第649話 宝箱6




 俺が朱妃イザナミを討伐し、手に入れた宝箱は3つ。


 一つは、最もオーソドックスな宝箱。

 おそらくは武具やアイテムが入っていると思われるタイプ。


 一つは、中量級人型機械種用保管庫。

 朱妃を倒して出てきたのだ。

 レジェンドタイプ以上の超高位機種に違いない。


 最後の一つは超々大型の宝箱。

 1辺が2kmもある、もはや宝箱と言えない大きさの……宝箱。

 入っているのは、空の守護者を倒して出てきた『空中庭園』に類するモノであろう。

 

 だが、どうしても腑に落ちない疑問が一つ。


 

「あの、超巨大宝箱…………、俺以外の奴って、どうやって持って帰るんだろ」



 そもそもダンジョンの最奥で手に入る予定のモノなのだ。

 あの大きさの宝箱をどうやって地下110階から地上へと持ち帰れと言うのか。


 亜空間倉庫でもあの大きさを収納するのは不可能。

 どれほどの超高位機種だって、1k㎥の亜空間倉庫は持っていないはず。


 無限収納である七宝袋を持つ俺だからこそ、何事も無く回収できた。

 しかし、もし、あの場にいるのが俺では無ければ、折角出てきたお宝をみすみす放置して帰るしかなくなってしまう。

 

 それはあまりに理不尽。

 この設定を考えたやつをぶん殴りたくなってくる。




 俺の疑問に対し、答えてくれたのは我チームの知恵袋たる胡狛。



「ダンジョンの最奥まで辿り着くような狩人になりますと、必ず超高位機種を従属されています。その中には創界制御を持つ者がいるでしょうから」


「ああ、そう言えば、そうだな」



 亜空間倉庫は無理でも、創界制御で作り出した異空間なら収納は可能か。


 出し入れは亜空間倉庫ほど簡単ではないが、その空間の広さは文字通り桁違い。


 確かに創界制御を持つ機種が仲間に居れば回収できるだろう。




「じゃあ、早速宝箱を開けてもらうとするか。白兎、胡狛、玖雀」


 パタパタ

「はい!」

「お任せください、チュン」


「では、出すぞ」



 七宝袋から3つの宝箱を取り出して並べる。


 『小』、『中』、『特特特特特特特特特特特特特特大』


 並べるとこんな感じ。



「小さい宝箱から頼む」


「承知しました」


 

 まずは胡狛が宝箱の罠を確認。

 この罠発見・解除は胡狛の独壇場。


 こればっかりは白兎でも敵わない。

 罠師系という罠に特化した機種特性と整備士系としての技術力、そして、長年培った経験が胡狛を世界有数の達人へと押し上げているのだ。

 この世界において、彼女を上回る技量を持つ存在は『罠』に関した逸話を持つ英雄か神だけであろう。 


 

「………………終わりました。なかなかに手強い罠でした」



 そう胡狛が宣言したのは30分後。


 フラフラと宝箱から離れながら、やや疲れたような様子を見せる胡狛。


 やはり朱妃からドロップした宝箱だけあって相当難易度が高い罠が仕掛けられていたのであろう。



「白兎さん、開封をお願いします」


 フルフルッ!

「私もお手伝い致します、チュン」



 胡狛が後を白兎に譲り、玖雀はその補助。

 

 錠前部分を前脚の爪でガチャガチャと弄り………

 玖雀が反対側へ回って、白兎が開錠しやすいように箱を抑えたり、位置をずらしたりする。



 その姿を眺めていると、ダンジョンにて宝箱を開封するニルのことを思い出してしまう。


 彼女は宝箱の中身をより良いモノにできる『開封師』であるらしい。

 もし、彼女がここに居れば、この宝箱の開封を任せるという選択肢もあったのだけれど………



 だが、アスリンチームの一員である彼女に、俺が手に入れるであろう途方もないお宝を見せるわけにはいかない。

 少々惜しいとは思ってしまうが、そこまでリスクを冒してでも、という程ではない。


 お宝はお宝なのだ。

 多少その価値の上下はしても、得難いモノであるのに違いは無い、



 そんなことを考えているうちに白兎達が宝箱の開封作業を完了させ、



 ピコッ!

