TURN.12「ワイルド・ビースト(その2)」


 ホッパーとオーヴァー。二人は永遠に戦い続ける運命(?)にある。

 しかしその一方で他にも----その運命を(設定上で)背負っている二人がいた。


「ユーキィイイ! がぁぁああーッ!!」

 研がれた爪、鋭い牙が迫る

「【カッティング・エッジ】ぃい……! その首を切り刻む……!!」

 狼を思わせる小柄な少女は深紅の瞳を尖らせユーキに襲い掛かる。今までのおとなしい雰囲気はユーキを前にすると途端に変貌する。

「その程度じゃ甘いよ! カウンターが間に合うんだからさッ!」

 その一撃をガンブレードでうまく受け流す。爪による連続攻撃の合間を狙い、その僅かな隙で銃撃を数発お見舞いする。

「うくっ……」

 スピードは相当なものだが小柄な体故にパワーは見受けられず。防御力もそこまで高くはないのかヒットポイントが4割近く消滅する。

「ユーーキィイイイ……がるるるううううっ……!!」

 【シラタマ】。種族は【ワイルド(野生住人)】。人里離れた土地で住まう原住民。中には獣と合体した獣人の見た目の個体も存在する。

 レベルはユーキと同じレベル81であり、その職業は野盗やならず者を意味する【シャドウ・ロウグ】である。

「調子に乗るなっ……今回のために私は色々対策を練ったっ!!」

 魔法や遠距離攻撃による攻撃スキルは一切なく、そのほとんどが爪や殴打蹴りなどの打撃、そして自ら噛みつきに行くタイプの技などで構成されている。

「うーん。どんな手を使うかわからないけどぉ。そんなに激情的だと、どんな手を使ってくるかもすぐにわかっちゃうかもなぁ!」

 前述のとおり魔物によく似たパターンということもあり対人戦では行動が読まれやすい。

「なめるなっ! シャドウ・ロウグはそう簡単に行動を読めるジョブじゃないっ!」

 だがその多彩なスキルからか選ぶ人も少なくなく、近距離戦を得意とするワイルドならではの戦い方も幅広く人気は高い。この少女もまたそのスキルの多彩さをうまく活かしてユーキに仕掛けていく。

「ふっふっふー」

 四つん這いで睨みつけてくるシラタマを他所にユーキはガンブレードを回しながら決めポーズをとっている。

「甘いよ、タマちゃん! その程度じゃ私は捕まえられないさ!」

「……また、呼んだな……その名で……呼ぶなぁああ……!!」

 シラタマが目を光らせる。

「私をぉ……するなぁあああああっ!!」

 再び攻撃を仕掛ける。さっきよりも倍以上のスピード。

 うまくスキルを活かして自分のスピードを速めているようだ。他の皆のような特別上級職ではないにしろ、これだけの戦闘力と技術を披露して見せている。

「おっと!? 急にとんでもないスピードとパワーっ!?」

 ユーキは得意な反射神経でシラタマの攻撃を受け止めた。

「ユーキ……今日こそ、倒す……!!」

 口から漏れる白い吐息。歪みない殺意。

 押し付けられる爪がより一層重くなる。まるで親を殺された復讐者の如く迫力あるオーラでユーキにぶつかっていた-----


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「初々しいねぇ~。僕も昔はあんな風に遊んでいましたよぉ……」

 四人が戦闘を行う中、離れた場所で体育座りのヴィラー・ルー。

 もともと高身長ということもあり座っていても尚、その大柄な姿が目立ってしまっている。シルクハットにサングラス、剥き出しの歯茎と見た目のビジュアルの不気味さも相まって余計に目立つ。

