TURN.06「ボンバー・ボーイ&スパイス・ガール」


『ねぇ~翔~? 攻略サイトは確認した~?』

 モンスター大量発生イベント。謎の黒騎士出現から数日が経過した。

「確認はしてるけど色んな情報が出回ってる。どれが本当の情報であたりなのかわからない。正直コッチもお手上げ」

『まぁ~そーうだよねぇ~……こっちも色々漁ったけどダメだったわ。やっぱり負けイベントだったのかな?』

 いつもならカケルと呼ばれたら怒るところだが今は怒らない。まだゲームにログインはしていない現実世界の話。ユーキと部屋で通話中だ。

 それから黒騎士の姿を見たというプレイヤーは何人もいたらしいが……誰一人として黒騎士に勝つことは出来なかったと思われる。

 中には『こうすればダメージが出た』『え? 俺倒せたけど?』など沢山の情報が出回っている。しかしその発言は幾らでも飛び交っており、どうすれば倒せたかの条件も人によってバラバラだった。おそらく幾つかは背伸びをしたいだけの嘘だ。

「そう考えるのが妥当かもしれない。だって、スノーハイトさんと暗日さんですらどうしようもなかったんだよ?」

『レベル150の強豪プレイヤーですら勝てなかったみたいだしね。動画サイトなんか無理ゲーがどうたらで絶叫の嵐だよ』

 次回、黒騎士戦はまたおそらく何処かで始まる。それまでに情報を集めたいが……ゴールはなかなかに見えてこなかった。

「今からログインするけど、ユーキは来る?」

『行く。先に着替えるから待ってて』

「待って。部活終わって2時間くらい経ってるだろ? 帰ってきてからずっと制服だったんか?」

『着替えるの面倒くさくって』

 だらしのない一面を聞いて翔は苦笑いをしていた-----


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 メトロポリス3。全員のスタート地点である噴水広場にてホッパーは召喚される。

「やっ。四時間ぶり、カケル!」

「さっきまで電話はしてたけどな。あとホッパーな」

 会って早々にユーキと腕をゴッツンコ。軽い挨拶だ。

「こんにちは、カケル君」

 クラスメートであるメグも数時間ぶりの挨拶を交わす。ローブの中で見える控えめな笑顔が人形のようで可愛らしい。

「……だぁああかーぁあああらぁあああああああー!!」

 両手の人差し指を立て、いつものツッコミをかます。

「ホッパー! H・O・P・P・E・R!! ホッパぁああああッ!!」

「あーれー」「ごーめーんーー」

 最早わざとではなかろうかと言わんばかりにホッパーは両手の人差し指をクラスメイト二人の頬へと突き立てた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 三人揃ったところでギルドハウスへと向かって行く。

 今日は今後のイベントについて少しだけ話をすることになった。大人組も積もる話はあるようで、ちょこっとハメ外しに付き合ってほしいとのこと。

 いつもお世話になっている中学生組はそれを承諾。大人組の一同に付き合う事となった。

「さてと、それじゃお邪魔しま」

「ざけんなよォ!! ゴルァアア!!」

 扉を開けようとした矢先、扉の向こうで物騒な声が聞こえてくる。

「「「ひぃいいっ!?」」」

 女性の声だ。しかもヤケに喧嘩腰で物騒な予感がする。

「……あっ、今の声って」

「来てるみたいだね」

「あぁ、ビックリしたぁあ~~……」

 三人は扉を開いた。何かを思い出したかというか、少しホッとしたように。

「何なんだあのクソステージは? 入った矢先にティッシュ配る感覚で瞬殺に来やがって……本当に酷い目にあったぞ、コラ」

 リビングのソファーに足を組んで腰掛ける女性アバターが一人。

 チューブトップの上着、太ももがかなり露になってるホットパンツ。真っ白いアルビノ肌に赤い碑文のようなものが浮き立っている。室内だというのにマフラーを外さない。ヒューマンにしてはどっか魔物っぽさの見える白髪のキャラがいる。

「確かにアレはビックリしたねぇ。爆弾が一発も効かなくて焦ったのなんの」

 もう一人はファンタジー世界にしては何処か近未来SF風の衣装の男が一人。彼もまた何やら愚痴を呟いているように見える。

「攻略サイトを見てみりゃ攻略は事実上不可能とのお知らせがあると来た。あぁ~……あの甲冑野郎、思い出すだけでもむかっ腹がぁああ……!」

 女性アバターは背中に背負っている鎌を片手に声を上げる。

 あれはCPUであるのは間違いないのだが、一方的に蹂躙されてしまい運営に笑われているような気がしてむかっ腹が立っているようだ。小馬鹿にされることがあまり好きじゃないようで歯ぎしりまで起こしている。

『はっはっは。【ゴースト】、怒るのは勝手だが出来れば子供達の前では控えてな』

「うるせぇ、エイラ! コッチのイライラがどれほどものかも知らねえでよぉお! 表出てストレス発散に付き合ってもらって……あっ」

 いつの間にか中学生組が部屋に入っていることにようやく気が付いたようだ。

「ああ、悪い……物騒なところ見せちまったな」

「大丈夫ですよ。ゴーストさんが愚痴を吐いてるところなんて、日常茶飯事ですし」

「うぐっ!」

 容赦のないホッパーの言葉が胸を刺す。どうやら日常茶飯事らしい。

「あっはっは、言われてやんの」

 男性アバターが笑いをこらえられず爆笑する。

「表出ろ【JACK】。数発殴らせろ」

「残念ですが、メトロポリス内でプレイヤー同士の戦闘は出来ませーん」

「じゃあログアウトしろ。今からお前の部屋にいくから準備しとけ」

「まさかのリアルファイトに持ち越し!? 怖い怖いッ!」

 二人のアバターは中学生を前にみっともない喧嘩をやり始める。

『あぁもう。言ったそばから……』

 これにはエイラも苦笑いをしていた。ロボットのアバターなので笑っているかどうかは分からないが、この妙な沈黙と微かに聞こえるノイズのような音でそのような表情を浮かべているのは察せられる。