「開きました! チュン!」


「ご苦労。どれどれ………」



 白兎達が開けた宝箱の中を覗き込んでみると、その中には…………




 『直剣』が1本。

 箱に入った宝石………いや、『勾玉』が一つ。



「ほう? これはまた…………」



 まずは剣を手に取ってまじまじと見る。


 剣の造りは古いが、いかにもナニカが宿っていそうな霊験あらたかなモノを感じる。

 刃渡りは80cm程度で剣身はやや幅広。

 鍔や柄には控え目な装飾がされており、どことなく品の良さが見て取れる。


 実用品というよりは、身分を現す宝剣なのだろうか?

 だが、その刃は鈍い光を湛え、決してお飾りでは無い雰囲気を醸し出している。



「発掘品の剣か………、まあ、俺には莫邪宝剣と倚天の剣があるからなあ」



 たとえ最上級の剣であっても、俺の宝貝には敵わない。

 切る以外の特殊な効果があるのなら一考の価値はあるのだけれど。



「……………あと、これは勾玉だよなあ」



 箱から取り出して抓んでみる。


 大きさは5cm程度。

 澄み切った碧玉のよう。

 翠石よりも少しだけ青みがかかった神秘的な色。



 勾玉は日本古来の装飾具。

 曲がった玉の名の由来通り、円に太い曲がった尾が生えたような形状。

 円の真ん中に穴を開けて紐を通し、首飾りなどにしていたらしい。



「イザナミを倒して出てきたお宝らしいといえば、らしいのだけど………」



 さて、この『剣』と『勾玉』の能力はいかに?








 発掘品に詳しい胡狛に調べてもらうと、



「こちらの勾玉は『八尺瓊勾玉やさかにのまがたま』という銘ですね」


「うあ、出た。三種の神器」


「はい?」


「いや、こっちの話…………」



 不思議そうな顔をする胡狛を適当に誤魔化し、八尺瓊勾玉へと視線を移す。



 イザナミを倒して、八尺瓊勾玉が出てきたのか?

 日本古来の至宝としては分かるような気もするし、八尺瓊勾玉についての逸話が出るのは伊邪那岐・伊邪那美よりも後の時代、天照大神が治める高天原でのこと。

 微妙に接点が無いとも言えなくも無い。

 

 まあ、実際はそのものじゃなくて、名前だけが一緒のただの発掘品なのだが。


 しかし、ここで三種神器の名を冠した発掘品が出てくるということは、もしかすると、剣の方も………


 いや、今はこの八尺瓊勾玉のことを聞くのが先だな。




「えっと………、これにはどんな効果がある?」


「全てのマテリアル機器の能力を上昇させる効果があるようです」


「へえ? それはなかなか………」



 特定のマテリアル機器の機能を強化する発掘品はそこそこ聞く。

 だが、全てのマテリアル機器をパワーアップさせる発掘品なんて聞いたことが無い。



「胡狛。これはどのように装備するんだ? やっぱり埋め込むのか」


「はい。機体の表面に埋め込む必要がありますね。この石が表に出ていないと効果が薄まるみたいです。また、対象は機械種だけでなく、発掘品にも効果を与えるようですよ」


「う~ん…………」



 機械種や発掘品に備わったマテリアル機器を強化するアイテム。

 

 誰に付けても効果はあるのだろうが、じゃあ『誰に』と言われると悩む。


 しかし、折角手に入れた万能強化アイテムを死蔵するつもりは無い。

 今後、また強敵と遭遇する可能性もあるのだから、強化できる時に強化しておきたい…………



 やはりマテリアル機器を良く使う秘彗だろうか? 


 それとも防御優先で毘燭という手も。外装に東方テイストが混じったから良く似合うかもしれない。


 また、主要なスキルが特級に到達し、それ以上上がることが無いヨシツネに使うべきか?


 もしくは成長著しい天琉という選択も…………

 



 ピコッ! ピコッ!


「どうした、白兎」


 フルフルッ!

『それ、僕欲しい!』


「え? お前がか?」



 悩む俺に白兎が耳をピコピコ、前脚を挙げて主張。

 大変珍しい…………いや、『ウサギ』や『天兎流舞蹴術』関連以外だと大変珍しい白兎のオネダリ。


 確かに最近白兎に授けたモノはスキルばかり。

 偶にはこういった形として残る品を渡してあげても良いかもしれない。



「まあいいだろ。コレはお前にやろう。後で胡狛に取り付けてもらえ」


 パタッ! パタッ!

