第568話 情報
「今帰ったぞ~」
「あい! マスター! おかえりなさ~い!」
迷宮町からバルトーラの街の本拠地であるガレージに到着したのは夜の9時過ぎ。
白兎、森羅を引き連れ、ようやく我が家へと帰還を果たした。
左右に胡狛が設置した物々しい防衛設備が備えられた扉を開けると、返ってきたのはいつも騒がしい天琉の声。
簡素な白い貫頭衣に背中に背負う2対の純白の翼。
パッとした見た目は機械種エンジェル。
中身は世間的に天使系最高位と呼ばれる機械種ドミニオン。
かつては中央で多数の人類を血祭りにあげた天使軍団の長。
幾千の天使達の連隊を率いた軍団長。
しかし、俺の知る天琉は、とてもそんな逸話など知ったことかとばかりの子供っぽい挙動が常。
今も俺がガレージ内へと入ってくるなり、子犬のように飛びついてくる。
「よしよし! 行儀よく留守番していたか?」
「あい! テンル、良い子にしてたよ! あいあいっ!」
じゃれついてくる天琉の髪をグシャグシャにかき混ぜてやると、嬉しそうに喝采を上げる天琉。
絹のように滑らかな金髪は、どれだけかき混ぜても頭をブルッと振るえばすぐに元通りだ。
だから遠慮せずにサラサラの髪を指の間に通して、その感触を楽しめる。
本当に毛並みの良い中型犬を撫でているような気持ちになってくるな。
天琉は間違いなく犬っぽいから………
尻尾があればブンブン振っているであろう、ご機嫌さんな天琉を見下ろしながら、ふとそんなことを考えた。
「おかえりなさいませ、マスター」
続けて、皆を代表して俺へと声をかけてきたのは秘彗。
ローブの端を指で抓み、どこぞのお嬢様と見間違いそうな美しいお辞儀。
その上をフワフワと浮かびながら、秘彗に倣って同じポーズを取るのは廻斗。
短い手をキュっと伸ばしてペコリと頭を下げる姿はなかなかに可愛らしい。
魔女っ娘スタイルの美少女と白い子猿が揃って一礼するシーン。
まるで魔法少女とそのマスコット。
「「「おかえりなさいませ」」」
後に続いて、後方に控える皆から迎えの言葉が飛んでくる。
秘彗の右後方に揃って並ぶのは、毘燭、剣風、剣雷、胡狛。
左後方にはメイド型3機、辰沙、虎芽、玖雀。
一番後ろにドンと構える豪魔、輝煉。
一斉に皆が俺へと向かい一礼。
頼もしく忠実な俺を支えてくれるメンバー達………
「あれ? 浮楽は?」
残してきたはずの浮楽の姿が見えない。
いつものヒョロリとした道化師姿の魔人型機械種がどこにもいない。
ひょっとしたら光学迷彩で姿を消しているのかもしれないが………
いや、俺の前で姿を隠す意味も無いし…………
「マスター、フラクさんはルーク様を見張ってくれております」
「ええ? ………あ~あ、そうか。確かにアイツなら見張り役にはピッタリだな……………」
俺と白兎と森羅が迷宮町のバス停でバス待ちをしていた時、廻斗からの連絡が白兎へと入ってきた。
俺の本拠地であるガレージに、タウール商会のルークと名乗る少年が尋ねて来たと。
何分、ルークと面識があるのは、俺と白兎、ヨシツネと森羅のみ。
いずれもこのガレージに居なかった為、本人と確認ができず、一旦お引き取りをお願いしたのだが、どうしても急ぎの用ということでルークは引かなかった。
だから、俺達が戻る時間まで待機してもらうことにしたのだ。
「で、肝心のルークはどこ?」
「3軒隣のガレージを借り、そこでお待ちいただくようにお願いしました」
「なるほど。流石に俺がいない間に、このガレージに入れるわけにはいかないからなあ…………、でも、わざわざここまで押しかけるなんて、よっぽどのことなんだろうな」
少しだけ難しい顔をしながら、タウール商会におけるルークの立場を思い出す。
俺と同じ歳の、孤児院出身の一少年。
レッドオーダーの力を取り込み、赤能者になってしまった哀れな犠牲者。
それは人間の何倍ものパワーを得る代わりに、日常生活が困難となる程の精神異常を植え付けられる呪いの力。
彼の場合、『弱い』と言葉で罵られることが引き金となって暴走する形で現れている。
決して望んだ力ではない。
半ば騙されて得てしまった力だ。
さらにルークの話を聞くに、あまり良い立場ではないらしい。
赤能者として、今季の新人達の中でも最上位に近い戦闘能力を持っているにも関わらず、外へ狩りに出ていくことを制限されているそうだ。
