第二章 長谷川倫子の物語 色仕掛け

とりあえずはパシフィック


 長谷川倫子は未亡人になって久しい。

 夫は元近衛師団長、のちのナーキッドのテラ駐留軍司令官でナーキッド参与の長谷川太郎、最高位は元帥位。

 亡くなった時はナーキッド葬になり、ミコが直々に弔辞を読んだ。


 東京新橋の芸者をしていた倫子を長谷川太郎は後妻にと望んだ。

 先妻の息子は陸軍軍人になって家を出ており、倫子と太郎は仲睦まじく過ごしていた。

 倫子にとって、夫との日々だけが人生の全てといってよかったが……まさか、こんな日々がやってくるとは……


     * * * * *


 上杉忍とセレスティア・デヴィッドソン。

 この二人はなかなかの曲者、頭脳明晰で冷徹な忍と、楽天的で破壊的な行動力のセレスティア、いいコンビのようです。


 忍は久しぶりに軍事要塞でもある二ライカナイでミコの夜伽に呼ばれ、セレスティアを誘って……

 満足して下がった午後、ニラポのドール・鹿の園中央電停前の、二ライカナイカフェでお茶を飲んでいました。


「いつも思うけど、セレスティアさんは大富豪でしょう、こんな粗末なセルフカフェ、つまらないでしょう?」

「いえ、私ここが気に入っているの、誰の視線も気にしなくていいし、それにタダでしょう、女はタダに弱いのよ」


 ニライカナイの住人に必ず支給されるマグカップを手に、マフィンの缶詰などの蓋をあけながら、セレスティアが、

「それにしても、ご主人様は激しいわね♪」

 忍が、

「私なんか素肌が下着に当たると、はしたないことになるわ」

「私たち、所詮はオムツ奴隷でしょう、着けとけばいいのよ」


「セレスティアさん、着けているの?」

「二三日は着けておかなければ、身体がもだえる事になるの、官能をクールダウンするのに必要なのよ」

「クールダウン?私はオムツを着けると、官能がヒートアップするのだけど」


 エロい話をしている二人です。


「それにしてもマニトゥーリン技芸学校の編入生は色っぽいですね、セレスティアさんの特別推薦でしたね」

「あの娘、いいでしょう?アメリカの女ですもの、優秀よ」


「なんせアメリカ西部を背負って行ける人材、それに悩殺ボディでミコ様のご寵愛も夢ではないし、寵妃になれば少しは私的なお願いも聞いてもらえる」

「湯船の戦争に勝てる人材なの、本人にもそこのところを、しっかりとたたきこんでおいたわ」


「北米はこれで何とかなりそうです、メキシコなどの中米も、そのままマニトゥーリンの管理官府に預けるつもりです、南米はそのままでいいでしょうから、これで新世界は軟着陸です」

 忍が独り言のように呟きます。


「そうね」と、セレスティアが言葉を引き継ぎますが、

「この後、どうするの?まだまだテラは、何とかしなければならない地域があるように思えるけど?」

 と、聞きます。


「そうなんですね、とりあえずはパシフィック地域を安定させようと思えます」

「新世界と小笠原の間ですからね、それにヨーロッパ方面は不確定なのはご存知でしょう?」


「旧世界はね……どこもかしこもね……噂では環境ホルモン汚染が激しくてナーキッドでは手に余ると……ミコ様のお力で中和していると聞くけど……」


 忍が声をひそめて、

「内緒なのだけれどね、し尿処理が完璧でなければ無理なの……でも野生の動物には無理でしょう?」

「ボルバキア菌は人だけではないそうなの、おかげで一度はクリーンにした環境ホルモン汚染も進行している地域があるの」


「しかも、いままでのボルバキア菌はオス殺し……今度はメス化が突然変異したそうなの」

「なんとかワクチンを開発したようなのだけれど、環境ホルモン汚染地域で事に及ぶとワクチンの効力が消えてしまうらしい……」


「さらに核の使用された地域ではこのことが賢著なの、北米ナーキッド領域の核の使用地域に男はいないから関係ないし、第四帝国領は放射能汚染はないのではぎりぎりでワクチン効果があるけど……他の地域では……」


「ミコ様なら、環境ホルモン汚染も放射能土壌汚染もクリアに出来るけれど昔のいきさつがね……」

「北米はセレスティアさんの尽力した献上品のお陰でクリアにしたそうよ、中国も同じ理由よ、でもインドもそうだけれど、ヨーロッパはね……」


「テラの再興責任者は大変ね、そう、パシフィック地域ね……ハワイも含むのよね……ねえ、私に考えがあるのよ、訊いてみない?」

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