第498話 熱血ナイスミドル再びです




 そして、僕が後見として送迎する総大将の一時代理者は―――


「殿下。この度のご指名、感謝いたします。王国の危機なればこのフローレン=オリア=メイレー……殿下、宰相閣下、そして国王陛下のご期待に応えてみせましょう」


 東への道中で合流したのは他でもない、対ヴェオス戦でお世話になったメイレー侯爵。

 そして今回、特務将官―――特将に任じられて、ゴーフル中将の一時代理を務めるのが、他でもない彼である。




「よく来てくれました、メイレー卿。ご領地の方は大丈夫ですか?」

「ハッ、ご心配いただきありがとうございます。治安はハバーグに、統治は信頼おける家人に一任してまいりましたゆえ、どうぞご安心ください」

 メイレー侯爵なら、その辺りの心配も不要だろう。


 今回、王城詰めの貴族でもなければ、軍属でもない彼に白羽の矢が当たったのは、先の対ヴェオス戦での指揮や、普段から魔物の多いユーラーン地方での経験が豊富である事などが主な理由だけど、それ以上に今回は王都の将官を使えないという問題があった。


「(忠誠心の強い将軍が必要だったけど、今すぐに動かせる将官位の人は実戦での指揮経験が怪しい人ばっかりっていうのもなー……)」

 そんな人が将官ってどうなのか。

 優秀な人は既に別の役目を与え辛いところに配されているので、こういう時には人はいても適任はいないになっちゃうのは、ちょっと考え物だ。




「メイレー卿、こちらはヴァウザー氏です。王城にて魔法と医療の研究を行ってくださっている方で、ポーションの発明者でもあります」

 そう言って僕がヴァウザーさんを紹介すると、ヴァウザーさんが挨拶名乗りをしようとするよりも先に、メイレー侯爵が食い気味にずいっとヴァウザーさんに寄ってその両手を掴んだ。


「おお! あの新薬を! これはこれは、貴殿の新薬は我が領でも評判で、大変に助かっておりますぞ!」

「は、はぁ……それは何よりデ……す、んんっ、ゴホン」

 困惑しながらも、魔人なまりが出ないように頑張ってるヴァウザーさん。

 それにしても、メイレー侯爵は相変わらず熱い性格だ。見た目は眉目秀麗な貴族のナイスミドルなのに。


 ちなみにヴァウザーさんが研究していたポーションは、一定の安定した効能と生産性が確立できたモノがつい最近、王室監督の下に量産され始めた。

 まだ数は少ないことを理由に、王室派貴族の、特に自領内にて魔物の出没が多い貴族に少しずつ供与してる。


「ヴァウザー氏の功績は大きなものですから、メイレー卿が興奮なされるのも無理

ありません。ですが侯爵、少し落ち着いてください」

「ハッ!? これは申し訳ない、殿下の御前おんまえでつい取り乱しを」

「喜んでいただけて、何より、です。デすが、ポーション研究の発端は殿下の発案とアイデアによる所デすので、ンン……わたくしめだけの功ではありません」

 確かにその通りだけども、謙遜に僕を理由に絡めないで欲しい。

 そんな事を言ったら―――


「なんと! さすがは殿下、素晴らしい! このメイレー、感服いたしました!」

 ほら始まった。

 僕に向き直ってわざわざ膝まで地面につけちゃって、熱く語り始めちゃったし。

 王室への忠誠心が強くて、熱い性格だから火がつくとなかなか止まらない。


 僕を褒めたたえる言葉から段々と王家の素晴らしさを語り始めるメイレー侯爵を挟んで、ヴァウザーさんが申し訳ないと僕にジェスチャー混じりに謝っていた。



  ・

  ・

  ・


「? そこのオかた、少しよろしいダろうか?」

 メイレー侯爵の熱がようやく冷め、東への出発に向けて合流した隊を整えている最中、ヴァウザーさんは一人の女性に声をかけた。


「んん? オフェナのことか?」

 (※オフェナは「閑話.人物紹介.その18」あたり参照)


「はい、貴女はもしや……?」

「? なんだ、オフェナがどーかしたか??」

 メイレー侯爵と契約している女傭兵のオフェナ。

 ヴァウザーは彼女から、ほのかに父が持つフィーリングに似た何かを確かに感じていた。


「いや失礼、不躾ならがらご両親は息災デすか?」

「?? おー、親父は多分元気いっぱいだぞ。お袋も親父がいるから元気いっぱいだと思うぞっ」

 そう言ってニカッと笑う。

 子供のように小柄ながら、どこか成熟した生命である事が分かる―――100%の人間ではない。


「(……父さん。どうヤら父さんの仲間ガ、父さんの知らナイところデ似たような考えの下に生きテいるようデスよ……)」

 オフェナはヴァウザーを奇妙なものを見るような目で首をかしげる。

 彼女自身は知らないが、彼女の父親は魔人ドワーフだ。


 ハーフ・ヴァンピールであるヴァウザー同様、オフェナも魔人と人間のハーフである。


 小柄な体躯に巨大戦槌ハンマーを軽々と振り回すパワー。


 魔人が受け入れられなかった悲劇から幾百年―――かつての魔人達が神より与えられた使命の成果たる結晶達は、奇しくも自覚なく、こうして人間の中へと溶け込みつつあった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る