第469話 マンコック領へ急行です
トーア谷の戦いの勝敗は決した。あとはセレナがいれば問題ない。
だけど、僕はまだしなくちゃいけない事もあった。
「へ? わ、私めが……ですか!?」
「はい、そうです。オルコド=ザブリ=ヘンザック、このロイオウ領ならびにヘンザック領の治政を一時、貴方に一任します。ハルバ=ルトン=ロイオウ亡き今、領内の舵取り役は必須……まかりなりにもヘンザック領を治めていたのですから、やれますね?」
そう言って僕は軽くオルコドの顔を睨むように強く見る。
当たり前だけど、半永久的に任せると言っているわけじゃない。むしろかつての倍近い領域の面倒を見させるんだから、それこそヘマは許されない。
さすがにその辺りのことは分かっているみたいで、オルコドは緊張した面持ちで背筋を伸ばした。
「は、はひ! が、頑張って務めさせていただきますぅっ!!」
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「……それで、アイリーン。そちらの方は大丈夫なんですか?」
セレナに後を任せ、僕とアイリーン、そしてエルフの少女をのせた馬車が一路、ロイオウ領からマンコック領のとある町に向かっていた。
「はい、大丈夫です! クララちゃんが例の場所の下見に行ってます!」
「いえ、そういうことじゃなくって貴女自身がですね……」
当然のように対面して座っている<アインヘリアル・アイリーン>だけど、本体のアイリーンは今、僕達が向かっている町にいる。
そこから遠隔操作しているわけだけども……
「(どうやら、時間的な制約とかはなさそうだ。うーん、思った以上に使いこなせるようになってきてるなー)」
しかし、裏を返せばアイリーンほどの人物でも、何カ月も練習を繰り返してようやく習熟を深められたということでもある。
僕の<恩寵>で誰かにスキルを与えるのは、やっぱり長い目で見て付与することを考えないといけなさそうだ。
「あ、あの……わ、私はどこへ連れていかれるんですか??」
長い耳をピョコピョコ動かし、不安げに垂らしている、僕の隣に座っている少女。トーア谷の戦いで僕に向かってぶん投げられてきたエルフの少女だ。
「こう見えて僕も王子様ですから、何かと忙しい身でして。申し訳ありませんが、しばらくは一緒に行動していただきます」
保護、というのは一種の方便。それなら普通にセレナの陣地に預けてしまうだけでこと足りる。
だけど、それを名目にしてエルフの少女を連れ回す理由は……実は “ 取調べ ” だ。
といっても、あれこれ問いただしたりするわけじゃない。一緒に行動し、こちらの事を知ってもらい、心を開いてもらって移動中の会話なんかでポロッとエルフ側の情報の一端でもわかるような話が聞ければ儲けもの、くらいのとても気長な “ 取調べ ” だ。
何より―――
「(―――うん、やっぱり綺麗だなー。人間の美女・美少女とはやっぱり趣きが違うっていうか)」
兄上様の奥さんの1人、ハイレーナさんや、母上様の側近のティティスさんのようなハーフエルフよりもさらに1歩、妖精的というか精霊的というか、こう自然調和的な綺麗さがある。
そんな少女が露出度の非常に高いビキニアーマーを纏って僕の隣に座っているんだから、気にしないでいる方が無理だ。
……ちなみに彼女の纏っているビキニアーマーは、アイリーンが連れて来たビキニアーマー部隊の人からの供出で、誰が羞恥から解放されるかで盛大なじゃんけん大会が催され、優勝した女兵士さんは歓喜の咆哮と共にビキニアーマーから解放された。
「(まぁ、このデザインは恥ずかしいよね……)」
アイリーン曰く、僕のところに駆けつけるにあたり急遽揃えたモノだから、装甲の少ないものになったんだとか。
……だったら普通の鎧で良かったんじゃ、っていうツッコミは野暮かな。
「! 旦那さま、クララちゃんが帰ってきたので」
「はい、分かりました。マンコック領のイーヴォの町、ですね?」
「ですです。お待ちしてますねっ―――……」
すると<アインヘリアル・アイリーン>の姿が霧のように消える。文字通り跡形もなく。隣に座っていたエルフの少女が、え、とちょっと間の抜けた声を上げて驚いていた。
「え、え?? き、消えて―――んむぅ!?」
あまりのことに少女が混乱して慌てだしかけたので、僕は流れるように彼女の唇を奪った。
「―――お静かに……騒ぐとその可愛らしい口をもっと塞いじゃいますよ?」
「ふ、ふえ……んむっんん!」
もっとも、大人しく静かにしても、チュッチュしまくるつもりだけどね!
ちなみにこの後、目的地に到着するまでずっと少女とマウストゥマウスをした。節操ない感じに思われるかもだけど、話を聞き出すには落としてしまうのが一番手っ取り早いもんね。
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