第688話 作戦3


 バルトーラの街を救う為の作戦概要説明が続く。


 立ち並ぶメンバーを前に、声を張り上げて人選と任務の内容を語っていく。


 

「次にボノフさんの事務所だが………、秘彗、剣風、虎芽に行ってもらう。ボノフさんへの説明は秘彗にお願いすることになるだろう。一番は俺の巨大戦車で保護することだが………、無理強いは出来ないし………、流石にまだ何も起こっていないのに、戦車で街中に乗り込むわけにもいくまい。状況によって藍染屋事務所で籠城することも考慮に入れてくれ。その辺りの判断は秘彗に任せる」


「はい、お任せください」


 

 三角帽子に藍色のローブといった由緒正しき魔女姿。

 煌びやかな杖を片手に持つ可憐な魔法少女、秘彗。


 大役を前に臆することなく俺の命令を受諾。

 可憐な少女の外見ながら凛とした雰囲気を纏い、

 今回の作戦の一班を任せるに相応しいリーダーとしての風格を感じさせる。


 機械種ミスティックウィッチと機械種メイガスのダブルであり、

 白兎から『天兎流舞蹴術』を学んだ拳士。


 さらにストロングタイプチームの中では最古参であり、

 緻密な戦略思考、優れた戦術眼を持つ才女。

 今回の作戦でも、白兎、ヨシツネ、豪魔に混じって意見を述べ、万全と思える戦力配置を企画・立案。

 作戦の骨子と言うべきモノを構築してくれた。


 また、天琉や胡狛と絡んでいる時は幼く見えるものの、

 戦場では眉一つ動かさずに冷静に敵を薙ぎ払う魔女としての一面を見せる砲撃型。

 さらには、ダンジョン内で緋王相手に近接戦を挑み、一撃を与えたという実績と胆力を併せ持つ。

 

 『知』と『勇』をバランス良く備えた知勇兼備を地で行く少女。

 秘彗であればボノフさんの意見を聞きつつ、臨機応変に対応してくれるであろう。



 

「剣風。最悪の場合、ボノフさんをお前の翼で運ぶこともあるだろう。丁重にエスコートを頼む」


 コクッ

 カチャ



 会釈を返した上、腰の剣を抜いて掲げ、拝命の印とする剣風。

 堅苦しい程に格式ばった応答、だが生真面目な剣風にはそれが良く似合う。


 一見、武装は腰に佩いた剣のみに見えるが、主力武器は全長3mもある巨大な槍。

 自身の代名詞である『竜鎧砲槍』。

 今は亜空間倉庫の中だが、一度取り出せば、何物をも貫く破壊力、質量弾・粒子加速砲をばらまく制圧力、地を駆け空を行く機動力を発揮する。

 

 『竜鎧砲槍』の5つのモードを使い分ける高機動騎士。

 機械種パラディンと機械種ドラグーンナイトのダブル。

 彼の騎士であれば、必ずやボノフさんを守り抜いてくれるだろう。



 

「虎芽。『鐘割り』相手に戦闘になった場合、お前の拘束術に頼ることになる。傷つけずに捕らえるなら『白の恩寵』も問題無いだろうし、『整体』スキルもあるからな」


「はい! お任せくださいだガオ! 『関節技サブミッション』は得意だガオ。タワ○ブリッジやパ○スペシャルをかましてやるガオ!」


「あれ? それって関節技なの? 」



 有名なキン肉○ンに出てくる脱出不能と言われた必殺技。

 投げ技や打撃技じゃないのは間違いないが………



 当たり前だが、白の恩寵の元では関節技も駄目。

 しかし、虎芽には『整体』スキルがあり、骨を折ったり、筋を引き千切ったりしないかぎり、締め付けたり関節を曲げたりして痛みを与えるのはオッケーなのだ。

 また、整体の治療行為の一環として、血流を止めて気絶させることすらできる。

 

 ここが白の恩寵の盲点と言える。

 まあ、整体って、場合によってはとっても痛いモノだからね。

 