『大丈夫、必要ないよ! この場でちょうだい! ポンって投げてよ』



 やたら前のめりの白兎。

 ここまでコレを欲しがるなんて、何か心惹かれるものがあるのだろうか?


 

「ほれ!」



 犬に骨をやるように、八尺瓊勾玉をぽいっと白兎へと投げると、



 ヒョイ

 パクッ



 なぜか白兎はソレを一飲みでパクッといった。



「え?」



 白兎の奇行に思わず呆然。

 スキルの入った翠石は何回やったが、まさか発掘品でも同じようなことをするとは…………


 だが、スキルの入った翠石とは違い、今回のモノは紛うこと無き発掘品。

 しかも、きちんと外に見えるように装着しないと効力が薄まるという………



「お、おい、白兎…………、それ、飲み込んでも大丈夫なのか?」



 八尺瓊勾玉のパクっといってから動きを見せない白兎へと恐る恐る声をかけると、




 シャキーンッ!




 白兎の額…………『仙』と書かれた部分にニュッと勾玉が出現。




「え? ……………うわあああ」


「きゃああああ!!」

「ええええええ!!」

「そ、そんな………」

「あいあいあい!」

「キィキィキィ!」

「ギギギギギッ!」


 

 俺も含めた皆が吃驚仰天。


 飲み込んだはずの八尺瓊勾玉がどんな経緯を辿ったか知らないが、白兎の額へと飛び出て来た。


 しかもよく見れば、ご丁寧に勾玉の中に見える『仙』の文字。

 どうやら『仙』の文字ごと八尺瓊勾玉を機体に取り込んだ様子。



 ピコッ! ピコッ!

『これで僕はパワーアップ! これから白兎マークⅡ………、いや、やっぱり白兎でいいや』



 皆の驚きを他所に、自分がパワーアップしたことを喜ぶ白兎。

 ピョンピョン辺りを跳ねまわりながらのご機嫌さん。 




 頼むからパワーアップならもっと常識の範囲内でやってくれ………と心の中でお願いしておく。




 だが、これで白兎が備えるマテリアル機器が全て強化されたのは事実。


 燃焼・冷却・生成・空間・時間………


 特に俺のチームでは白兎だけが持つ時間制御が強化されたことは限りなくデカい。

 すでに記憶消去や因果の抹消等、これ以上ないほどのヤバい能力を秘めているのだ。


 果たして、八尺瓊勾玉により、どこまで強化されてしまったのか………


 

「はあ…………、強い白兎がまた強くなる…………そして、混沌も………」



 周りに被害を出さない為にも、今以上の警戒が必要となるだろう。

 

 世界を混沌の魔の手から救えるのは俺だけなのだ。

 キチンと白兎の手綱を握っておかなくては………








「じゃあ、後はこの剣だが………」


 

 一先ず白兎のことは置いておいて、もう一つのお宝の見分に入る。


 ここで剣を調べるのは武具に詳しいヨシツネ。


 手にした剣を右左に返し、クルッと逆さまに持って柄を眺め、


 やがて、『良い仕事しました』とでも言うように満足気な顔をしながら、



「こちらに銘がありますね。『天之尾羽張あめのおはばり』と」


「草薙の剣じゃないのかよ!」


「はあ?」


「いや、こっちの話…………」



 トコトン予想を外してくれるな、イザナミめ!

 やはりお前とは相性最悪だったようだ!

 

 ………まあ、それはともかく、



「で、どんな能力を秘めた剣なんだ?」


「そうですね…………、属性としましては『対神』………拙者の『髪切』と同様、神人型に対して特攻。そして、『炎』や『熱』を滅する能力を持っているようです」


「ふむ…………」



 順当と言えば順当な能力。


 『天之尾羽張』は伊邪那岐神が使ったとされる剣。

 自身の妻である伊邪那美神が炎の神である迦具土神を生んだ際に、その炎で焼け死んでしまった。

 それを怒った伊邪那岐神は持っていた剣で迦具土神を切り殺したという。


 それが『天之尾羽張』。

 つまり神殺しの剣であり、炎の神を切った剣でもある。


 だからその名を冠する発掘品の剣もその逸話に則った能力なのであろう。


 なぜイザナミを倒してイザナギの剣が出てきたかは分からないけど。





「でも、俺が使う程の剣じゃないな………」


 

