閑話 宰相子息の片思い
____________最初は興味本意だった。
僕の師はこの国1番の魔法騎士ヴァランガ侯爵閣下。彼は顔に感情を表さない人だった。
綺麗な月光のような髪に太陽のように輝く金の瞳。
歳を感じさせないほどの体型。全てが完璧だった。
だからそんな彼を優しい笑顔に変える令嬢に興味を持った。
「ヴァランガ卿、今日もリリの話を聞かせてください。」
「アレクはリリの話が好きなのか?」
「はい!」
だって彼女は僕のお姫様だから。
笑顔で応えると、そうか。と少し彼の頬が上がった気がした。
宰相の息子。これが僕のレッテル。
いつどこで何をしようが必ずこのレッテルはついてまわる。どんなに辛いことがあってもリリの話を聞くと元気になれた。
だって彼女ドレスをたくし上げて、メイド達と鬼ごっこをしているんだもの。
貴族の令嬢とは思えないでしょ?
ましてやあの名門の侯爵令嬢ときたものだ。他にもたくさんやんちゃな話を聞かせてもらった。その一つ一つをヴァランガ卿はまるで宝物のように語る。
そんな彼女はいつしか僕にとってのお姫様になっていた。
アルといる時はリリのことは聞かなかった。
リリのことは僕とヴァランガ卿の秘密にしたかった。ちょっとした独占欲。
ある時、ぱたりとヴァランガ卿が来なくなった。
騎士団長なのに練習場に来ず、騎士団員も困った様子を見せていた。聞くと、彼の最愛の娘のリリアナ姫が倒れたらしい。
あぁ、大丈夫だろうか…?
しばらくして騎士団員に懇願されたようで、練習場に戻ってきた。僕の剣術の稽古も再開された。
「すまなかったな。アレク。」
「いえ、娘が倒れたんですから、側に居ない方が不自然です。それに、僕はヴァランガ卿がどれだけリリを大切に思っているか知っていますからね!」
しかし、あれからというもの卿の顔が少し曇っている。リリの話を聞くようになってから、卿の感情の変化が見えてくるようになった。どうしたのか聞いてみると倒れた日以来ずっと部屋に閉じこもっているらしい。以前の活発さはなくなり、少し大人びたようだった。以前よりも笑顔が減ったらしい。
卿は酷く心配しているようだったけれど、ひとつ歳をとった事で大人に近づいたんだろう。と親として大人になったリリを想っていたんだと思う。
そんな彼女と初めて会ったのは王族主催のお茶会だった。会場から抜け出す令嬢が目に留まり、話しかけたのだ。
聞けばヴァランガ卿の娘だという。
確かに…目元が少し似ている。髪だって同じ色だ。
愛称で呼ぶのを許してもらい、リリ、アレクとお互いを呼ぶようになった。リリと話すのは楽しかった。
リリと話をすると確かに、以前ヴァランガ卿に聞いた活発の少女と言うより、人見知りな可愛らしい少女と言う感じの印象を与えていた。
会場に戻り、話の続きをしようと思ったが、会場では険悪な雰囲気に包まれていた。
メイドがどこかの令嬢にお茶を引っ掛けてしまったらしい。
貴族社会では、やはり下の者は上の者に逆らえない。上の者は下の者をまるで奴隷のように扱っているのを目にしたこともある。
この国では奴隷制度がなく、きつく取り締まられる。それにも関わらず、こっそりと愛玩用としたりで奴隷を買う人はいるのだ。
だから、その光景を目にしても、あぁ、またか。とそんな風にしか思わなかった。
ふと隣を見てみるとリリが肩を震わせていた。
自分が蔑まれてるわけじゃないのに、まるで自分の事のように震える彼女を不思議に思った。
「リリ…大丈…」
僕が声をかけようすると、こそこそと話していた令嬢に事態を聞き始めた。
一瞬だが、顔が歪んだのを僕は見逃さなかった。
まるで本当に……
いや、そんなことないか。
だってリリは箱入りなんだもの。卿にだってあんなに愛されている。
その様子はしばらく続いていた。
メイドが必死に謝罪を繰り返し、目には涙を浮かべている。
メイドを叩き続ける彼女にはさすがにやりすぎだと思った。だから僕が止めに入ろうとした瞬間に
「やりすぎですわ。」
とリリの声が響いた。急な行動に驚かされ僕は動けなかった。
事態は片付いたようで、僕は真っ先にリリの元に向かった。側に行くと顔色が悪い。
具合が悪くなり帰ると言うので馬車まで送っていった。
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お茶会が終わり、次の日からいつものようにヴァランガ卿の稽古に没頭していると、アルがヴァランガ卿を尋ねてきた。
なんだろうとは思っていても、そこまで気にならなかった。けれどアルは毎日のように卿を尋ねてくるようになった。ここまでの頻度で来るのは珍しい。
「ヴァランガ卿。考えてはくれただろうか?」
卿に向かって真剣な目をして聞くアルは今まで僕が知ってるアルとは別人のようだった。
「殿下は、何故娘と婚約したいのでしょうか。親の私が言うのもなんですが、確かに娘の容姿は整ってるとは思いますが、そこまで殿下が、娘にこだわる理由が見つからないのです。」
アルはリリと婚約したいらしい。
アルはどこでリリを知ったんだろう。
リリは僕の秘密だった。童話の中の優しくて愛らしいお姫様。それは彼女と会っても変わらなかった。
けれど実際に会って、彼女の存在が現実味を帯びたからかまるで本当の愛しい妹のような存在にもなっていた。
リリがアルと婚約………
どうしてかわからないけれど、その言葉に僕は息苦しさを覚えた。味わったことの無い感覚が身体の中を充満していく。
なんだろう…少し痛いや…
ちくりと痛んだ胸をそっと抑えた。
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