第三章 鈴木駒子の物語 秘め事

たまらない寂寥感


 長谷川太郎が亡くなってから三年後、ナーキッド創設以来の最後の最高幹部、鈴木順五郎が亡くなった。


 二人の娘はいまや寵妃となり、妾腹の嫡男が早く亡くなってしまった鈴木家は、財閥である鈴木商会の指導的地位を親戚のものに譲った。


 マルスの日本地域の首都トウキョウに、広大な屋敷を構える鈴木家の住人も今は妻の駒子一人、数多くの使用人が忙しく働いているが寂しさは隠せない。

 そして順五郎の喪が明けたとき、事件が起こった……


     * * * * *


 早いもので鈴木順五郎氏がなくなって一年がたった。

 男子のいない鈴木家は、鈴木商会の指導的地位を親戚のものに譲って、妻の駒子は名誉会長の座に座っている。


 二人の娘はいまや寵妃となり、マルスの日本地域の首都トウキョウに、広大な屋敷を構える鈴木家の住人も今は未亡人の駒子一人。

 数多くの使用人が忙しく働いているが寂しさは隠せない、それでも駒子は毅然として喪を過ごしていた。


 一周忌を無事に済ませたその日、鈴木邸には久しぶりに二人の娘が帰ってきていた。

 夕食も終り久しぶりの家族の団欒となった。


「お母様、無事に終わりましたね」

「そうね、皆さんにお集まり頂き、お父様も御喜びでしょう」


「ミコ様も来られましたね」

「セレスティア・デヴィッドソンさんも、ローズマリー・ロッシチルドさんもね、ヘディ・ハプスブルグ・ロートリンゲンさんも、来ていただいたようですね」

 二人の娘、聡子と智子の話を聞きながら、名誉刀自仲間の事を思い出していた。


 特に傾きかけたデヴィッドソン財閥を立て直した、セレスティアのエネルギッシュな姿を思っていた。


 ……私にはセレスティアさんのような事は無理ね、幸い鈴木商会には優秀な後継者が見つかったけど、大変だったでしょうね……

 でも少しうらやましいわね、寂しさを忘れられるでしょうから。

 

「聡子も智子も、いつまでいるの?」

「明後日まで休みを貰っているの、そのあとニライカナイで『百合の会議』の打ち合わせがあるの」

「あれ、お姉さまもニライカナイ、私はスリーシスターズの最上級生を案内して、ニライカナイのスペースコロニー1へ行くのよ」


「メイド任官課程の?」

「そうよ」

「今年は六条晶子さんではなかったの?」


 スリーシスターズのメイド任官課程の最上級生は、卒業前の夏季休暇の合間にニライカナイのスペースコロニー1で、他校と合同合宿とすることになっており、その引率責任者として、寵妃が一人つく決まりとなっています。


 慣例として卒業生がいれば、その学校の卒業生となっています。

「ミコ様がご一緒されるのよ」

「それで二人なのね、よく決まったわね」


「皆さま、手を挙げたのでくじ引きとなって、私が大当たりを引いたわけ」

「うらやましい、ミコ様とご一緒なんて」


「そうでしょう、私、ミコ様のお側にいると胸がドキドキするのよ♪」

「どきどきだけ?私ならもじもじするわよ」

「あの時の事を嫌でも思い出すものね」

「ミコ様、うますぎますからね」


 二人の娘の話は徐々に脱線していきます。

 実家という事と、この場に男がいない事で、かなりあからさまな話しとなっています。


 駒子も二人の娘のきわどい話、当初は窘(たしな)めていたのですが、徐々に社会風潮がことミコのメイドに対しては、これを認めるようになって、知らず駒子も仕方ないと思うようになっているのです。


 ただし部外者に対してミコの話は厳禁、ただ二人の母親、駒子は名誉刀自、部外者ではないのです。


「そういえばお母様、ミコ様は今晩離れにお泊り?」

「離れにご用意してありますよ」

 ミコは今晩、この鈴木邸に一晩泊まることになっています、そのため使用人は全員帰宅しています。


「今晩の夜伽は私が当番なの、お姉さまと一緒のつもりなのよ♪」

 嬉しそうに智子がいいました。


 ……ミコ様か……たしかにあの方の前にでれば、どんな女も狂うわね、娘たちの話、仕方ないでしょうね。

 寵妃ですか、聡子も智子も幸せそうね、愛してもらえるのですものね……私は……寂しいことね。


 ふと、寂寥を感じた駒子でした。


 二人の娘は、いそいそと離れに向かうのを見て、駒子はたまらない寂寥感に襲われました。

 そして発作的に自殺を図ったのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る