 虎耳、虎縞メイド服を装備した虎メイドである虎芽。

 虎風味が混じったボーイッシュな格闘家少女といった風情。

 機械種タイガーメイドと格闘系のストロングタイプである機械種チャンピオンのダブル。

 

 手加減の利かない銃や、殺傷能力の高い刃物を持たず、徒手空拳が基本武装となる虎芽は、『加害スキル』を持っていなくても人間相手にある程度戦える仕様。


 もちろん大怪我を負わせるような攻撃は出来ないだろうが、1人や2人ならあっという間に取り押さえられる技量を持つ。


 また、閉所での戦闘も得意である為、万が一、ボノフさんの事務所を守る機械種達がレッドオーダー化してしまっても、最小限の破壊で仕留めることができる。


 奥の手は、自身の能力値をアップさせ、低ダメージカット、ノックバック無効化等の効力を追加する『虎無双』。

 この奥義により、虎芽は格下相手の掃討には絶大な力を発揮する。

 


 

 秘彗が障壁で事務所を守り、機械種相手なら剣風が、人間相手なら虎芽が戦う。

 

 白の教会や孤児院と違い、強敵や超高位機種が攻め入って来る可能性が低い。

 故に、この3機でボノフさんを守り切れると判断。



「頼んだぞ。俺がこの街で一番お世話になった人なんだから………」


 

 決定した以上、後は秘彗達に任せるしかない。

 万感の思いを込めて、再度3機へとボノフさんの守護を願い求めた。








「次に孤児院。派遣するのは浮楽、剣雷、辰沙の3機。向こうには白兎の弟子の白千世がいるから上手く連携して対応してくれ。敵は『魔人型の紅姫』。おそらく浮楽が倒したカーミラに近い機種だろう」


「ギギギギッ!」



 もちろん覚えていますよ! とばかりに両手を挙げてアピールしてくる浮楽。

 

 当時の浮楽は機械種デスクラウンであり、錫杖と鉄杭、鉄鎖などの拷問器具を扱う殺戮道化師。

 以前はホラー映画に出てくるような殺人ピエロそのままであったが、今の浮楽は子供番組に出て来そうな可愛らしいピエロ少女。

 

 しかし、その実力はランクアップしたことにより倍以上。

 たとえ敵が紅姫であろうと互角以上に戦えるはず。


 さらに浮楽を幼くしたような従機を5機保有し、サポート体制も万全………



 とか、考えていると、



 俺の思考を読んだかのように、パッと浮楽の後ろに現れて、戦隊モノのようなポーズを決めてくる5機の少女型従機。


 一見、まんま浮楽の妹であるかのような外見。

 

 ピッチリとした体操服を着た空中ブランコ乗りAとB。

 カウボーイ姿の投げナイフ使い

 燕尾服を着こみ鞭を持った調教師

 猛獣を模した着ぐるみ被った少女。


 これぞ、『狂気を振り撒く月光曲芸団ルナティックサーカス』。

 浮楽率いるサーカス団員達………


 

 しかし、彼女達がサーカス団員とするならおかしな点が1つ。


 

 それは彼女達が身に着けた鉢巻きやタスキに書かれた、どこかで見たことのある標語の数々……



『労働者に正当な権利を!』

『明るい未来の為に賃上げを求む!』

『経営者は従業員の安全を守れ!』

『立て! 労働者たちよ!』

『肥え太った豚に鉄槌を下せ!』


 

 う~ん………

 何とも言えないなあ………

 あと、1機、物騒なことを言っている奴がいるぞ。


 

 俺が空中庭園を散策していた最中のこと。

 あまりの非道な扱いに浮楽の元を去った従機達。


 その後、転職活動に勤しみ、インターンと称してメンバー達の元を転々とした挙句、

 俺の元へとやってきて、『直接雇用してほしい』『正社員になりたい』と直談判してきたのだ。

 

