16.妖瞳の悪魔 -悪魔視点-

※残虐描写があります。ご注意下さい。

苦手な方はお控えください。

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「ちっ」


初めての失態に思わず舌打ちがこぼれる。

木の影に隠れ、背後に迫る敵から身を隠し、この現状をどうにかする為の策を練った。


敵は10人。

ここでは相手を一掃できるような大規模な魔法は使えない。この森の密集具合では、自分にも被害が及ぶ。


「くそっ。囲まれたか…」


相手も自分と同じ殺しを生業にしている奴らだ。

複数相手だろうが、サシだろうが戦えば負ける気は全くしないが、何しろ場所が最悪である。自分とは相性が悪い。運が悪ければ、怪我だけでは済まない。


今までの依頼達成率は100%だ。


殺す時は綺麗に殺す。汚く殺すのは醜い奴か、ど素人がするものだ。傷口は少なく、的確に。狙ったものは逃がさない。相手に恐怖心を与え、死を植え付てから綺麗に殺すのだ。そんな俺に付けられた通り名は《妖瞳の悪魔》。

妖瞳というのは左右の目の色が違うことを意味するらしい。

その名前の通り、俺の目は左右で違う。

この目は俺達の一族の特有らしい。

そして、一族の掟により、片目には生まれた時に紋を刻むのだ。紋は親から子へと受け継がれ、家紋と同じように様々らしい。


その紋は主従関係を結ぶことで発揮されるが、俺は今まで主を持ったことがないため、どのように発動するのかはわからない。

これからも主を持つつもりも無い。


俺は一族の最後の生き残りだった。正確にいえば、最後に生き残ったのは俺達の家族だった。

俺ら一族は短命である。そのため、人数も少数であり、もはや歴史書には伝説の一族と書かれる始末である。


一族が伝説と呼ばれるのは、人数だけでなく、もうひとつ理由があった。


《 妖瞳人 秘術ヲ以ッテ 天ト地ヲ裂キ フタツノ世界ヲ 毀ツ 》


詩として詠まれたこれは昔話か童話なのか小さい頃両親に言い聞かせられた。そんな風に伝わるほど一族の秘術は強大らしい。


《妖瞳の悪魔》は裏の世界では一二を争う暗殺者として有名だが、一族の伝説もあるせいか、本当はそんな暗殺者いないのではないかと思われているのも事実である。けれど実際に俺は存在している。


今回も難なく、依頼は達成した。だが、問題だったのはその後だ。今回の依頼者は、俺がターゲットを暗殺を終えた後に、俺を殺す予定だったらしい。

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予定ターゲットを殺し終えた。


静まりかえる室内は、この部屋の主が元からいなかったのではないのかと思い立たせる。


部屋の窓を開け、十数メートルの高さにもなる場所から飛び降りた。

暗殺終了時の逃げ道として確保しておいた、道を颯爽と駆け抜ける。


その後ろから同業者と思われる追っ手が迫ってきているのは気づいていた。


相手にするほどの相手でもないと判断し、そのままにしておいたのが間違いだったことに気づいた時はもう遅かった。

そして、現在のこの状況に至る。


「ちっ」


と再度舌打ちをする。

冷静になれ。この状況を突破する糸口はきっとある。スっと相手の気配を探る。

綺麗に揃っているようで、技量や配置に少しずつばらつきが見られる。

相手の隙を着くには十分すぎるほどだった。

きっと即興で組まれたパーティーなのだろう。


「めんどくさいが、サシで殺るか。」


にやりと口角をあげ、地面を蹴る。空を舞い、木の枝へとそっと足をついた。気配と殺気を消し、そのまま次の枝へと飛び移る。10人の中で1番技量があると思われる相手の背後に回る。焦っていた自分が馬鹿みたいだ。


「こっちだよ。」


相手が振り返った瞬間の隙をついて魔法を使い拘束する。相手が振り向いた方向には俺はいない。また背後に近づき、そして流れるように背中に手をかける。魔法で鋼鉄のように強化した右腕をぐしゃりと体内へ差し込み心臓を掴む。