「あははは……」

 その横で同じく座って観戦しているメグは多少震え気味だった。

 当然である。メグはホッパーと同様に人付き合いが苦手なのだ。あまりコミュニケーションをとった事のない不気味な人間を真横において冷静でいられるはずがない。

「ああ、えっと、メグちゃんとお呼びしていいかな~?」

「え、あ、はい~~~!?」

 その表情は笑顔なのかもしれないが……光るサングラスに若干グロテスク感否めない口元のグラフィック。そこらのホラー映画よりも恐ろしい笑顔にメグの顔が青ざめていく。

「オ、オーヴァー君はホッパー君と古い友人であるとは聞いています! 小学校時代から遊んでいた仲だったとか!?」

 アガり症になりながらも会話を繋げようとする。

「そうだねぇ~。二人とも仲良しだよねぇ~。オーヴァー君もよくホッパー君の話をするしで本当に仲が良いよねぇ~」

 ホッパーとオーヴァーの二人は先ほどの会話からも分かる通りリアルで友人同士。喧嘩するほど仲が良いとはよく聞く。その仲は伺える。

「だけどねぇ。一つ気になることがあってねぇ……シラタマさんの事なんだけどね? ヤケにそちらのユーキさんの事を恨んでるというか~? 敵視しているというか? 普段も『ユーキの事なんて嫌いだ』ってさ。口癖かよって言いたくなるくらい呟いてるんだよねぇ~」

 シラタマはユーキに対し確実な殺意を浮かべている。ギルドにいる間でも彼女の事をよく話しているらしい。

「何故、彼女が嫌いなのかを聞こうとすると、『癇に障るんだよ』としか言わないのです……メグちゃ~ん、何か知らな~い?」

 ヴィラーはシラタマの事について少し知りたいようだった。

「ああ、えっと、実はですね……」

 思い当たる節があるようでメグは正直に答えることにした-----


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 西都友希、中学校一年時代。入学から三か月後の事。

 -----これはリアルでの学園生活での話である。

「やっばーい、遅刻遅刻!」

 ものの見事な大遅刻。食パンを咥えて学校まで全力疾走で走っている時の事だったという。ベタ中のベタ。

 陸上部に入部して直ぐの頃だったが……その頃から才能の欠片が見えていたのか。マラソン選手も顔負けのスピードとスタミナでスパートをかけていた。

「……ッ!!」

「いたっ!?」

 その時だったという。

 お約束にも程がある……“運命の出逢い”をしたというのが。

 これもまた、ベタ中のベタ。

「いてて……ごめんなさい! 怪我はないですか!?」

 ぶつかった二人はその場で大転倒。慌ててユーキは相手に声をかけたという。

「だ、大丈夫です、はい」

 そこで倒れていたのは同じ制服を着た女の子。見た目からして小学生ではないかと言えるほど小柄で前髪も少し長めのガサツそうなイメージの女の子だったという。

「あれ、もしかして君も遅刻?」

「……ッ!!」

 遅刻という単語を耳にするとその少女は慌てて立ち上がり、学校に向かって走り出したという。

「あ! 待ってー!!」

 ユーキはその少女と共に中学校まで全力疾走した。


          ・

          ・

          ・


 スピードもスタミナも見事なもの。確実に遅刻ルートの時間であったが……二人はなんと時間ギリギリで見事に到着。

 それぞれの教室へと移動し、ユーキも到着して直ぐに机にダイブして事なきを得たという。

 これで問題なし。後は適当にホームルームを過ごすのみと待ち構えていた時の事だった。

『変なタイミングだけど転校生が来たので紹介します』

 これもまたベタ中のベタ。

「……き、北浦実珠きたうらみたまといいます。よろしく、お願い、します」

「あぁあっ!!」

 そこで友希はその少女と再会したのだという。


          ・

          ・

          ・


 少女と再会したユーキは当然、北浦実珠のもとへと向かっていった。

「へぇええ~。転校生だったんだ~」

「ど、どうも、です。は、はい」

 まさか転校生だとは思わなかった。変なタイミングの転校という事もあり、孤立していた彼女の元へとユーキは赴いたのだ。

 何気ない会話。朝の珍事。

 二人は何事もなく雑談を続けたのだという。北浦の方は少しばかり会話慣れしていないのか口調がおかしかったが。

(話しやすい、です。この人……ちょっと、ありがたい)

