお偉いさんなんだって…。 私、本妻の子じゃないの…私生児なんだ…。 だけど…お金には不自由した事が無いの。 《父さんに電話しなさい、いつだって助けてあげるから…》って。」


「そういうお父さんなら…俺も欲しいな…」

拓人は打算的な相づちを少し恥じた。

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