おかげでポイントも貯まらずいつまで経っても下っ端の域を出ないという。
まるで飼い殺しのような扱いであろう。
折角呪われてまで手に入れさせられた『力』もこれでは十分に発揮できない。
ルークが不貞腐れる気持ちも良く分かる。
だから、ルークはタウール商会に忠誠心を持たず、俺に情報を流したり、組織内の情報操作を行ってくれている。
言わば俺の協力者みたいな立ち位置なのだ。
まあ、情報を流すと言っても、愚痴や雑談レベルの話。
下っ端であるルークが手に入れられる情報なんて、そんなモノであろう。
だが、俺にとっては有用。
特に俺のことを執拗に狙って来るタウール商会の動向は。
だから、今回もそんな情報を持ってきてくれたと思うのだが………
ホームを出て、ルークに貸し与えたという3軒隣のガレージまで移動。
ガレージ前で浮楽に会い、特に不審な様子は見られなかったと報告を受ける………『ギギギ』とゼスチャーだけの報告だが多分合っているはず。
一応、白兎や森羅、玖雀にガレージ街の周辺を警戒させて、姿を消したヨシツネと浮楽にこのガレージの門番を頼む。
一緒にガレージの中に入ると、ルークに気づかれる可能性があるからだ。
離れた所から見張っているだけならまだしも、ルークとて秤屋に認められた狩人で超常の力を持つ赤能者。
同じ室内に入れば、たとえ姿を消していても違和感を感じられる可能性もある。
彼の能力の全容が未だ不明なのだから、用心するに越したことは無い。
「入るぞ!」
嘘を見抜く『真実の目』を装備してから、扉越しに声をかけ、ガレージの開閉パネルに暗証番号を打ち込む。
ポチポチポチポチ
ガチャンッ
「やあ、ヒロ。おかえり」
扉を開けて中に入れば、俺を迎え入れてくれたのは抑揚の少ない平坦な声。
声がした方向に視線を向けると、そこにはガランとした広いガレージ内の隅に置かれている古びたソファーに寝転んだ状態のルーク。
まるで夫を適当に迎える倦怠期の妻のように、横になったままで片手をあげてパタパタ。
「『おかえり』じゃねえよ! 何でそんなにくつろげるんだ、お前…………」
「だって、待ち草臥れたんだもん。それに夜も遅いし…………」
「なかなかに肝が据わってるな」
俺が呆れ声を発しながらソファに近づくと、ようやくルークは上半身を起こして、ぼんやりとした顔をこちらに向けてくる。
どうやら今まで眠っていたようで、寝ぼけ眼に寝癖がついたまま。
よくもまあ、人から借りたガレージでスヤスヤと寝つけるものだ。
「マジで寝ていたのか?」
「寝心地の良いソファだったよ。僕のボロボロベッドよりは大分マシ」
「本当に扱いが悪いんだな」
「タウール商会の下っ端はこんなもんだよ。特に僕は赤能者になる為の費用を借金にされているからね。事務所の物置に住まわせてもらっている立場なんだ。贅沢はなかなか言えないよ」
随分と重い話を軽い口調で話すルーク。
そして、軽く肩を回してから、『よっと!』とかけ声を発して、ソファから立ち上がった。
短めの黒髪に黒目、浅黒い肌に引き締まった細身の体形。
体操選手のように無駄無く鍛えられた手足。
見るからに運動ができそうなスポーツ少年といったところ。
実際は運動が出来るとかそういったレベルを突き抜けた身体能力を持つ赤能者なのだけれど。
「まあ、とにかく会えてよかったよ。もうダンジョンに潜っちゃったら情報も渡せないから」
「重要な情報みたいだな? ……………でも、大丈夫なのか? お前、俺との接触は出来る限り公にならないようにしてただろ?」
タウール商会内の情報をリークしてもらっているのだ。
こうやって俺の所に直接訪ねてくるなんて、かなり危ない橋を渡っているように思えるのだが…………
「その辺は大丈夫。タウール商会は活性化でそれどころじゃないからね。それに、これから話す内容にも関わることでもあるよ」
「??? 一体どういうことだ?」
「今回の救出作戦の件だけど、タウール商会………と言うより、僕が所属する『躯蛇』から人を出すのさ。それも3人。昨日には出発していると思う。だから僕が直接ここに来ることができたんだ」
「へえ? 随分と今更だな……………、まあ、5大秤屋の内、4つが人を派遣しているのに、タウール商会だけが出さないわけには…………、あれ?」
