2.今世の両親は...

「リリアナ様、お支度整いましたよ。」


ニケは私に素敵なドレスを着せてくれた。

前世では庶民だったせいもあるのかドレスというのも抵抗がある。日本ではほとんどドレスなんて着ない。まさに私も1度も来たことがなかった。

ニケは最初にフリル多い可愛らしい"The お嬢様!!"のようなドレスを私に着せようと張り切っていたが、記憶を思い出した私にとっては相当きつい…というか、こんなのを着ていいのかと恐れ多い。

目立たない地味目のをとお願いしたが、ニケは首を縦に振らず、今着ている可愛らしくフリルも少ないシンプル目のものならとお互いに妥協しあった。





ヴァランガ家には食事を取るための部屋が一つある、貴族の平均的な大きさはわからないが私が思うに結構広い。家族3人にしては大きすぎる机には、父様と母様、私用の椅子が3つ添えられている。




「おお、リリ!もう大丈夫なのか?」

「はい。もう大丈夫です。ご心配お掛けしました。」


夕食の席に着くと先に席についていた父様が私に声をかけてくれた。

外ではあまり感情を出さない父様らしいが、家では色んな顔を見せてくれた。人の顔色を伺って生きていたせいか感情を読み取るのは得意だったりもする。


負の感情に特化しているけど…


家族団欒の席はそのまま続いた。家族と話して気づいたのだが、5年間リリアナとして生きてきたのは私の中では大きいらしい。

前世の私と魂の核の部分は変わらないのは確かだ。

けれど、その核を取り囲むのはリリアナとしての私の性格であって、きちんと侯爵令嬢としての振る舞い方も、活発な少女も消えていない。

あの頃とは違う別の人格が築かれているような感覚だった。

なんとも複雑だ…


今では家族は安全なものだと理解している。

まだ安全と感じられるのは今の家族だけだけれど…

もちろんニケも忘れてはいない。

ちゃんと私の家族の1人に入っている。



「リリ、ぼーっとしてどうしたの?」


いけない。また考え込んでしまった。

母様がこちらを心配そうに覗き込んでくる。


「大丈夫です。少し考えて事をしていただけなので。」

「そう。なら良かったわ。具合が悪くなったら母様か父様、ニケでもいいからちゃんと言うのよ。」


はい。と笑顔で答える。

食事も終盤というところで父様が私に向かって口を開いた。


「…んん゛…リリ……今日王家から文が届いたんだが、一月後に王家主催の茶会を催すことになったらしい。そこにリリも是非にとのことだ。正式な社交界デビューはまだまだ先だが、この茶会にはデビュー前の御子息や御令嬢がかなり来るみたいなんだ……同世代の友達も欲しいだろうし…どうだ?行ってみるか?」




お茶会…?今お茶会と言いましたか?

お茶会……実にハードルの高い…

…高すぎませんか…??



貴族の御子息、御令嬢が揃うとなっては尚更高すぎる。



元の私なら紛れもなく行くだろう。絶対いく!と身体を乗り出しながら返事をするに違いない。

友達が欲しい!とはしゃぎまくっていただろう。

だが、今の私にとって『お茶会』『友達』この2つの言葉は実にハードルの高いものとなっていた。

父様は行くかどうか聞いてくれてはいるが、王家主催となってしまっては断ることはできないと幼いながらに知ってはいる。


精神年齢はとっくに成人を迎えているので、幼いながらと言っていいのか分からないけど…




前世に比べてかなり容姿は優れていると思っている。何せ、母様と父様の子供なのだ。整っていないわけがない。前世の知識を使っていうと、芸能人と言われてもおかしくないほどなのだ。スクールカーストの頂点に君臨するような美男美女だ。

その美貌は王国内でも評判のようだし、私と母様は瞳の色以外は瓜二つだった。

見た目でとやかく言われることはないだろう。多分……


だとしても怖いものは怖い…


人に会うのが。


話すのが。






「行くよ!」


精一杯の笑顔と活気のある声色をして答えた。

ここで、行かない。といったら父様と母様に迷惑をかけてしまうかもしれない。2人に失望されてしまうかもしれない。

王家からの招待じゃなくても私の選択肢は一択なのだ。



「そうか。」

「うん!すごく楽しみ!!」


楽しそうに笑う私に父様は嬉しそうに笑顔を向けてくれた。


「たくさん、友達を作っておいで。」








ほら…これが正解だ……

笑ってくれた







「それと、いい機会だからリリに家庭教師を付けようと思うのだが…」

「家庭教師ですか?」

「あぁ、魔法学はまだ学ぶにはまだ幼いが、作法などの知識は早い方がいい。茶会だって作法がないと厳しいだろうしな。」


確かに、お茶会にまで行ってやらかすことはできない。失敗は許されない。嫌われたくない。だから家庭教師は私からも是非お願いしたいと思った。




「父様…私頑張りますね!」

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