 ……北浦実珠にとってはこの上ない助け舟ではあった。

 朝の運命の出逢い。二人の友情は深く結ばれようとしていた。

「こ、今後、とも。よ、よろしく」

 北浦はゆっくりと頭を下げた。

「うん、よろしくね!」

 -----だがその時、事件が起きたのだという。

「タマちゃん!!」

「……ッ!?」

 いきなりのニックネーム。それを前に北浦は仰天する。

「え、えっと、それは」

「うん! だからタマちゃん」

 小さい。

 小さい。

 小さい。

 猫みたい。

「へぇ~、いいねぇ、タマちゃん!」

「よろしくな、タマちゃん!」

「タマちゃん可愛いなぁ。ホントにちっこくて」

 男女問わず、ユーキの影響で彼女は一気にクラスの人気者になったという。





「チイ、サイイ……?」

 しかし、その時。

「ネコ、ミタィイイイイイーーーー……ッ!?」

 という。

「うん! 可愛い猫みたいっ!」

「……私をっ!!」

 そう、彼女にとってその一言。地雷だった。


「小さいって言うなッ! 猫みたいっていうなぁああああーーっ!!」

 “その小学生みたいな見た目”は一番のコンプレックスであったのだと。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 -----というわけである。

「ユーキちゃん、地雷原を堂々と踏み抜いちゃって……本人に悪気はないし、北浦さんが怒ってるのに気が付いていないし。私もどうしたものかと」

 簡単にまとめれば、あの二人もリアルの知り合い同士である。

「ユーキちゃん、良かれと思って言ってるから言い出しづらいし……タマちゃんに声をかけようとすると睨み返されるから怖いし……正直、つんでるんです」

 うっかりユーキが彼女のコンプレックスに触れてしまい、しかもそれを学校の生徒ほぼ全員から良い意味でいじられるようになってしまったこと。

 彼女にとってそれはあまりにも我慢ならない出来事であったという事。

「それからずっとリアルでもあんな感じです。喧嘩しているってワケじゃないんですけど……アハハ……」

 それからシラタマは何度もユーキに報復を仕掛けているという。

 尤もそれは全て返り討ちになっているようだが……しかも当のユーキ本人はシラタマと遊んでいるとしか考えていないようで。

「そうでしたか~」

 体育座りのまま、戦うシラタマの背中を見る。

(……随分と、可愛らしい復讐だったな)

 ヴィラー・ルーは安心した一方。ちょっと残念そうな表情も浮かべていた。

(まぁ確かに)

 ギャーギャーいいながら攻撃を繰り返すシラタマ。そして楽しそうにその攻撃を受け止めては反撃を繰り返すユーキ。

(喧嘩には見えないわな)

 ホッパーとオーヴァー同様このゲームを楽しんでいる。中学校の友人(?)同士、スキンシップをとっているようであった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……よぉホッパー! そろそろ決着と行こうか! お互い大技で行こうぜ!!」

 片腕をチェーンソーに切り替え、オーヴァーは高らかに大技を宣言する。

 勝負も大詰めのようだ。ここはクライマックスに相応しい展開を期待しているようだった。

「いいなっ! 俺もオーバーヒートってくらいにヒートアップしてたんだっ!!」

 ホッパーも足を構える。お気に入りのキック技の構えだ。

 最もヒーローっぽい技で決着をつける。オーヴァーからの誘いには当然乗った。


(お、あっちは決着がつきそうだな)

 今日の勝負はどちらに旗が上がるか。ヴィラー・ルーはボチボチ撤退の準備へと取り掛かっていた。


「「いくぞっ!!」」

 二人同時、必殺技のスキルを発動しようとした。

「【パラサイト」「【クライシス」

 -----大技、剣と足が二人に届きそうだったその瞬間。その時だった。







 ----闇だった。

「んんっ……!?」

 二人の目の前は突如闇になった。テレビの電源を切られたかのように。突如周りの景色全てがブラックアウトによって消えていく。

「えっ……!?」

 不思議な感覚だった。宇宙空間に放り込まれたような。

 フワッと体が浮き上がる。気が付けば目の前にターゲットはいない。プレイヤーバトル中であるのにも関わらず別の空間に放り投げられた様で。

「「……ッ!?」」

 気が付いた時には----

 二人は

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