 そして、白兎を交えて色々と話し合った結果、

 恐らくこの世界では初めてであろう従機による労働組合が作られることになった。


 その後、彼女達は図書室にある『労働法』関連の書籍を読み漁り、

 誕生してしまったのが、今、俺が目にしている状況。




「おい、浮楽。大丈夫なのか? ソイツ等」


「ギギギギギッ!」


 フルフル



 思わず浮楽に近寄ってヒソヒソと尋ねてみると、返ってきたのは意外にも上手く行っているとの答え(白兎翻訳)。


 浮楽は社労士の資格を取った(自称)廻斗を雇い、色々と助言を貰いながら労働環境の改善に取り組んでいるらしい。

 結果、サーカス団員達の士気も上がり、パフォーマンスも向上したとのこと………

 


「あっそう………、まあ、上手くやれて何よりだ」


「ギギギギギ!」



 俺に褒められて嬉しそうに笑う浮楽。

 秀麗な顔立ちの中、口だけをグイッと大きく横に広げたアンバランスな笑顔。

 美少女の外見であるはずなのに、見つめているとどこか不安になっている奇妙なビジュアル。

 

 その表情から何を考えているのか読み取るのは不可能。

 浮楽はエンターテイナーであり演技者でもある道化師なのだ。

 その心の奥を見通すなんてできるはずもない。



 さてさて、一体どこまで本当のことなのやら…………


 とりあえず、浮楽は置いておくとして、




「剣雷。街中だからお前の雷双大剣は振るいにくいかもしれないが、浮楽と共に襲ってくるであろう紅姫の討伐を頼むぞ!」



 コクコクッ!

 グッ!


 

 俺の言葉に頷きを返し、その手をグッと握って力強さをアピールしてくる剣雷。

 先ほどの固い剣風の返事に比べると、やや軽い感じの返し方。


 ほぼ同時に仲間入りした剣風と剣雷。

 当初は区別がつかない程、似通った性格であったが、俺が2機目の紅姫を討伐した辺りから徐々に個性を出すようになった。


 こんな所で2機の差が生まれてくるとは………と、つい面白さを感じてしまう。


 

 剣風は竜騎士の職業を追加したが、剣雷が追加した職業は攻撃力特化の『破騎士』。

 機械種パラディンと機械種バスターナイトのダブル。


 身長は剣風よりも20cm程高く、全体的に分厚くゴツイ印象。

 ダブルになったことで会得した固有技は、2本のプラズマソードを振り回す『雷双大剣』。


 近接戦に限ればレジェンドタイプの近接系にも迫る勢い。

 さらに『磁力制御』を得たことで、プラズマソードを収束して砲弾の形で撃ち出すことも可能。


 元々防御力に長じた騎士系に破格の攻撃力を加えたことで、攻守に優れた仕様へとランクアップ。

 正しく騎士の鑑として成長を果たした。



 浮楽の戦闘力は臙公・紅姫上位並み。

 剣雷は橙伯・赭娼並みといった所。

 これに孤児院にいる白千世を加えれば戦力は万全。



 正直、加害スキルを持つ浮楽は俺と一緒に白の教会へと来てほしかったのだが、敵が紅姫とするならタキヤシャか浮楽を出すしかない。


 なにせ、トップ4はすでに熾天使型に当てているのだ。

 故に、孤児院を何度も訪れたことがある浮楽を選んだ。

 おまけに子供を守るには最適な可愛らしい容姿を従機が5機。

 タキヤシャの従機ガシャドクロでは、逆に子供達がパニックになってしまうのは確実。

 

