第493話 お隣の国が不穏そうです
王都に戻ってきてから耳にする、芳しくない話の2つ目。
それは貴族達の動きだった。
「やっぱりエルフの起こした事件をネタに、世の中を煽り立てようとする人が後を絶たないみたい」
そう言って、シャーロットは軽くため息をついた。
「王都内の民のみならず、各地にもそういった煽り立てを行おうとする貴族の方々がいる……これまでとは少し異なった動きですね」
僕は各地から寄せられた "
本当に反王室派貴族は諦めが悪い。
「(王都の乱に乗じて好き勝手やろうとして失敗し、勢力激減したっていうのに、本当に懲りない人達だなぁ)」
「あとは、これ」
シャーロットがさらに取り出してきた新しい報告書を受け取り、目を通した途端、僕はその内容を疑った。
「
この王国の西隣の共和国。
国自体は小さめで、王国の3分の1ほどの領土しか持たない。
当然それに比例して国力も人口も低く、過去には兵士不足で領内の魔物討伐に苦心して周辺国に兵の貸与をお願いした事もあるほど、自前の軍事力は弱い。
王国とは友好的で、国交はもちろんのこと人・物の往来も活発だ。
国力の大半を自国の経済活性化や環境保全に回しているので、軍備に回す余裕などない。
「そ。しかも今までじゃ考えられないくらいの規模で、国費を投入してるみたい」
そもそも国内の魔物への対応以上の軍事力を持つ必要がないので、この報告書の内容が真実なら、かの国に何かあった事になる。
「魔物が大量発生した、ということでしょうか……」
この世界では人間の国家同士が戦争をした歴史はない。なので軍備の急拡大の理由は魔物しかない。
だけど……
「それが少し妙な感じなの。これを報告してきた人は口頭で “ 他国の者によそよそしく、世間話すら口を閉ざす雰囲気 ” だった、って付け加えてきたんだよ」
報告書に書かずに口頭で―――つまり、そこに何か文章として記せない肝があるってことだ。
「報告書の内容は最低限……共和国内は
ありえなくはない。“ ソレ ” は、ありえなくはないんだ。
この王国内で “ ソレ ” が起こるかもしれないと、僕は危惧していた。
だけど何も王国に限った話じゃない。人間の国はいっぱいある……そのいずれかが、何等かの理由で “ ソレ ” を起こす可能性はありえる。
……人間同士の戦争を起こす可能性は、ありえるんだ。
――――――王国西部、某所。
「ご苦労様~。首尾はどうかしらぁ?」
「はい、言われた通りに仕込み終えました、きっと上手くいくでしょう」
そう言って人の姿からスライムへと戻るホウランス。
仕事をやり切ったという誇りを胸に、安堵感を滲ませていた。
(※ホウランスは「閑話.人物紹介.その24」あたりを参照)
「そう~、それは楽しみねぇ。果たして共和国は持つかしらぁ、フフフ♪」
自分が仕掛けたこととはいえ、女性は共和国に対して同情心を持ちつつ、愉快そうに笑う。
共和国はまず、議員同士が疑心暗鬼に陥る工作を受けた。
そうして政治の中枢が混乱している間に、彼女は魔物を共和国領内に放ち、暴れさせる。
結果、共和国はとにもかくにも領内の魔物への対処をと軍備拡充に走ることになったのだが、議員同士が互いを疑っているためにそれぞれがそれぞれの支持基盤の地元から兵を募りだした。
加えて他の地から来た者が、他の議員の手の者かもしれないとして、支持する自分の民にあまりよそ者と会話をしないようにと、注意を促したのだ。
そして彼女達はそんな足並みそろわずに降ってわいた魔物に対処を開始した共和国に、さらなる追い打ちを与えた。
「共和国北の王国、南の公国も共和国の急な軍備拡大には順調に疑念を抱いています。上手くいけば、人間同士が衝突するのも時間の問題でしょう」
しかし、主の策略は成功すると自信たっぷりなホウランスに対し、その当の彼女は軽く両目を伏せ、小さく首を横に振った。
「いいえ~、そこまでは上手くはいかないでしょうねぇ~。ですが、人間の間に疑心暗鬼の種を
彼女が共和国を狙い撃ちにした理由―――それは、王国に西への意識を向けさせるためだ。
本来その役目をヴェオスが、王国西端のマックリンガル子爵領で担っていた。しかしヴェオスは敗れ、子爵領が安定に向かっている今、王国にとって新たな “ 西の脅威 ” を設置する必要があった。
「フフ……さぁ、準備は着々と……堅実かつ地道に進めていきましょう~。レインちゃんの準備もデキつつありますから、まだまだのんびりとはしていられませんよ~?」
そう言って王国の中央方面に視線を向ける女性。
そんな主に
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