ルークからもたらされた情報は、少々驚きはあったものの、そこまで重要なことではないと思いかけたのだが…………
「『躯蛇』って、確か…………」
毘燭が集めてくれた情報にあったタウール商会を構成する4つの裏組織の1つ。
所属する人数は最小だが、最も危険で暴力的な人員を抱えているという。
その上、なにより危ないのが、『躯蛇』の戦闘員達は人殺しの技に長けた者達だということだ。
「対人に特化したメンバーのはずだろ? なんでそんな奴等をわざわざ………」
機械種を相手にするのと、人間を相手にするのでは、明確に使う武器が異なるケースが多い。
人間を相手にするなら、小口径の銃で油断したところを後ろから狙い撃てばそれで一発。
または、すれ違いざまに肌が見えている部分をナイフで切りつけるのも有効。
毒でも塗っていれば一撃で殺すことができる。
さらに毒ガスでも使えば、閉所なら確実であろう。
装備を整えていない人間は、服に火を付けられ火達磨になれば普通に死ぬし、50mAの電流を流されただけで筋肉が収縮し動けなくなる。
周りに酸素が無くなれば酸欠で倒れるし、一気に血を1リットル失えば失血死する。
戦場ではなく、街の中での暗殺であれば、よほど警戒している人間でない限り、意識の外から繰り出される殺意ある一撃を逃れることは難しい。
さらに言えば、街中で普段から防具を着こんでいる者も少ないし、携帯バリア等の防護グッズも日常で展開している奴なんて滅多にいない。
だから人間に対しては、皮膚を貫くだけの刃物、致死性の毒、通電させた金属片、可燃性の爆発物を組み合わせるだけで事足りる。
だが、相手が機械種であれば、少々の刃物なんて金属の外装に阻まれるだけ。
当然、毒なんて効くわけもなく、多少火達磨になろうが、電流を流されようが、すぐに壊れたりはしない。
もちろん、酸欠にもならないし、機体に穴を開けられても、駆動部に問題が無ければ行動に支障はでない。
小口径の銃では装甲を貫通することができず、たとえ関節部や隙間を狙って一発叩き込んだとしても、それだけで倒せることなどまず無いと言って良い。
対人用の武器は、機械種相手には通用しにくいのだ。
つまり、重量級の機械種すら徘徊する活性化中のダンジョンでは、対人に特化した戦闘者は役に立ちづらい。
では、一体なぜタウール商会は畑違いの『躯蛇』の人員をダンジョンへ送り込もうとするのか?
人殺しが得意だからといって、その技がそのまま機械種に通用するはずが………
「まさか…………」
ふと、頭に浮かんだ可能性。
それは、本来、バルトーラの秤屋として絶対に在り得ない選択肢。
しかし、手段を選ばずにただ自身の利益だけを追求するのであれば、思いついてしまう謀略。
今回の救出作戦は、所属する狩人の質が劣るタウール商会にとっては荷が重い。
相手は難易度が上がってしまった活性化中のダンジョンだ。
その地下35階まで到達できるような腕利きの狩人がおらず、4つの秤屋の精鋭を集めた先行隊にも入れるような人材もいなかったのであろう。
だから、こう考えてもおかしくないのだ。
どうせ達成できない依頼なのであれば、他の秤屋に成果を誇らせないようにしてやると。
この場合、狙いは領主の三男を救出することではなく………
「おい! ソイツ等、もしかして、狙いは救出作戦を失敗させることじゃないだろうな!」
救出作戦に協力するフリをして、領主の三男を事故に見せかけて殺すとか………
もしくは、ダンジョンに潜っているであろう秤屋の幹部達をドサクサ紛れに暗殺するとか…………
どちらにせよ、ロクでもないことを企んでいる可能性が高い。
「さあね? 僕は僕が仕入れることができた情報を伝えただけだよ。第一、そんな大それた陰謀に僕みたいな下っ端が関われるわけないだろ?」
俺の推測に、曖昧に答えるだけのルーク。
まあ、言っていることは間違いではないが。
「じゃあ、どうやってそんな大それた陰謀のとっかかりを知り得たんだよ?」
「そりゃあ、同じ組織の一員だからさ。僕と同じ赤能者の2人と、凄腕の暗殺の腕を持つ人間が、ダンジョンの地図と睨めっこしていたり、ダンジョン用の長期遠征グッズを準備していたりしてたからね」
分かりやすい!
