ミコの女たちⅢ パープル・ウィドウ・コレクション 【ノーマル版】

ミスター愛妻

ミコの女たちⅢ パープル・ウィドウ・コレクション 【ノーマル版】

第一章 セレスティア・デヴィッドソンの物語 パープル・ウィドウ

未知の生物兵器


 セレスティア・デヴィッドソンはなかなかの女である。

 この女が、パープル・ウィドウなどという言葉の元凶であろう。


 明晰な頭脳を持ち、結構な実行力も兼ね備えている。

 なによりアメリカの女、鉄火肌で、しかも女はセクシーが第一と信じている。

 そして夫を叱咤激励して、デヴィッドソン財閥をナーキッド体制の有力三大財閥の一つとさせたのである。


 その夫、ジョンが死に、それゆえに傾き始めたデヴィッドソンの立て直しに成功、セレスティアは甥を後継に指名、第一線を引退することにした。


 そしてお茶を飲み飲み、余生をどうするか考えていた。


     * * * * *

 

 惑星マルスはナーキッド体制の下、繁栄を謳歌している。

 マルスの三大財閥の一角、デヴィッドソン財閥もいろいろあったが、いまもマルス経済に君臨している。

 今日、デヴィッドソン財閥の当主が、セレスティアからジョンの甥に変わった。


 そもそも人類の存続をかけて、ロッシチルド財閥が作成したジョンソンレポート、つまり人類淘汰計画にこのデヴィッドソン財閥が絡んだ事から、ナーキッドが始まったといってよい。


 その後、法王領が『正義と平和評議会』と銘打って参加、会合を持ち、望まない明日を何とか迎えないように、徐々に計画を実行中にミコ様ご一行がやってきた。


 ある日、大気に異変が発生している兆候が判明した。

 デヴィッドソン財閥が、未知のウィルス状のものを発見したのだ。


 そのものは結合して、大きさが原子サイズになった一瞬を、偶然にも試験実験中の、最新鋭ヘリウムイオン顕微鏡がとらえた。

 それは突然現れ、酸素原子にと、なったのだ。


 知られている最も小さいパルボウイルスでも二十ナノ。

 はるかに小さいそれは異常な早さで増殖、翌日にはテラ中に満ち満ちていた。

 

 すぐにロッシチルド財閥と、法王領正義と平和評議会に通知された。

 ロッシチルドが総力を挙げて調べると、その日の午後にはこれは生物兵器の可能性があると判明、さらには空恐ろしい推測レポートがついていた。


 どうやら未知のウィルス状の物は、全ての物質に変質できるらしく、それから推測するとクォークのレベル、大きさはナノの下、百京分の一、アトの世界の代物らしい。


 三者は恐慌しながらも調査を続け、すぐにそのものはある場所に分布が偏り、そのあたりの大気を清浄なものにしていると判明した。


 その場所がマサチューセッツ州ケンブリッジ、その郊外、ボストンの地下鉄のレッドラインの起点、エールワイフ駅近くのささやかな一軒家。

 住人は一人の女、名をアカネ・キッカワ、著名な数学者である。


 夫のジョンはこの時アラブに滞在中、抜けられないのでセレスティアがデヴィッドソン財閥を陣頭指揮。

 アカネ・キッカワを極秘に監視していると、この人物の外出中にパソコンが起動した。


 そして死んだはずの弟、吉川洋人のメールボックスが開かれた。

 それを癪にさわるが、ロッシチルド財閥に間髪おかず知らせたのだ。


 当初はロッシチルド財閥が単独で矢面に立ち、未確認重要事項保護局なるものをデッチあげ接触、そしてそのことが後々のナーキッド体制となっていく。


 その結果、ヴィーナス・ネットワーク・ワールドの中に、マルス経済圏は橋頭保を築きあげた。

 そして二つの星系、ソルとアースガルズに、三大財閥は君臨することになる。

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