第476話 巨人の手がかけられた最胸夫人です




 後日、僕達はさらにその要塞都市に近いモイという村に来ていた。

 変装して行商人を装い、村人から話を聞くために。


「そういや少し前まで、やたらお山の方と行き来してるのが多かったねぇ。大荷物でさぁ……恰好からして、何かの建設業者っぽいのが多かったねぇ」


「あんな険しい山に一体何しにいったんだかね」


「地元の人間? 行かない行かない、登る道もないし、この辺りは岩肌がむき出しのとこ多いから、山の恵みにもありつけないからね。獲物になるような動物もいないからだーれも山に用事なんてありゃしないよ」




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 一通り話を聞き終えた夕刻、モイの村の宿に戻った僕達は、今後のことを話し合った。


「やはりアイリーン様に乗り込んでいただきますの?」

「んー……それは早計じゃない、クララっち? 確かに一番手っ取り早いけど、ママの居場所とか分かんないと、危ないことになりかねないし」

「旦那さま、ナジェルとかいう相手からの手紙だと、あまり時間もありそうにないんですよね??」

 3人寄ればかしましいとは言うけれど、まかりなりにも上流階級に関係する女子たちだ。発言は淀みなく、1人1人順番に回って僕に渡されてくる。


「そうですね……ナジェルの立場でどこまでの事が掴めるかは疑問で、多少の信憑性には欠けますが、時間をかけますとエルネールさんの身が危ういのは事実でしょう」

 ナジェルの手紙によれば、誘拐の目的は巨亜人がエルネールさんに自分の子を孕ませようとしている、とのことだけど正直ピンとは来なかった。


 たしかに昔から、野に潜む知能ある化け物が人間の女性に子を産ませるなんていう逸話や伝承はある。

 童話なんかになると、生まれた子供がその後、すごい功績を打ち立て、伝説的な存在になったりするようなお話も存在している。


 が、エルネールさんは人妻だ。なぜわざわざ彼女をさらってまで、彼女にこだわるのか?

 しかも、スベニアムが手配したさらう手口が計画的だった事から考えて、突発的にエルネールさんを欲したとかではなく、以前から彼女を狙っていた様子。


「わざわざエルネールさんが狙われた理由は不明ですが、相手の狙いがどうあれ、助け出すに早い方が良い事は間違いありません。何せエルネールさん自身は、身を護る術は何も持ってはいないでしょうからね」

 もし巨亜人に迫られたとして、それに一人で対抗できる力なんて、彼女は絶対に持っていない。

 殺されるにしろ子を孕まされるにしろ、文字通り時間の問題には違いない。


「ん~……だったら、こういうのはどーかなぁ?」

 アイリーンが自信はなさそうながら、考えた事を話し始めた。






――――――城塞都市、 “ 守護神 ” の屋敷。 


『どうかな、エルネール。少しは慣れたかね?』

 巨亜人が、その姿に似つかわしくない言葉遣いで

エルネールに問いかける。

 滑稽とまでは思わないが、やはりミスマッチに感じてしまうのは拭えない。


「……自分の住まいでないところへと連れて来られ、慣れることのできる方がいらっしゃるとは思えません」

『フアハハハ、確かにその通りだ。無理矢理連れてきた事は素直に謝罪しよう……だが我も見ての通り、表立って行動できぬ身ゆえ、残念ながらかつて貴女が相手を決める場に花束の一つも持って参上するなど出来ぬのでね、結果としてではあるが、このような強行に出るより他なかった』

 エルネールは目の前の巨亜人に対し、直情的に嫌悪や拒絶を抱きはしなかった。



 ……欲し、望んだ異性たるお相手があなたにいたとしよう。


 だがあなたは、どうしようもなく人間社会の表に出ることが出来ない身の上であったとしたら? 求婚の場に挑戦することすら叶わないとしたら?

 YES/NOの答えを貰える以前に、アプローチすらできないというのは、不公平極まりない話だと言える。


 なのでエルネールは、目の前の巨亜人にはその生まれの哀れみこそ感じはしても、決して異形異質だからといって、嫌悪感を抱くことはなかった―――たとえその異形異質が、自分を孕ませたがっていると理解していても、だ。


「過程は決して、褒められたものではないでしょう。ですが、今のわたくしにはこの状況、そして貴殿に抗う術はございません」

 真正のたおやかなる気質であるからこそ、イザという時には堂々と肝が据わる。

 ほどよい諦めと投げやり、そこに最低限死にさえしなければ大丈夫、という許容のボーダーラインの低さを持って臨めば、あらゆる物事は怖れるに足りない。


 嫋やかでぽやぽや~んとしている―――それはつまり欲浅く、どのような状況に置かれても、委ねられる度量を持ってるという事でもあり、普段からそうであるエルネールは、自身の危機に対して動じ慌てることのない女性であると言えた。



『良き覚悟だ。なれば我も、遠慮なく其方そなたに子種を仕込ませてもらうとしよう。……心配は無用、其方は大事な身ゆえ、無茶をして身体を壊すなど決してさせぬゆえ、安心するがよい』


 ズシン


 巨亜人が1歩、エルネールに近づいてくる―――ここは巨亜人の寝室。


 その巨体に合わせた巨大なベッドは、キングサイズよりもなお大きい。

 見上げるほどの相手だ。その肉体差は当然、エルネールと合うはずがない。


 だが巨亜人には致し方・・・が見えているのだろう。躊躇いも躊躇もなく、その巨大な両手でエルネールのドレスの両肩口から器用に開き、脱がし下ろしてゆく。


 胸が、腹が、腰が、尻が、太ももが、足が……順番に露わになっていく。


 だが脱がせる巨亜人の手は、ドレスに一切の裂け目なくエルネールの足元へと脱がし落とし終えると、今度はその下着へとかけられた。




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