 そして、もう1機、子供達の守りとして付けるのが辰沙。



「辰沙。悪いが、マリーさんとの交渉はお前に任せる。この通り、浮楽も剣雷もしゃべられないしな」


「はい。お任せください………ドラ」


「それに防御力に長じたお前なら、子供達を守り通してくれるだろう」


「身命を賭してお守り致します、ドラ」


「おい、本当に命を賭けるのは止めてくれよ。確かに子供達も大切だが………、俺としてはお前達も大事なんだから………」


「はい、承知しております……ドラ。この身はマスターにお仕えする為に存在するモノ。決して不用意に捨てたりは致しません………ドラ」



 淡々と自身の身上と意気込みを語る辰沙。

 竜の角、竜の翼、竜の尾を持つ竜メイド。

 3メイドの長姉であり、我がチームの女性メンバー中、最大の胸部装甲を誇る美女。


 機械種ドラゴンメイドと機械種バーサーカーのダブル。

 落ち着いた所作でメイド達を率い、戦場ではその剛腕を振るって敵を粉砕する戦士でもある。


 近づけば巨大な戦斧の一撃が繰り出され、離れたらドラゴンブレスが飛んでくる。


 竜の翼で飛行も可能であり、イザとなれば自身の戦闘力を倍化させる『逆竜強化』を固有技として保有。


 敵味方の判別が曖昧になる為、味方や守るべき子供の近くでは使えないが、単騎突撃して暴れ回ることで、短時間であれば重量級の紅姫さえ上回る戦闘力を発揮する。

 


 浮楽と剣雷がタッグを組んで魔人型の紅姫へと真っ向から挑み、辰沙がそのフォローと子供達の守護。

 そして、トアちゃんの護衛である白千世の参戦も期待できる。

 いかに魔人型の紅姫でも3倍近い戦力の前には敗退するしかあるまい。

 これで孤児院の防衛は万全であろう。








「最も重要なの守護対象である白の教会は俺とタキヤシャで行く………、いいな、タキヤシャ?」


「はい、貴方様のご随意に」



 俺の問いに小さな声でポソポソと返すタキヤシャ、


 花魁衣装に簪で飾られた日本髪。

 花模様で彩られた美しき妖術姫。

 見かけは派手だが、その言動は上品で物静か。


 『呪い』と『復讐』に触れなければ、女性陣の中で一番お淑やかな性格かもしれない。


 だが、その戦闘力は浮楽、輝煉、天琉と並び、トップ4に次ぐ。

 ガシャドクロの名を持つ従機を中隊規模で保有し、近接戦、中距離戦、遠距離戦も熟す万能振り。

 

 特級スキルである『呪詛』を保有しており、敵を弱体化させるデバフ技が得意。

 また、同じく特級スキルの『復讐』により、自分やマスターである俺、味方を攻撃した相手に対し、強烈なカウンターを仕掛けることができる。

 さらにこのスキルは白の恩寵下でも、俺に対して敵対的な行動を取る人間を攻撃できる『加害スキル』に属するモノ。

 

 タキヤシャであれば、最も白の恩寵が強い白の教会内でも、人間相手の戦闘が可能。

 今回の作戦の俺の相方に相応しい仕様。

 

 

フルフル?

『本当にマスターとタキヤシャだけで大丈夫? もっとメンバーを割り振った方が良くない?』


「そうは言っても、これでギリギリ。他の面子だって、余裕があるわけじゃない」



 白兎が心配そうに耳を振るって確認してくるが、今言った通り、戦力配分に余裕は無く、想定できるリスクをできるだけ抑えようと思えば、これしかないのが実情。



「それに、白の教会にだって、守備兵はいるぞ。ストロングタイプ10機以上は確実にな。それも感応士をマスターとする………」



 感応士をマスターとする従属機械種は『白の恩寵』の影響を受けない、若しくは無視しても良いレベルにまで軽減されるという。


 つまり『鐘割り』相手にも全力で戦えるのだ。

 俺がきちんと事前に『鐘割り』の情報を伝え、奇襲を防ぐことができれば、白の教会はそう簡単に落ちたりはしない。


 おまけに、白の教会には門番としてレジェンドタイプが存在する。

 