 というより、俺が持っていても扱えない。

 莫邪宝剣か瀝泉槍を持たない俺はタダの素人。


 

「かといって、この直剣を使う奴なんて…………」



 剣雷は大剣を持ってこそだし、剣風のメインウェポンは槍。

 サブウェポンとして剣を持ってはいるが、この発掘品の剣をサブとするのは勿体なさすぎる。


 

「いっそ、ヨシツネが持つか。剣雷みたいに二刀流とか」


「ご冗談を。拙者には主様から名付けて頂いたこの『髪切』だけで十分でございます。もし、誰も使わないのであれば、使い道が見つかるまで主様が保管されておけば良いかと………」



 そう言うとヨシツネはこちらへと『天之尾羽張』の柄を向け、差し出してきたのだが………




 シュンッ




 俺の目の前で、ヨシツネが差し出してきた『天之尾羽張』が消えた。




「………………」

「………………」




 突然の現象に思わず固まってしまったが………


 ふと、ヨシツネが自分の亜空間倉庫に収納したのだと思い当たり、



「………………んん? なんだ、ヨシツネ。やっぱり、その剣、気にいったのか?」



 ヨシツネらしからぬ行いに少々驚いたものの、欲しいのなら、渡すのはやぶさかじゃない。 


 だが、ヨシツネはまるでそれが想定外とでも言うように、困惑した表情を晒したままで、




「いえ……………、その…………」


「別にいいぞ。お前が持っていても」


「いや、違います…………」


「はあ? ヨシツネが収納したんじゃなければ、誰なんだよ」


「…………………」



 なぜか悩みに悩んでいる様子のヨシツネ。

 言いたいけど言い出せない………そんな雰囲気を醸し出し、


 やがて、絞り出すような声で、



「その…………、拙者の『髪切』が……………、気に入ったから吸収すると…………、申しておりました」


「…………………」



 ヨシツネからの苦渋に塗れた告白に俺は、



「何言ってんだよ、お前…………、大丈夫か? 剣が喋るわけないだろ」



 珍しく冗談を口にするヨシツネにツッコみ。

 あまりに笑えない冗談に、逆にヨシツネの心労具合が気になって来る。


 それは他のメンバーも感じたようで、



「ヨシツネさん………、やっぱりお疲れなんじゃ………」

「ふむ? これはいかん。少し休憩させた方が………」

「最近、忙しかったから、ですかな」

「あい! ヨシツネが変!」

「キィキィキィ!」

「ギギギギギッ!」

「ヨシツネさんってあんな冗談を口になさるんですね」

「生真面目な方だと思ってたけど、これは意外だったガオ」

「皆さんが言うようにお疲れなんですよ、ドラ」

「心配…………チュン」

 ブルルル………

 コク

 コクコク

「ハハハハッ、面白くない冗談。バッカじゃないの」



 周りの反応は様々。

 普段真面目なヨシツネだけに、いきなり見せた奇行に皆が困惑。



「ち、違うんです! 本当にこの『髪切』がしゃべったんです!」



 引っ込みがつかなくなったヨシツネは皆へと必死に弁解。

 刀を取り出して見せつけながら、皆へと訴えかける。

 

 だが、より一層、皆から心配の目が飛んでくるだけ。


 しかし、ただ1機だけヨシツネの肩を持つ者がいるのだけれど………



 パタパタッ!

『分かる! 分かるよ! ヨシツネ。 きっと君には刀の声が聞こえるようになったんだよ! 君だけじゃない! 僕も色んな声が聞こえるから! 【月】や【星】や【運命】とか………』


「ああああああああああああああっ! 白兎殿に味方されると………拙者の立場がよりおかしなことにぃぃぃ!!」



 耳をパタパタさせて飛び跳ねる白兎に、頭を抱えて叫ぶヨシツネ。


 我がチームの筆頭と次席のおかしなやり取り。


 

 すでに俺のメンバー達はあまり近づきたくない様子で少し距離を取った模様。


 最も長い付き合いの2機だが、こんな所まで気が合うと、本当に大丈夫なのかと心配になって来る。

 

 まあ、これも俺のチームの良い所でもある。

 偶には羽目を外すヨシツネも面白いと言えば面白い。



 だが、混沌めいたこの惨状を終わらせるのは俺の役目。


 皆へと向かって手をパンパンと叩いて、この馬鹿騒ぎを終了させた。










「さて、次はこの…………中量級人型機種用保管庫だな」


 

 一見、棺桶に見えなくも無い、機械種用保管庫。

 何となくグルリと一周してから、開閉ボタンの前で立ち止まり、



「これに罠は無いから、俺が開けるぞ」



 皆が緊張しながら見守る中、開閉ボタンのスイッチを入れると、




 プシュー




 保管庫から漏れだす白い煙。

 そして、その中に横たわる細身の機体がゆっくりと立ち上がる。


 身長は俺と同じくらいであろうか?


