その昔の一大事


「いけない!」

 二人をそのままに、ミコは叫ぶや否や転移しました。

 

 欄間にひもを通しそこにぶら下がっている駒子、すぐにミコはひもを切ったのだがかなり遅かっようです。

 それでも命の消えるその一瞬前に、ミコが仮死にしたのです。


 美しかった顔はパンパンにはれ上がり、舌が長く出ています。

 汚物を垂れ流し、首も少し伸びている以上、骨折もしているようです。


 駈けつけてきた二人の娘は卒倒してしまいました。

 仮死にしたといえど、一刻を争う状態のようで、ミコは呼吸器や脳の損傷を最優先に治療を始めます。


 やっと聡子が気がついた時、緊急の延命処置が終わりかけていた時ですが、ミコは全裸で治療していたのです。

 しかも汚物まみれの母親を治療していたのか、あちこちにそれがついています。


 そんなことはお構いなしに、ミコは懸命に治療しています。

 ミコの治療は切開などしません。

 今回は外傷などほとんど有りませんので、身体内部を復元再生しているのです。

 首が元に戻り始め、ついに舌が縮みだします。


 智子も気がついた時は、駒子の顔の酷いはれが、かなり元に戻り始めたときでした。


 駒子は意識を取り戻しました。

 そして汚物まみれの全裸の自分に気が付き、二人の娘がおろおろしており、ミコが全裸で立っていました。


「駒子さん、大丈夫ですか?息は吸える、喉は?唾は呑みこめる?」

 ぼーとしていた駒子ですが、有無をいわさぬミコの質問に、唾を飲み込んで見せました。


「大丈夫のようですね……」

「ミコ様、とにかくお休みを、いやお風呂にお入りください」

「そうですね……酷く疲れました、すこし身体を温めてきます」


 そういうと、ミコはその辺のカーテンを引きちぎり、身にまとうと、すたすたと浴室に歩いていきます。

「智子!ミコ様のお身体を洗ってさしあげなさい!」

 あわてて智子が浴室へ走っていきました。

 

「お母様……」

 駒子は蒼ざめていました。

「聡子さん、私はこの姿で……」

「ミコ様が治療して下されたのよ、私が拭いてあげるわ」

「……」


「死なせて……こんな姿をさらし、ミコ様にご迷惑をかけ、亡き主人になんといえば……死なせて……」 

 駒子はこのような言葉を繰り返します。


 必死で説得する聡子、そこへバスロープを羽織ってミコが智子をつれて戻ってきます。

「死ぬ?私に迷惑?何をいっているのですか!」

 結構怒っているミコです。


「死ぬというなら、直した私に代価でも支払って頂きます!聡子!智子!鈴木駒子は私のものにします、その身体で代価を支払ってもらいましょう!二人は呼ぶまで部屋の外にいなさい!」


「そんな事……」

 ミコはいやいやをしている駒子を、無理やりに抱きしめます。

 

 二人は命じられるまま部屋の外で待っていました。

 そしてその耳には母親の悲鳴のようなあえぎのような声が聞こえます。

 それは徐々に色っぽくなってきました。

 そして絶叫とともに静かになり、二人は呼ばれたのです。 


 あの一周忌の一件は秘め事となり、知っているのはごくごく一部の者だけ。

 しかし鈴木駒子から憂いが消え、娘たちは足しげく鈴木邸に戻ります。


 そして鈴木邸の離れは、鈴木姉妹とミコの睦事の場所として、メイドの間では認識されるようになり、それはマルス世界の周知の事実となったようです。


 勿論、母娘どんぶりという事も正式に発表されませんが、薄々は知られています。

 このことが鈴木家、そして鈴木商会の日本地区での地位を、盤石のものにしてしまいました。

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