雪の白百合

書三代ガクト

第1話 雪の夜

 雪が降っていた。

 今は十一月。雪が降るには少し早い季節。けれど空は分厚い灰色に覆われていて、しんしんと白を落としていた。無感動に、無慈悲に続く色に空気は張りつめて、ピリリと痛い。

 重苦しい雲を眺めていた美咲(みさき)は頭を震わせて、マフラーに口を埋めた。ベンチから飛び出している白い足を眺める。上半身はコートで膨れているのに、太ももがつるりと光っていた。「噛み合わないなぁ」と彼女は自嘲気味に呟く。寒いのにスカートを折っている、そんな自分に向いた言葉は白い息になった。ふわりと広がり、手袋で足をさする。冷たい空気を吸って震えながら、彼女は顔を上げた。

 彼女が座るベンチは小高い丘の公園にあった。せり出すようなそこからは彼女の住む街が見下ろせる。空からの白に息を潜めるよう、街には音がなかった。

 彼女は首を回して、通っている中学校を眺め、この前行った美容院に目を向ける。小さい店には光がなく、今日はお休みだった。

「ちょっとやりすぎちゃったかな?」

 肩でバッサリ切った髪を弄りながら美咲は呟く。くるりくるりと指に巻いて、簡単にほどける感触に少しだけ驚いた。

 彼女はまた息を吐き出して、街をぐるりと見渡す。郵便局の赤を見て、自宅の平たい屋根を眺めて、寄り添うように並ぶクラスメイトの家に目を落した。どちらも頭に白をかぶって、じっと佇んでいる。

「ちょっとやりすぎちゃったかな」

 彼女は目を閉じてまたささやく。自分にしか届かない声は白い息になり、すうっと寒空に溶けていった。美咲はまた空を見上げる。閉塞感さえ感じる灰色と、儚くけれど確かにある白。

 そういえば彼女と初めて話したのもこんな日だったと、美咲は目を閉じた。

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