第492話 近くは治まり、遠くは新たな不穏が漂います
王都で数日の間、必要な事を済ませてシェスクルーナとリジュムアータが改めて、ルクートヴァーリング地方に “ 名代領主 ” として赴任する日がやってきた。
「では、お後はお任せくださいませ、殿下」
「はい、二人をよろしくお願い致します、エルネールさん」
エルネールさんは先達としての引継ぎと、ルクートヴァーリング地方の事を二人にレクチャーするために同行。
また、
「(前世には “ 女爵 ” なんて位はなかったから、これもこの世界独特のモノなんだろうな)」
前世の中世時代に比べれば、まだ今世の方が女性の社会的な扱いは男性と同列に近いところにあると言える。
だからといって、特別女性が優遇されているというわけでもない。男女問わず、成果や適正に応じて正しい評価と割り振りをする、という感じだ。
クーフォリア加えた4人を乗せた馬車が出発し、護衛の騎兵団がそれに続く。
エルネールさんとクーフォリアは、リジュムアータが慣熟したら王城に戻って来るので、1ヵ月ほどで帰ってくることになるだろう。
「これでルクートヴァーリング地方はしばらくは安泰かな。だけど……」
王都に帰ってきて、色々と芳しくない話も耳にしている。
まず1つ目は、東の魔物との戦線が不穏さを増していることだ。
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「王弟殿下にご報告申し上げます」
来客用の間で膝をついて頭を下げているのは、勇者ジェインの仲間で、シーフのセーラさんとクレリックのクリスさんだ。
ついにパーティリーダーであるはずのジェインは今回登城しなかった。
「ウチのバカが来るとお話が円滑し進みませんので、縛り上げて睡眠薬を盛り、宿に転がしておきましたので、どうぞご安心ください」
僕の誰かさんを探す視線の動きに気付いたセーラさんが、ニッコリと笑顔でそう述べてきた。うん、すごくいい笑顔だ。
「気遣い頂き、ありがとうございます。それで、東の戦線がよろしくないとのお話が、別でも届いていますが現地はどのような状況なのでしょう?」
シャーロットの "
けど同時に、勇者ジェイン一行にも現地に赴いて魔物との戦いに参加し、様子を探ってもらっていた。
「本当に異様です。王国軍はとてもちぐはぐな感じでしたし、戦線もデコボコな状態になっていまして……最初はとても激しい攻防がなされているためかとも思いました。ですが、それにしては怪我人があまり運ばれてこず、軍の雰囲気と戦況の実態がかみ合っていないのではと、疑ってしまうほどです」
クリスさんは薬学の知識で、薬を駆使して怪我人の治療に当たっていた。
なので兵士さん達の消耗具合などは肌間隔で把握できる。
ところが治療所に運び込まれてくる兵士がやけに少なかったらしい。
「実際はさほどの戦闘は起きてはいない……ということでしょうか」
「いえ、私とあのバカは前線にも出て、実際に魔物とも戦いましたが、少なくとも前に出る兵1人に対し、10匹以上が襲い来るほどの戦闘が1ヵ月の間に6度ほどはありましたし、そこまででなくとも怪我人が出るだろう規模の衝突に至っては何十回とありました」
最前線の戦況がセーラさんの言葉通りなら、確かに治療に担ぎ込まれる兵士さんの数が少ないのはおかしい。
怪我をして退がれないまま、戦場で死に絶える兵士さんがすごく多いのか、もしくは……
「ちなみにですがセーラさん。現場では
「……そういえば、あまり見受けられませんでした。実は王国軍の兵士があまりやられていない、そもそも深い怪我を負っていない、という事……なのかな??」
クリスさんと顔を見合わせ、そう口にするセーラさん。
だけどそれを聞いて、僕は少し嫌な感じがした。
「(だとしたら可能性は1つだ。倒した死体にしろ、生きているにしろ、兵士さん達の身柄が魔物側に持っていかれているって事になるっ)」
だけどなぜ?
そんな事をする理由は?
人間を食料にする魔物がいたとしても、どうにも解せない。
仮に僕の予想通りだとしたら、そもそも現場でその異様に気付くはずだ。
だけど "
「(前線で魔物の様子を注視して、もし兵士さんをどこかへ運ぼうとしているのを見かけたらそれを追って欲しい……っていうのはちょっと危険すぎるか。セーラさん達は無論、 "
何かは分からない。
だけど、魔物側は何か表面的な事とは別に何かを考え、計画し、そして既に実行に移していると見て良さそうだ。
「……不可解な点は多いですが、焦って探ろうとするのは現時点ではおそらく危険でしょう。お二人ともご苦労さまでした、ここからは政治の力が必要になってくるでしょうからこちらで対処を考えます。報酬は弾みますので、しばらくは身体を休めて―――そうだ、僕の紹介状をお渡ししますから、メイトリムに行ってみてください。休養するには最適の村ですよ」
これは本格的にいろいろと危険な可能性を想定しながら、兄上様達とお話をしないといけないかもしれない。
敵が想定を上回るなんて事はいくらでも起こりえる。その時にどれだけの備えと、機敏で応用の利いた行動が出来るかが重要。
何かが起こってからじゃなく、もっとずっと、早くから備えはしておくべきなんだ。
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