 そう。この二人こそ、レポートが忙しくてイベントには当日に参加できなかった二人組なのである。


 女性アバターの方の名前は【ゴースト】。レベルは95。

 種族は“魔物の血が通ったヒューマン”という設定の“デッドマン”。ヒューマンと違って魔物っぽい見た目が特徴的でその職業の全般も魔物みたいなものや、人間の敵っぽいものがダントツで多い。職業はグリムリーパー。つまりは死神だ。


 そして、男性アバターの方の名前は【JACK421】。レベルは97。

 種族はヒューマンのように見えるが少し違う。彼の種族は“遠い未来からやってきた古来の人間”という設定の“タイムトラベラー”。

 ファンタジー世界ではあるのだがSF設定も割と入っているのがこの世界。まぁ空飛ぶビル街がある地点で察してはいるか。職業は爆弾使いのボマー。

「さぁ、いますぐログアウトしろ。お前をこの世からデリートしてやる」

「申し訳ないけどこの世でやり残してること沢山あるんでね。やりたいことやりつくすまでは死ねんのだよ。少なくともFカップを揉むまでは死なん」

「私の前でFカップの話をしたな。ブッ殺す、確実にブっ殺す」

 今もなお喧嘩は続く。リアルファイトの喧嘩が始まるかどうかはまだ分からないが……この果てのない口喧嘩はまだ続くと思われる。体では無理でも、口では言いたい放題だ。

「ごほん! 二人とも静粛に!」

 するとどうだ。天井から暗日が咳ばらいをし降りてくる。二人の喧嘩に介入するかのように割って入り、二人の顔をアイアンクローでそれぞれ掴む。。

「おい止めるな!コイツに一発くらい」

「これから見本にもなる人がみっともないところを見せるべきではないですよ」

「うぐっ……」

 ガチなトーンで年上からの説教。

 これにはゴーストも押し黙り、大人しくソファーに正座する。

「JACKもJACKで煽りすぎですぞ。自重しなさいな」

「すいやせん~」

 反省してるかどうかわからないが謝ったので一応許すこととする。

「よろしい! では早速、今日のお話と参りましょう」

 暗日は笑顔になると、今日のイベントについての話へと取り掛かろうとする。

 ……流石はギルドを束ねるマスターの一人というだけの事はある。大人の一人として二人の行動を捨て置けないのかしっかりと説教もかます。

 ゴースト達は大人組に結構お世話になっている身だそうだ。それもあってか強く言えない立場のようである。

「あれ? リーダーはいねぇのか?」

「絶賛社畜中でござる」

「「あぁあ……ご愁傷様……」」

 今日は仕事のため来れないようだ。そのためスノーハイトの代わりに今後のイベントについて話を進める事となっている。

(((スノーハイトさん……どうかご無事で……)))

 仕事場でドンヨリとエナジードリンクを飲みながら仕事をするスノーハイトの姿が目に浮かぶ。中学生組も両手を揃えて彼女の無事を祈っていた。

「今回のイベント。あの魔界のようなものは新ステージであると思われる。しかも上級者にも厳しいステージになるでしょう」

 魔界ステージで戦ったあのボス。敗北イベントだったとはいえ、その強さは計りしれない。

「あそこへ突撃するのなら今後用意をする必要があるでしょうな」

 少なくとも、今の状態で行くのは結構厳しいと思われる。

「私たちもかなりレベルを上げる必要がありますね」

「頑張らないと……」

 ユーキとメグは二人して今後の目標を立て始める。

「コラコラ。君達は中学生なのだから、やりすぎは良くないですぞ」

「大丈夫! ちゃんと勉強もしてるし、部活も頑張ってるから!」

「はっはっは、程ほどに」

 やることはちゃんとやってからゲームをしている。中学校生活に支障は出ていないことを彼女達が口にした後、暗日は再度釘を刺しておいた。

「俺も……そのイベントまでにはレベルを上げときます!」

 ホッパーも目標を決める。

「間に合えばスーパーヒーローを解禁します!」

「ふむ! 自分がログインしてるときに、出来ることがあればお手伝いしますぞ!」

 暗日は笑顔で決意を固める少年に返事をする。

「こっちもこっちでレベル上げとくわ。あの黒甲冑、次こそぶっ潰す」

「そうだねぇ。ボチボチと」

 ゴーストとJACKも中々やりごたえのありそうな難易度のステージを前に気合いが入っていた。珍しく攻略という楽しさに目覚めかけているようだ。


「よしっ! それじゃあ、折角集まったのですし、何かミッションの一つでも行きましょうか! 何か手伝ってほしい事は?」

「えっと、じゃあ!」

 ひとまず、少年の夢であるヒーローへ一歩近づかせる。

 大人達はそちらを優先して、協力することとなった。

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