 一番最初に目に入ったのは、草原の色どりに似た若葉色の髪。

 幾つもの飾り簪を差した日本髪。

 次に歌舞伎の役者が纏っていそうな豪奢な着物。

 薄い蒼色がメインで白と桃色の花模様が浮かぶデザイン。

 

 やがて完全に煙が消えると、その顔がはっきりと見えてくる。


 小作りで端正な顔立ち。

 薄く青の光が零れる目は切れ長。

 ゾクゾクするような色っぽい目つき。

 鼻は少し低いが、それが返ってあどけなさを強調。

 唇は薄く、でも、その色は鮮やか過ぎる紅葉色。

 大人の色気と少女の無垢さを併せ持つ…………女性。


 歳の頃は…………おそらく17、8歳ぐらいだろうか?

 しかし、見る確度によってはずっと年下にも見えてしまう………


 


「え? 女性型?」




 思わず、フラフラと近づく。

 

 間違いなく女性型。

 しかも、ほとんど人間に見える造形から間違いなくレジェンドタイプ以上の超高位機種。

 

 多分、刃兼に近い外見年齢。

 ただ着物を着ているせいかもしれないが、年頃の女性にしてはやや細身。

 だが、その美しさは、俺の選りすぐった女性陣にも決して劣らない。

 




 ああ…………

 ようやく見つけることができたのか。


 ストロングタイプの女性型を何体従属させていても、

 俺は超高位機種に分類される、赭娼・紅姫クラスの女性型が欲しかったのだ。


 求めに求めて1年近く。

 この地、この時に、俺は手に入れることができた…………



 フルフルッ!

『早く従属契約しようよ!』


「ああ…………」



 しばらく呆然と立ち尽くしていた俺だが、白兎に急かされて、マスター認証待機状態のまま立ち尽くす女性型へと近づき、両目を合わせて、



「白の契約に基づき、汝に契約の履行を求める。従属せよ」



 すでに何度目かも忘れてしまった従属契約を結ぶ文言を唱える。



 ピカッ!



 双眸の光が一瞬強く輝き、俺との従属契約が結ばれたことが分かる。




 そして、その青い目の焦点がゆっくりと絞られていき、




「ん…………、貴方が私のマスター?」



 

 小さな口から零れた言葉は、川のせせらぎのように自然と俺の耳に入り込む。

 

 美しい響き。

 抑揚は薄いが、心に染み入るような澄んだ声調。



「ああ、俺が君のマスターだ」


「そう…………」



 俺の答えに、彼女は無表情のまま、軽く頷いて………


 

 ほんの僅かに微笑んで見せる彼女。

 白百合の花が咲いたような、そんな笑みを一瞬だけ見せた後、



 スッと俺の前に跪いた。

 それが当然であるかのように、自然に………



「!!!!」



 少女に目の前で跪かれて、動揺を隠せない俺。


 思わず跪く彼女を見下ろして見れば、

 目に入るのは見事に結われた髪型に、後ろ襟首から見える真っ白なうなじ。



 あれが女性の『うなじ』…………

 なんと美しい………… 



 目を逸らすこともできず、魅入ってしまう。

 そして、そんな俺へと捧げられた彼女からの誓い…………

 



「私、レジェンドタイプ、機械種タキヤシャヒメ。永遠の忠誠を貴方様に………」




 彼女はそう俺に約束してくれた。






※ご投票ありがとうございました。

この度候補の3機から選ばせていただいたのは、最も投票数が多かった機械種タキヤシャヒメになります。他の2機と比べてやや格下になりますが、その救済策として、強化オプションをつける予定となっております。その力は必ず主人公の役に立つこととなるでしょう。


選ばれなかった2機もいずれ旅を続けていけば仲間に入る可能性があります。

その時を楽しみにお待ちください。


※ストックが切れましたので書き溜め期間に入ります。

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