「ぐああっ……」


相手が手に持っている暗器をこちらに向けようと藻掻く隙さえ与えさせない。

そしてこう耳元で呟くのだ。


「さよなら」


その言葉と同時に掴んだ心臓を潰す。

そして再度木の枝を伝って次の目標へと手を伸ばす。1人ずつ殺し、人数をカウントしていく。


「10…」


最後の敵を殺し終えた後に自身の鋭くなった右手を元に戻す。右手から滴り落ちる赤黒い液体に俺を顔を歪める。


「汚い。」


こんな雑魚で、俺を殺そうなんて完全に舐められている。右手を振り血を落とす。

相手の持っていた剣などの武器を拾い振り回し、手の馴染み具合を確かめる。その中から気に入ったものを自らの懐に入れた。


確かにおかしな依頼だった。


素手で殺せ。


依頼主はこう言い放った。今思うと、きっと俺に武器を持たせるのが嫌だったのだろう。

俺を殺すために。だが、依頼主は見誤ったのだ。

武器があろうがなかろうが意味の無いことに。


死体を1箇所に集め、死体の山をつくる。

その死体の山を見て、俺は口元を愉快に歪ませていた。


悪魔か…あながち嘘でもないみたいだな。


その足で依頼主の方に向かった。


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「なんだ。生きていたのか。」


依頼主は俺を見下すように笑っていた。


「あの程度に俺が殺されるとでも?」


まあ、油断していた所に来たから一瞬焦ったけどな…


「随分といい奴らを雇ったつもりなんだがな。それで?そろそろ主従契約を私と結ぶ気になったか?」


どうやらこいつは最初から妖瞳の一族のことを知っていたらしく、俺を見つけ出し、自分の下に置くようになった。暗殺者として育ててくれたのも依頼主である、こいつだ。


たがこいつとなんて絶対に結んでたまるか。

主従関係は一族にとっては絶対である。そんな主に俺の家族を殺した本人に選ぶとどうして思っているのか。ふざけるのもいい加減にして欲しい。


依頼主は俺が家族を殺したのは誰なのか気づいてないと思っているのだろう。いや、こいつの事だから気づいているのか?それでいて俺に依頼をしていたなら、こいつはかなり狂ってる。

この事実は俺がこいつの下に着いてから気づいた。


それから俺はいつかこいつに復讐する事を目的としてきた。ただ、それには俺の技量は足らない。

暗殺者として育てたのだから、皮肉なことに俺の技術はこいつには全てお見通しだろう。


秘術でも使えれば、殺せるかもしれないが、生憎俺には主はいない。だから、俺がそれまでの技術を身につけるための辛抱である。こいつの内部にいればきっと殺せるだけの情報が手に入ると思い、今まで依頼を引き受け、こいつの下にいたのだ。


それから俺が年齢を重ねると、主従契約を結べと何度も言うようになったのだ。けれどその前に俺は家族の事実を知ってしまった。


「断る。」

「そうか……ならば貴様を生かしておくことは出来ないが。」

「それも断る。あんたなんかに殺されてたまるか。」


目の前にいる依頼主が手をあげると俺の足元には赤い魔法陣が浮かび上がった。厳密に言えば、足元に浮かび上がる前に飛び跳ね後ろへと下がり回避した訳だが。


飛び跳ね、空中にいると左腕に痛みが走った。


「くそっ」


地面に着地すると、俺と同じように名を馳せる1人の暗殺者がいた。

左腕は傷口はそこまで深くないが、痛みが増してくる。


毒か…いや、呪いか。命を蝕む禁忌の呪い。

赤く浮かび上がった魔法陣が発動源のようだ。

今の攻撃は俺を怯ませるものだった。

どうやらこいつらは俺を相当苦しめて殺したいらしい。


「くっ…」


この呪いは発動者の命を対価とする。

奴らが生きているところを見ると発動者は他にいるみたいだ。まぁ、こいつらが俺を殺すために自分の命を犠牲にするとは思えないけれど。


身体があまり言うことを聞かない。

こうなってしまっては勝ち目はない。

今持てる全力を尽くして、その場から死に物狂いで駆け出した。


追ってくるのは俺の左腕を切ったやつではなく、多分下っ端であろう奴らだ。

あいつは何か余程重要なことがない限り、あの依頼主から離れない。



追っ手から逃げるように、東の方へ向かった。

逃げる途中も何度か攻撃をされ、呪いで上手く働かなくなった身体に鞭を入れるしかなかった。

あいつから受けた傷も意外と深かったらしく血が止まらない。


隣国にある大国に入ったのはいいもの、奴らから身を隠す方法を探る。人が多い所では奴らも手出しは出来ないだろう。そう思い王都の中心部へと進んだ。


路地裏に着くと追っ手の気配が消えた。諦めたのか、一時の避難か。考える時間など、あまりない。とりあえず呪いをどうにかしなければ。


路地裏の壁にそっと寄りかかり、肩で息をする。

すると背後から視線を感じた。

奴らかと思い振り返る。どうやらこちらを見ていたのは年端もいかない、少女だった。


その少女の視線を逃れるようにその場から去り、より奥の路地裏へと入った。


はぁはぁ………息がもたない。

目が霞む…俺もここまでなのかもしれない。


そう俺が覚悟した時、くすくすと笑う複数の小さな声が耳を擽ったが、身体が動くはずもなくそのまま意識を手放してしまった。

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