 未来視では、白兎とヨシツネ相手に接戦を繰り広げた強者。

 今回味方として俺と轡を並べてくれるとすれば、これ以上頼もしい援軍は無い。



「それに、白の教会にはラズリーさんもいるし………、まあ、白露の護衛に専念してもらうけど」



 正直、俺にとっては街の存続に関わる白鐘よりも、白露の方が大事。

 もちろん白鐘が破壊されたら、街の住民はおろか、ボノフさんや孤児院の子供達も大変。

 だが、俺が最上級の白鐘を保有していることもあり、最悪の場合、どうにかなるのだからどうしても優先順位は白露となる。 

 

 

「今度こそ、絶対に白露を守る………」



 未来視で見た悲劇を繰り返させてなるものとか! と、

 俺は万感の思いを込めて、誓いの言葉を口にした。









「次に街中でテロを起こす『鐘割り』達への対処だが…………、ロキ! これはお前の役目だ、分かっているな!」



 少し離れた所で座り込むロキへと語気を強めに語り掛ける。



「お前は分身を50機以上作れたはずだ。その分身を使って、街で暴れようとする『鐘割り』………赤能者を仕留めろ!」


「………………」


「それに、お前は人間の身体に干渉する能力もあったな。外道の連中だが、殺してしまうと後から文句を言われるかもしれん。それに間違う可能性だってあるから、できるだけ殺さずに済ませろ。一時的に腕や足を動けなくして、意識を失わせることぐらい簡単だろ」


「…………………なんで、マスターが僕の能力を知っているのか、不思議なんだけど? ………特に人間相手への錬成制御の行使は僕の秘奥だよ」



 表情を消して、じっと俺の方を見つめてくるロキ。

 蒼く光る目を不規則に瞬かせ、感情の乗らない声で質問してくる。



「もしかして、僕、レッドオーダーだった時に、その能力を使った? 普段、人間相手には使わないようにしている能力なんだけどね」



 さっきみたいな馬鹿に陽気な感じでも無く、

 ただ、純粋に興味があるから尋ねているような雰囲気。


 もちろん、俺がロキの能力を知っているのは、未来視でのプーランティア虐殺からの情報。


 俺の復讐の対象であった人間に活用したのだ。

 それも俺の復讐心を満たすための拷問として。

 主にエンジュに乱暴を働き、殺害した連中相手に。


 

 皮膚を全部剥がしたり、

 骨全体に細かいヒビを入れたり、

 身体を作り変えて奇妙なオブジェにしてやったり、

 顔を醜く変えたり、身体を風船みたいに膨らませてやったり、

 

 

 まるで悪い魔女の呪いのような能力。

 機械種相手になら『干渉特性』により錬成制御が効くのは分かるが、

 まさか人間の血肉に干渉できる程のモノとは、実際この目で見なければ、なかなかに信じられるものではない。



 機械種ロキの原点である悪神ロキも変身魔術の達人であった。

 自分は元より、他人を変身させるのも朝飯前。

 

 これ等の能力が悪神ロキの再現だとしても、あまりに異質な能力であろう。

 彼の錬成制御は、触れることで機械種の機体の形状を変化させ、人間の肉体すら弄ることが可能。


 ただし、ロキの属性故か、修復、治癒方面には全く活かすことができないらしい。

 逆に何度も形状を変化させていると、その部分が脆くなると言うのだから、敵への嫌がらせとして利用するしか使い道が無い。


 自機を変化させるのは問題が無いそうなのだが………



「ねえ、マスター……、あ、いや……、あの魔王型に倣って、違う呼び方が良いかな……………、そうだ! 『陛下』ってどう?」


「俺は王様じゃないぞ」


「ボクがそう呼びたいの? だって、ボク達の王様でしょ~」


「…………フンッ、好きにしろ」


「じゃあ、陛下。僕の質問に答えてほしいな………、なんでボクのこと、知っているのか………」



 そこで媚びた表情を浮かべるロキ。

 ネットリとした甘い蜜が絡むような声。

 目を潤ませ、蕩けるような笑顔を見せる。



 免疫が無ければ、動揺を隠せなかったかもしれない。

 だが、日常的にベリアルの誘惑に晒されている俺にとっては、眉を顰める程度の反応。

 

