第500話 目的の砦に到着です
途中、いくつかの町を経由しながら、王国東端の前線より30km後方に新たに設けられた砦に向かう。
そこがゴーフル中将からメイレー卿に総大将の軍権を移譲する場だ。
中将自身にはその砦でしばらく休養と調査が行われる。
王都からここまでの道中は、何度か魔物に遭遇したけれど、僕が考えていたよりかは問題なく来れた。国内の治安はまだ問題は大きくないように思う。
国内の中間防衛圏が上手く機能してくれているみたいだ。
「……あれが、アーツ・シューク砦ですか。中々立派なモノですね」
アーツ・シューク砦――――――聞いているところによると、元々は今よりも半分くらいの規模の砦で、東国境線が完全に破られた場合の戦線後退を想定して建てられていた予備の拠点らしい。
だけど東からの魔物達との戦いが長引いていることや、国内でも大規模な魔物の軍団が発生した事を受けて、国内防衛の見直しの一環として、この砦も改修され、軍事拠点としてそれなりに強化された。
高さ8mほどの人工の土台が、一片が400mほどの五角形を成し、その上に階層だてて積み合げるように土台が盛られ、一番高い場所で7階層の高さは70mほどになる。
とはいえ、全体は平べったい印象。前世の日本のお城の、天守閣を持つ本丸なんかを除いたような雰囲気だ。
「外壁がないんだぞ?? あれじゃ魔物が攻めてきても守れるのか不安だぞ」
「いえ、大丈夫なんですよオフェナさん。ああ見えて造りは迎撃に向いているんです」
まだ少し遠目だから分かりにくいけれど、一番下の土台部分は高さが8m、そしてその表面の傾斜は直角に近い。
基本はその上に兵士さん達が配置するから、地上を攻め寄せる魔物達相手なら8mの高低差でもって迎え撃つ事ができる。
しかもこの8m、という高さは実は、この国の一般的な小砦の外壁と同じ高さだ。万全な高さではないけれど、最低限は確保されている。
さらに砦の外壁よりも遥かにその上の面積は広い。兵士さん達が動き回りやすいんだ。
「遠目ですから分かりにくいですが、あの一番下の層の土台が外壁とほぼ同じ防御効果を果たしますし、そこを突破されて登られたとしても、次の層がまた外壁の役目を担います。そして内部は軽く迷路のようになっていて、兵士さん達が侵入してきた外敵を各個撃破しやすい構造になっているんです」
もっとも、空を飛ぶ魔物がいたらそんなものは全部無意味だけど、それを言ったら他の軍事拠点も全部そうだしね。
「なかなか興味深い造りにナっているのデすね。それで殿下、あの砦でゴーフル中将とやらを診ればよろしいのですね?」
「はい、お願いしますね、ヴァウザーさん」
今回、ヴァウザーさんは何も僕の護衛としてだけで選ばれたわけじゃない。謎の症状を起こしているゴーフル中将の診察を、ポーションを作り上げるだけの医療知識や技術を持つヴァウザーさんに行ってもらうためでもある。
「(むしろそれが主目的だろうなー。今の王国で、ヴァウザーさんに勝る適任者はいないし)」
ちなみに僕は、ゴーフル中将とメイレー侯爵の軍権移譲の儀と宣言を行う、王様の代理だ。
まあ事務的な手続きを監督する役所のお偉いさんみたいなものだと思えば気が楽なんだけども……
「……今のところ、アースティア皇国が宣戦から動きを見せていないのが不気味ですから、なるべく早く異常の原因を掴みたいところですね」
王国の国境の先、南東で樹立を宣言・宣戦までした皇国、アースティア。
だけどその後は不気味なほど静かだ。
いつ南東の国境が侵されてもおかしくないとピリついている王国側を緩ませ、油断させるためなのか、それとも単に攻め込む準備が完全には整っていなかっただけなのか……
「オフェナ、いまでも信じられないんだぞ。魔物の支配してるとこに人間の国ができるなんてビックリなんだぞ」
「果たして人間の国かは怪しイものですが、宣言は本当デスからね……今後、どのようナ動きをしてくるか、殿下におかれましては不安な事でショウ、心中お察し致しマス」
「ありがとうございます、ヴァウザーさん。確かに何かと怪しい話ではありますが、油断できないのも事実です。しかしながら今は、注意深く様子を伺うしかありませんから、その間は国内の安定のためにもまずは、しっかりとおかしな中将の症状を確認することに致しましょう」
僕がそう言うと、ヴァウザーさんとオフェナさんも頷く。
そうこう話している内に、僕達の車列は目的地、アーツ・シューク砦の入り口の門へと差し掛かっていた。
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