もうちょっと隠せよ!
……………いやまあ、組織内の不満分子から漏れるなんて想定外なんだろうけど。
それに赤能者であるルークは、その潜在的な危険性から、タウール商会から抜け出すことは難しい。
だからこそ、裏切ることは無いと信用されているのだろうが…………
「ふむ………」
考え込むフリをして、ルークの顔をチラリと見るが、こんな重大な情報をリークした割には、特に悩ましそうな様子も見せず平然としている。
『真実の目』に嘘と表示されない以上、彼のもたらした情報に嘘は無い。
タウール商会とやや敵対する位置にある俺へ馬鹿正直に情報をそのまま流しているのだ。
しかし、己の所属する組織の機密情報を漏らすルークに罪悪感の欠片も見当たらない。
これはコイツの神経が図太いのか、それとも、単に深く考えない性格なのか…………
ただ、己の不遇の立場に、自暴自棄になっているのかもしれないけれど。
「情報はありがたく受け取っておく。でも、あんまり公にもできない情報だな………」
5大秤屋の1つが街の領主の依頼を妨害しようとしているかもしれないなんて、爆弾過ぎてとても情報を他に流せそうにない。
そもそも本当に妨害目的なのかも不明な上、下手にこの情報が世間に流れたら、間違いなく出所が疑われて、ルークの身に危険が及ぶ。
さらに今回の事案は5大秤屋の不祥事にもつながりかねないことだ。
ただの流言を以って情報を上げるのは些か困難。
情報元の信ぴょう性を確認されても、俺にソレを証明する手段は少ない。
俺には『真実の目』があるから、ルークが嘘を言っていないことは分かるが、本来もたらされた情報の真偽なんて最も確認が難しいモノ。
俺が報告したからといって、すぐに動いてもらえるわけではあるまい。
『躯蛇』の連中はすでにダンジョンへと潜っているのだ。
今更街の中で騒ぎを起こしても何の意味も無い。
もし、『躯蛇』がガミンさん達を狙うのなら、高位のレッドオーダーが出没する地下35階まで行くはずがない。
そもそもその実力が無いから、先行隊に参加できなかったのだ。
故に低階層で網を張り、疲れ切って気が抜けるであろう帰り道を狙うに違いない。
だとすれば、俺にできることは、この情報を抱えて地下35階にいるであろうガミンさんに伝えて対策してもらうこと。
そうすれば地力で勝るガミンさん達先行隊が暗殺を跳ね除けてくれるだろう。
「とにかく、『躯蛇』については、こっちで何とかする。情報、助かった。知らなければ、どこかで足を掬われただろうな」
「ヒロの役に立てて何よりだよ。少しでも恩を返せそうだ」
ほんの少しだけ笑みの形を見せるルーク。
あんまり表情は変わらないが、俺の役に立てたことを嬉しがっている様子。
最初は不愛想な無表情キャラかと思っていたけど、それは表面上だけのことで、中身は割と感情豊かなのかもしれない。
それに最近は慣れてきたのか、俺の前では感情を表に出すようになってきたような気がする。
前に牛肉系ブロックを上げた時も、子供みたいに喜んでいたし………
「お、そうだ。お礼と言ってはなんだが、ここで飯を食っていくか?」
「え? いいの?」
ルークの瞳に喜色が宿る。
僅かに身を乗り出し、全身から期待している様子を振り撒いている。
まあ、ただ飯より旨いモノは無いというが…………
「ああ……………、と言っても今回は肉系じゃなくて、魚系ブロックだけど」
「う~ん…………、魚系かあ」
明らかにルークのテンションが落ちた。
魚より肉の方が好きなんだろうな。
この年代の少年なら良くあることだけど。
「ガッカリすんなよ。でも、前に孤児院に差し入れした時、マリーさんがルークは好き嫌いが激しいから栄養バランスが心配だって言ってたんだ。偶には魚を食え」
「分かったよ…………、お肉、ちょっと楽しみにしてたのになあ」
ひょっとしたら、ルークは俺の所の来たら肉系ブロックが食えると期待していたのかもしれない。
話を聞くに、余裕のある生活を送っている訳では無さそうだ。
多分、赤能者になる為の借金のせいなのだろうけど…………
赤能者になる為にはレッドオーダーの晶石が必要となるであろう。
ルークが赤能者として扱う重力制御と空間制御を持つ機種となれば、中位以上は確実。
最低数万M………下手をしたら数十万M。
日本円なら、数百万円~数千万円。
もう奨学金どころではない。
正規の狩人であれば、普通に狩りに出ていれば返せる額なのだろうが、ルークは外へ狩りに出ていくのを制限されてしまっている。
これでは食生活が貧しくなるのも仕方のない。
ルークが肉系ブロックにあれだけ喜んだのも分かる気がするが………
しかし、魚系ブロックだって、肉系に負けない美味しさがあるのだ!