 未だ信頼すべき仲間とは思えないロキのことだ。

 心を許し、受け入れるだけの土壌が無い。



「今は教えるつもりは無い………、ただし、今回の作戦で自身の役割をキッチリ果し、実績を残したら少しは考えてやろう」


「フフフ……、つれないなあ~~、陛下は随分と堅物なんだね~」



 嫣然とした雰囲気を霧散させ、不意に子供のような無垢な表情でニッコリと笑い、



「なら、がんばるしかないね~。ボクの活躍を期待しておいてよ…………っと、言いたいところだけど…………」



 そこで言葉を切り、俺に近づいて来て、下から見上げるような仕草で、



「街中で暴れる『赤能者』を抑えるって言っても、どこで起こるか分からないんだよね? この街って、随分広いんでしょ。ボク、この街のことほとんど知らないから、効率的にテロを鎮圧するなら、街に詳しい人を付けてもらいたいんだけど~?」



 ロキからの要請。

 それは実にもっともらしいお願いであり、言い出しても当然のこと。


 

「もちろん、陛下が信頼できる人を、だよ。できればボクと相性が良さそうな人がいいな。ここに並ぶ先輩達の誰かでも良いし…………」



 そう言って、立ち並ぶメンバー達の面々を見やる。


 どこか楽し気であり、そして、なぜか獲物を見定める蛇のような目。

 

 当然、ロキが目をやるのは、『熾天使型』へと向かうトップ4や、別動隊を率いる浮楽でもタキヤシャでもない。


 自身よりはっきりと格下であるストロングタイプの面々。

 また、森羅や廻斗といった下位機種達も候補である模様。


 

 おそらく与しやすいと判断して人選であろう。

 緋王からすれば、懐柔するなんて簡単! とでも思っているに違いない。

 または俺と親しい人達を知ることで、俺の弱みを握ろうとしているのか……


 

「安心しろ。お前にはピッタリの人を用意してやる。俺がお世話になった方で、この街に長く住むベテランだ」


「へえ? それは楽しみだね~、ボクの陛下がお世話になったんなら、きちんとボクからもお礼をしなきゃね」



 ニシシッ! と悪戯っ子のように笑いながら、余計なことをします宣言を行うロキ。

 誰の下に就こうと自分を掣肘出来るはずが無いと思い込んでいる模様。



 ここでお前の下らない目論見は、到底あの人には通用しないことを教えてやりたいが、それは直接思い知った方が良いと判断。

 

 少し迷惑をかけるかもしれないが、この癖の強すぎるロキを上手く活用できそうな者など、あの人以外に考えられない。


 

 もちろん、『あの人』というのは、レジェンドタイプ、機械種カラミティジェーンである教官のこと。


 元々、協力要請を行うつもりであったし、天琉と廻斗も預ける予定。


 俺とタキヤシャ、ロキで教官の元を訪ね、事情を説明してその場でロキを引き渡す。

 そして、教官の指示の元、ロキの分身を使って街中の鐘割りのテロを未然に防ぐ。


 俺では50機を超えるロキの分身を上手く使うことなどできるはずもない。

 万が一、教官がロキを拒否した場合、その辺りは指揮スキルを持つタキヤシャに任せるしかないのだが………

 






『こぼれ話』

機械種のマテリアル術における人体への直接的干渉。

炎や重力など生じさせての間接的な干渉ではなく、人間の身体に対して直接影響を与えるマテリアル術。


錬成制御で傷を接合し、虚数制御で身体能力に制限を加え、現象制御で人外の能力を発揮させる。


この世界ではほとんど知られていない極秘情報となります。

これ等の能力を使用する為には、等級の高い『干渉特性』を保有している必要があると言われています。



『なぜマテリアル術が機械種だけでなく人間の身体に直接影響を与えることができるのか?』



稀にこういった疑問が学会に提出されることがありますが………


即座に抹消され、闇に葬られるという噂です。







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