TURN.07「キミがヒーロー(その1)」


 -----後日、運営より発表された最初の復刻イベント。


“ヴァイスドラゴン出現! 討伐及び物資回収ミッションをクリアせよ!”


 イベント限定で出現する超強力モンスターの討伐依頼である。

 ここ1週間の期間内にゲリラで始まるタイムイベント形式。主に朝8時か昼13時。夕方18時に夜の22時の一日計四回。

 夜の22時。この時間に集結できるメンバーにてミッションを受ける。

「……どう? ドラゴンはいる?」

「いないな。別のエリアを徘徊してるようだ」

 ユーキとホッパーはヴァイスドラゴンの巣が存在する山岳エリアにてひょっこりと顔を出す。

『いくなら今じゃないかな』

「ですね」

 エイラとメグも静かに顔を出す。


 ----今回はこの四人でチャレンジ。

 スノーハイトは安定の夜勤。暗日もアルバイトであるコンビニが夜勤の週に入ったために今週は二日入れるかどうかというところ。ゴーストとJACKは大学にて面倒な宿題が出てきたのでそれを処理したいとのことだそうだ。

 時間があって集まったのはこのメンツ。ヴァイスドラゴンの巣にドラゴンらしき影がないのを確認すると大急ぎで巣の真ん中へと移動する。

「……見つけたぜぇええ~、かわいらしい卵よぉ。げひひひひ」

「ヒーローっぽくない下衆な笑いやめい」

 そこにあるのは巨大な卵。両手で抱えないと持ち運びが不可能なアイテムである。

『大柄でも一個しか持てないのがネックだね。おかげで周回が大変だ』

 ヴァイスドラゴン討伐のミッションは、そのミッション名の通りヴァイスドラゴンを討伐した瞬間にクリアとなる。

「ぐぐぐぐ……おぉもおいい……」

 制限時間の間、この無制限に発生する卵を何個か回収するとボーナスが発生するのである。経験値や特別報酬のゴールドなど回収すればするほど稼げる。結構なアクションゲームで見かけるメジャーな内容だ。

「カケル。そもそもさ、こうやって卵をパクってる地点でヒーローとしてどうなのかってならない? ヴァイスドラゴンが悪人かどうか知らないけど」

「カケル言うな。あとドラゴンは人じゃねぇ」

 ただし卵を持ってる間は攻撃アクションは出来ず、卵は何処かに置いておかなければならない。つまり移動中は基本無防備ということだ。

 地面に置かれた卵は攻撃を受けると破壊される。基本ドラゴンに発見された地点で隠す時間もないし、その辺に置いておくものならドラゴンの攻撃の巻き添えを食らって破壊される。

 卵を持ち運ぶのならドラゴンに視認されてない状態。四人は急いで卵を回収する。

『よいしょっと』

 エイラは卵を背中のコンテナの中に収納する。どうやらそういうスペースがあるようだ。

「……それ、本当に便利だな~」

「マシナリーが人気な理由がわかりますよ、ホント」

『自分でも思うよ。ファンタジー世界に高性能マシンってやっぱり反則だよね。でもそこがいいし、嫌いじゃない』

 マシナリーのみ卵を持ち運んでいる最中でも攻撃アクションが可能なのだ。ただし、卵を持ってる最中に攻撃受けた途端に割れてしまうが……アクションが出来る時点でかなりのアドバンテージである。