ならば魚系ブロックの美味しさを分からせてやらなくては!
「そう言うな。ほら、まずはコイツだ。『サーモンブロック』。さらに『タルタルソースドロップ』付き!」
「おお…………、それは何か美味しそう」
「次は………厳密に言うとこれは魚系じゃなくて調理系になるんだけど………『アジフライブロック』! これに『ウスターソースドロップ』をドバドバかけるのだ!」
「なんと! あのカラアゲブロックに次ぐと言われるアジフライブロック! しかもソース付き!」
「最後は…………、コレ! 魚系ブロックの王者、『チュウトロブロック』! もちろん、これには『ショーユドロップ』に『ワサビドロップ』をつけてやる!」
「チュウトロ!! 噂には聞いたことがある………、昔、一度だけ食べたことのあるビントロブロックよりも美味しいって…………」
今にもヨダレが垂れそうなくらいのルークの顔。
特に男の子が好きなモノを集めたのだから当然。
お子様にも大人気のサーモン。
揚げ物にソースは最高の組み合わせ、アジフライ。
寿司ネタ大正義の中トロ。
いずれも肉系にも劣らぬ美味しさだ。
これを前に心ときめかせない少年はいない。
「本当にコレ、貰っていいの?」
「ああ、情報提供のお礼というには安いけど、まずは俺からの感謝の気持ちだ」
「良かった。晩飯を抜いてきて…………、早速頂くとするよ」
ルークは俺からブロックを大事そうに受け取ると、そのままソファにドンと座り込む。
まずはサーモンブロックとばかりにビリビリと包装紙を破り、一緒に渡したタルタルソースドロップを指で抓みながら潰してペタペタ。
そして、白いソースを塗した紅色のブロックをカブっと丸齧り。
「旨い!!!」
よほど腹が空いていたのか、20秒も経たないうちに食べ尽くし、すぐさま次のブロックへと移る。
そこには禁断の力を宿す赤能者の姿は無く、ただ滅多に食べられないご馳走に舌鼓を打つ少年だけがいた。
旨そうに食うな、コイツ。
何となく俺も腹が減ってしまった。
ちょうど俺も晩飯はまだだったし、この際だから一緒に食べるとするか。
「隣、座るぞ」
4人は座れそうなソファにも腰かけ、自分用に持ってきたブロックを空間拡張機能付きバッグから取り出す。
俺の分も魚系ブロックだが、ルークにあげた子供舌向けではなく、ちょっとした大人の味を揃えた品々。
素材魚系、ヒラメブロックの亜種『ヒラメエンガワブロック』。
調理魚系『カレイノニツケブロック』。
調味魚系『アジノヒモノブロック』。
「うーん………、これはご飯は欲しくなるな。ライスブロックを出すか」
「あ、ライスブロックあるんだ。僕にもちょーだい」
「別にいいけど………、お前、最近遠慮が無くなってきたな」
「孤児院では『貰える人からは貰っておこう』と教えられたからね」
「…………本当に世知辛い世の中だ」
しばらくガレージ内に俺とルークが交わすしょうもない雑談と、ブロックを齧る咀嚼音だけが響くこととなった。
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