TURN.05「クール・ビューティーを目指して」
「よいしょっと!」「おらァッ!」
廃棄研究所エリア。今日もホッパーとユーキは上級者用ミッションにて、機械系モンスターを相手に戦っている。
「カケル! そっちに行った! 背後に気を付けといて!」
「カケル言うなって何千回言えばわかるんだァアッ!! あと報告ありがとっ!」
経験値上昇アイテムはこの間配布されたものをホッパーが使用しているためその恩恵がユーキにも。ダーク・ヒーローというジョブは特別上位職ということもあって中々レベルが上がらないためにこのボーナスはありがたい。
「これでフィニッシュだぁあ! 【ダークネス・ヒーロー・キック】ゥウウ!」
「こっちも終わり!【フィニッシュ・ターン】ッ!!」
お互い必殺技を打ち込む。最後の一体をそれぞれ撃破。
重複不可能のアイテムを交代制で。ホッパーとユーキはそれぞれの戦闘スタイルで廃棄ロボットのモンスターを倒していった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
----戦闘終了。同時にミッションも完了。
メトロポリスに帰還したホッパーとユーキは到着するなり、すぐ近くにあったベンチに二人同時腰掛ける。
「「疲れたぁ~!」」
そして二人同時に声を漏らした。このリアルな疲労がいつも体に応える。
「後ろに回復支援なしでの上級ミッションは流石に厳しいものがあるか……」
「仕方ないよォ~、メグってお父さんお母さん大好きだし~……私もだけど」
いつもは一緒に行動しているメグであるが……彼女は今日、家族で晩御飯のため遠出をするらしく、M.V.Pには顔を出せないと口にしていた。
「さて、早くギルドハウスに行くなり回復を……やべぇ、体も心もボロボロだ」
後ろに支援攻撃と回復支援がないだけで結構なスタミナを消費した。
ヒットポイントもメトロポリスに戻るだけでは回復せず、近場の医療施設かギルドハウスに戻らなければ回復しない。移動のしやすさはヒットポイントが左右されるので常時ポーションを飲みながらの戦闘と帰還になっていた。
「ありがとね~カケル~。アイテム探し手伝ってくれて~……おばあちゃんもう疲れたよ」
「だからホッパーだって言ってるっちゅうに、この現役中学生が」
中々直してくれない癖にホッパーはユーキの頬へ人差し指を突き入れる。
「えっと……あと二つかぁ。これくらいだったら、別のミッションを受ければ集まるかな?」
一度受けたミッションは五日経過しなければ再度受けることは出来ない。受注可能なミッションを確認し、彼女が確保したいアイテムの残り個数など指折りで数えながら確認を入れている。
「部品パーツ集めてるみたいだけど。何を作りたいんだ?」
機械系モンスターがドロップする部品ジャンクパーツ。これは主に一部武器の制作だったり、エイラのようなマシナリーの装飾アイテムの制作などに用いるアイテムである。
ある程度欲しい装備アイテムは作り終えている彼女はこの部品パーツを集めて何を作りたがっているのかをホッパーが聞く。
「それは勿論! ヒーロー職になったのなら手に入れておきたいあの特殊アイテムがあるでしょーが!」
ベンチから立ち上がり、片手を空に掲げる。
「バイクだよ!」
それはバイクである。
このゲームは特定のジョブになると一部乗り物を使用できるようになるのだ。
例えば騎士関係のジョブであるならば馬やドラゴンに。ガンナーなどミリタリー関係のジョブであるならば装甲車両やバイクなどに。
「やっぱりさぁ~。ヒーローってのは専用の乗り物があるとカッコいいもんじゃん~? ヒーロー戦隊はロボットや戦闘機だったり? 仮面のヒーローはバイクだったり! こういうのは演出が大事だって、カケルも言ってるじゃ~ん~♪」
そしてヒーローとつくジョブはバイクに乗る事が出来る。しかもスーパーヒーローとダークヒーローにしか乗れない専用のバイクがあるらしく、それがまた格好良くて人気が高い。
せっかくこのジョブになったのならバイクを手にしてみたい。ユーキは前々からそんな計画を企てていたようである。ユーキは両手の人差し指を突き立てはしゃいでいた。
「……羨ましくなんてないし」
「あっ、また拗ねやがった」
「拗ねてねーし」
ヒーローとバイク。まさしく様式美。それを経験できるユーキを前にホッパーはやはり不貞腐れる。
「まぁまぁ~。いやがらせのつもりで言ってるんじゃないぞ~? ほれ、バイクは二人で乗れるみたいだからさ~? 二人そろってバイクに乗るとサマになるんじゃない! 出来たら真っ先にアンタを乗せてあげるからさ!」
「……マジ?」
「超マジ」
目を輝かせ、顔を上げるホッパー。それに対し、ユーキはVサイン。
「心の友よ」
「当然だぜ、相棒」
バイクの二人乗りは現実世界ではルール違反だがこの世界ではアニメや映画特有の二人乗りが可能。出来た暁には一足先にバイクへ乗せてあげると小指を出してくる。
指切りげんまん。約束を交わす準備だ。
「その代わり君もいつかヒーローになったら、スーパーヒーローにしか乗れないバイクに乗せてよね!」
「あぁ、もちろん!!」
スーパーヒーロー専用のバイク。それは特撮ヒーローが使用するようなタイプのものだ。しかも専用でサイドカーまでつけられる機能がある。
スーパーヒーローを目指す人間は少ないため、そのバイクに乗れるのは結構貴重なことである。それを約束してほしいとユーキはニカっと笑う。
「ただ、いつになるかはわかりませんがぁ~……」
「おい。約束を交わしてる最中で急にナイーブになんな。不安になるだろうが」
急に後ろ向きになったホッパーをユーキはジトっとした目で眺めていた。
「……分かった。絶対ヒーローになってやる」
「約束だよっ!」
指切りげんまん。二人は約束を交わした。
「さぁて、次のミッションに行くよ! 早いとこバイクを作って、メグや皆を驚かせないとねぇ~!」
休んでる暇はないぞと、次のミッションを受けるためにミッションセンターへと移動を開始する。
「バイクに跨る女性の人ってクールで格好いいって言うからね……クールな私を見せてあげるよ!」
「クールビューティーなユーキかぁ~……」
ホッパーは移動しながら、今の性格とは真逆の彼女を想像してみる。
バイクを止め、とったヘルメットを両手に首を揺らし飛び散る汗。なびく髪。唇をスラリと舌で濡らし、大人っぽい表情を浮かべるユーキの姿。
「……うーん~?」
「おい、似合わないって思ってるだろ」
「俺はまだ何も言ってないだろ」
「『まだ何も』って言った! やっぱり、そう思ってたんじゃん!」
軽い口喧嘩をしながらも、ミッションセンターへと向かって行く。
(……スーパーヒーローになって)
想像するのはユーキの姿だけじゃない。
(ユーキの隣に立つ、か)
二台並ぶバイク。そこから現れるのはスーパーヒーローのホッパーと、ダークヒーローのユーキ。特撮でも胸が熱くなるシーンを妄想する。
(……いいかも)
最高に決まってると思ったホッパーはちょっと自分に酔ってしまったのか、むず痒い表情のままニヤケを止めることが出来ないでいた。
「どうしたカケル。なんかすげーキモイ顔してたぞ」
「え、マジ?」
「超絶マジ」
ホッパーは慌てて両手で頬の緩みを治そうとしていた。
(……それでいつか。こいつの役に、立てればいいな)
ヒーローになる。それが彼の夢である。
----それともう一つ。
彼には周りに話していない夢があった。
その話は、いずれまた----
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
機械系モンスターを数体倒せ。ミッション無事完了。
残りの部品を手に入れるため、二人は奮闘中。
「アイテムが足りなぁあああい……!!」
ユーキは絶叫と共に崩れ去る。
「ビックリするくらいのクソドロ率ッ……!」
ホッパーも同様に崩れ去る。
あまりのアイテムの落ちなさぶりに二人して絶望している模様。
……二人のクールビューティな夢はまだまだ先の話。
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