「ありがとうございます。手伝ってもらって」

『暇だったからね。やれるイベントはこなしておきたいから、お気になさらず』

 エイラは普段、写真家で大学生との事。バイトはパチンコで働いているらしい。

 今日も仕事が終わってそのままログインしたようだ。彼女にとってこのゲームは趣味そのものであるため暇あれば顔を出しているようである。

「よし、とっととズラかろう」

「そうだね」

 ホッパーとメグはそれぞれ卵を回収する。見ての通りヒューマンは両手が塞がるため無防備になる。ドラゴンがこの巣へ戻ってくる前に移動を開始する。

「四人で回収ともなれば経験値回収も結構捗るんじゃないかな?」

『だと思う。可能な限り卵奪っちゃおうぜ』

「エイラさん。おぬしも悪ですねぇ……ドラゴンが可哀想ですぞ~。にひひ」

『そういう君だって堕ちてるじゃないかぁ……げっひっひ』

 今回のこのイベントも経験値を大量に回収しておきたい。四人はそそくさとドラゴンの巣から撤退する。

『こういう回収ミッションは私を頼っておくれよ? マシナリーの独壇場だからね』

「ホントそれですね。一回マシナリーに変えるか迷いましたもん」

 敵の殲滅戦の強さや、回収ミッションで活躍。その多便性にユーキは何処か羨ましい表情を浮かべている。

『その代わり他の種族と比べて、ゴールドも素材の消費も激しいのが難点かな? あとミッション中に稼働制限時間とかあるのが難点だから、結構難しいよ』

 マシナリーの装備などはヒューマンなどの装備と比べてかなりの数の素材を消費する。それ以外にも専用装備の弾丸やエネルギーなどにもお金がかかる。

 ロボットという設定らしく移動用の燃料ゲージというものが存在する。幾度かスタート地点に戻って燃料を補給し、稼働時間のチャージをこまめに行わないといけない。戦闘力や便利性に優れている代わりに結構手間がかかる種族なようだ。

「それを使いこなせるなんて、エイラさん凄いですね!」

『はっはっは、伊達にこのゲームを長くプレイしてないからね!』

 ユーキからの尊敬のまなざしにエイラは大笑いで答えた。

『あっはっは……待って』

 エイラが一人、足を止める。

『……隠れよう。ヴァイスドラゴンだ』

「「「!!」」」

 どうやら、ヴァイスドラゴンを視認したらしい。しかも気づくのが割と遅れてしまったせいか、すぐ近くにまで来ているようだ。エイラは慌てて近くの岩陰へと移動する。ユーキもそれに続いて追いかける。

「メグ、俺達も急ごう」

 ホッパー、そしてメグも二人に続いて岩陰へ急ぐ。

「……あっ!」

 その途中。両手が塞がれていたことでバランスがとりづらかったのか。

「きゃっ!?」

 メグが盛大に転んでしまう。

「メグ!?」

 転んでしまった彼女に気付き、岩陰からユーキが顔を出す。

『まずい!』

 もう隠れる時間がない。ヴァイスドラゴンがエリアへと侵入する。



 ……転んでいるメグ。

 それを視認するヴァイスドラゴン。


 -----咆哮する。

 ヴァイスドラゴンには特殊な仕様がある。それは。このモードになると如何なる状態異常も通らなくなり、攻撃力もアホみたいに上昇してしまう。手が付けられない怪物になってしまうのだ。

「メグ!」

 コケた彼女に一番近かったホッパーは卵を投げ捨て駆けつける。

「うわわっ!?」

 無理矢理たたき起こされ、そのままおんぶの形で背負われる。

 まだ走れば間に合うだろうか。ホッパーはそう考えながらも全速力を出すが、暴走状態になり能力値が上がっているヴァイスドラゴンから逃げきれるかどうかといえば不可能に近い。このまま二人同時に焼かれる可能性の方が大だ。

『ユーキ、手伝って!』

「わかりました!」

 遠距離攻撃の手段を持つユーキとエイラ。ユーキは一度卵をその場に放り捨て、二丁拳銃を取り出し、エイラは両手のガトリングをドラゴンに向けて発砲する。

「ほら! こっちだ!」

 挑発。ドラゴンの意識を変えようと画策する。

『ホッパー、一度散開だ! 山岳エリアの麓付近で落ち合おう!』

 これだけの発砲数。これだけやればドラゴンの意識も集中する。

 暴走状態のヴァイスドラゴンはここにいる四人がかりでも手に負えない。適当に攻撃し、まいたところでしばらく時間を置く。暴走状態が解除されるまでは一度隠れる必要がある。

「……了解!」

 女性陣に囮を買ってもらう。そこに歯痒さを感じながらもメグをつれてその場から離れていく。

 まずは暴走状態のヴァイスドラゴンから逃げる事を考えないといけない。後の再会を信じて、その場から撤退した。

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