第91話 真相
「証人よ、こちらへ」
「はい、陛下」
国母が女王の前に立つ。
「そなたは我が母ノイエダ本人で間違いないな?」
「はい、陛下」
「うむ」
アウラはムスタクのほうを指差し「その者は国母殺害の容疑で拘束されているわけだが、生きている人間の殺人の罪を問うことはできぬ。その者の戒めを解け」と衛兵に命じる。
「はっ」
衛兵は商人の縄を解き、商人は自由の身になった。
ジェイエンはわけがわからずに混乱する。国母は毒入りの葡萄酒を飲んだはずだ。確かにこの目で見たのだ。
そこに、サキが男を連れて部屋に入ってくる。
「この男は、そのムスタク殿の子供を人質に取ってムスタク殿に国母の葡萄酒に毒を盛るように脅した男の協力者です。誘拐犯はもう一人いました。しかし、残念ながらそのもう一人の男は自殺しました」
サキはことの顛末を語りはじめた。
ムスタクは男に会う前、子供を人質にされていることをサキに相談していた。事情を聞いたサキとクワトロは、誘拐犯たちの企みを調べるため商人の後ろに隠れて付いて行っていた。そしてムスタクが男から毒薬を受け取ったのを見届けた後、サキとクワトロは男たちを尾行し子供が囚われているアジトをみつけた。サキらが塀に隠れて聞き耳を立てると、男たちの会話が漏れ聞こえてくる。
――これで俺たちの仕事は終わりだ。このガキはもう用済みだ。ガキを始末してずらかる。俺がやるからお前はガキを抑えていろ
男はそう言って刃物を取り出した、子供は悲鳴をあげようとするが、もう一人の男が布を口に突っ込んできて、声が殺される。
そして男は刃物を振りかざし子供を殺そうとした。
サキはやむなく隠れ家を襲撃して子供を救出することにした。短剣を投げて子供を殺そうとしている男の首を貫いた。
動揺しているもう一人の男は下げていた剣を抜く。隠れ家に乗り込んできたサキに剣を向けるが、手を斬りつけられて剣を取り落とす。
サキは男を縛り上げ、クワトロに秘密裏に応援を呼んでくるように言い含めて送り出す。
誘拐犯の男二人のうち一人は捕らえたが、もう一人は娘を助けるためにやむを得ず殺してしまった。生き残ったほうの男を尋問するが、この男は死んだほうの男に金で雇われただけの男で、首謀者が誰か知らされていなかった。ほんとうにオゾマが首謀者だと思っているようだった。
――俺はそいつに金で雇われていただけだ。俺はそいつが誰の指示で動いていたのか知らない
――オゾマの指示ではないのか?
――そうなんじゃないか。オゾマにとっちゃ国母が邪魔なんだから。確認したことはない。そんなことを知ったところで俺にはなんの得もねえんだから
これでは誰の指図で国母が狙われたかはっきりしない。もちろん、オゾマが国母がムスタクのもとに匿われていることを嗅ぎ付け、暗殺を依頼した可能性もある。しかし、サキの直感は別の可能性を示していた。
「毒入り葡萄酒を国母様に飲ませるように指示した者は、オゾマ殿の手の者だと名乗りました。しかしその者は国母様の居所を知っていることから、オゾマ殿ではなく、国母様の身近にいる人間ではないかと推理しました。そこで、国母様にある提案をしました」
「どのような提案か?」
「犯人の思惑どおり毒を飲んで死んだふりをしていただくという提案です。その狙いは、犯人のあぶり出しです。暗殺に成功したと思った犯人が馬脚をあらわすのではと考えました。これは国母様の安全を確保するためでもありました。国母様が表向き死んだことになっている間、国母様の身は安全です。死人を殺そうとする者はいませんから」
「では葡萄酒には何も入っていなかったのだな」
「正確に言えば、無害な薬が入っていました。ムスタク殿には少し咳き込むだけの体には害のない薬を毒を装って入れてもらったのです。ムスタク殿の動きを真犯人が監視しているかもしれないからです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます