分からないもの

一子

分からないものを知りたい

時々出会う曲。時々出会う絵。時々出会う景色。時々、どこか遠い昔にどこかで出会ったことがあるかのような懐かしさを秘めているものに遭遇する。あのなんとも言えない切ない気持ち、愛おしさ、寂しさ、哀しさ、叫びたくなるような何かを呼び覚ます。

昔、いつの事なのか。生まれる前なのか。前の人生なのか。もっともっと前に生きていた頃に感じた感覚なのか。それとも、本能的に誰もが感じるものなのか。この感覚の正体を知りたい。

私は誰で、ここはどこなのか。

昔は誰で、どこで、誰と一緒にいたのか。私が私になる前のこと、そして今の自分のことをもっと知りたいと思った。ここがどこかも分からない。この世界は本当にこの世なのか。死後の世界だったりはしないのか。

なぜ今ここにいるのか。なんのためにいるのか、どうしているのか。いなくなってはいけないのか。いなくなったらどうなるのか。

何も知らないし知ることはきっと出来ないから。何も考えないように、この世界で必死に生きてみる。そうして忘れているうちに、小さな悩みや不安に命を削られる。そしてまた戻る。私は誰か、ここはどこして自分の名前は分かる、地名も分かる、でもちがう。そんなことじゃない、私は誰か、ここはどういう世界なのか。答えを求める。そうするとついさっきまで必死だった苦しみがとてもちっぽけなものに思えてくる。ものの本質とは何か。人生とは人間とはこの世とは宇宙とは、生命とは。本当はなんのかは絶対に誰も教えてはくれないしきっと人間には分からない。考えるべきではない、知る必要はない。ただ与えられた命をこの世界で必死に消費するしかない。

スケールの大きな別の世界を見ているような感覚。戻っても戻ってもまたすぐに忘れて、ちっぽけな人生に一生懸命になる。忘れるべきなのだ。考えてもすっきりしない。怖くなったり、何も出来なくなったり、出口を失ったりするだけ。

でも知りたい。分からないことを分かりたい。死んで初めて分かるのか。そしていつか忘れるのか。私は昔は知っていたのか、忘れているだけなのか。それとも初めから知らないのか。

だんだん自分が何を考えていたのかも分からなくなる。でも確か存在する、目には見えない、何か大きな世界。

私はそれを見たいのか、そこに行きたいのか。いた事があるのか、思い出したくないから思い出せないのか。

何もわからない。でも分かりたい。

きっと私はそれを知りたい。でも本当に知りたいのかは定かではない。

大切なものはどこにあるのか、本当に私の人生の中にあるのか、生活の中のどこかにあるのか。もっと別の次元の別の世界にあるんじゃないか。そんな感覚に襲われてまた怖くなる。そしてまた忘れる。キリがない。

同じことの繰り返し。

思い出して、知りたいと考えて、本当に知りたいのかと問う。そしてまた分からなくなって忘れる。そしてまた思い出す。そして忘れる。終わりはない。


でも、やっぱりきっと人はみんな知っているはず、この感覚を。人だけじゃない、命あるものは皆知っているんじゃないだろうか。

時々帰りたいと感じる、別の世界の存在に。気づいている者は気づいている。


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