第430話 物事はそう都合よくいかないものです




「ルヴオンスクのバン=ユウロスが? ……まったく、1週間ともたないとは、どこまでも使えない男だったな―――すぐマンコック領に戻るぞ」

 報告を受けたスベニアムは、落胆しながらも馬車に乗り込む。


 もう少し時間的な猶予が欲しかったところだが、ルヴオンスクが治まってしまえばそうも言っていられない。

 ルヴオンスクの町が安定した後、ユウロス家の後釜を決めるはずなので、その場には居合わせないといけない。

 恐らくは周辺地域の有力者のほとんどが押しかけ、我こそはとユウロス家所有だったアレコレの争奪戦が起る。


 ここからはマンコック領の増強という話になってくる。領主としての仕事の時だ。



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「……で、スベニアムは慌てて帰ったってカンジ。だけど多分、何らかの準備はもう終えてると思うんだよね、直感だけど」

「では、私たちはこのまま残って、その準備を暴くのです?」

 ヘカチェリーナとエイミーは、スベニアムの馬車を追わない。

 代わりに護衛の兵士数名に尾行態勢を取らせ、同時にこれまでで分かった事を、殿下に伝える伝令も出した。


「そーなるかな。パパのこともあるし……とりあえずママの身の回りの安全が確実だって分かるまで調査かなー……ごめんねエイミー様、付き合ってくれる?」

「大丈夫なのですよ! 私もお力になるのです!」

 王弟専属メイドとして働いていた分、王弟妃になってからはやる事がめっきり減ったせいもあってか、日頃から何かしたくてウズウズしていたエイミーにとって願ったりかなったり。その瞳は嬉々として活力に満ちていた。


「頼もし―ねー。それじゃあとりあえず、ご本人が慌てて帰って行ったことだし、立ち寄ってた店やら建物やらをまずは当たってこーか」






――――――同時刻、ルヴオンスクとマンコック領の中間地点。



 何もない、薄っすらとした起伏のある平原がひろがる田舎道。

 そこでバン=ユウロスが送り出した荷馬車の車列の内、包囲を抜けた半分が立ち往生している。


「抵抗は無駄だ! 大人しくしろ!!」

 王国旗を掲げた軍隊、およそ1500騎が完全に荷馬車を包囲。

 何両かは横転しており、一緒に抜けたバン=ユウロスの私兵達は、既にその半数が地面の上に倒れている。


 セレナの放った待ち伏せの部隊により、予定通りに荷馬車たちは確保されていた。




「隊長、荷馬車の確保および人員の捕縛、完了致しました!!」

「よぉし、セレナ様にしかと報告ができるな。1両でも逃がしていたら顔向けできんところだ」

 隊長格の兵士は心の底から安堵した。

 逃げる車列を待ち伏せし、これを完全確保―――命令はシンプルだが、それだけにミスなど出来ない。


 今やセレナは王弟妃であり、それでいて軍事権限を保持する “ 妃将 ” でもある。


 その部下として働くはほまれではあるが、同時に王室直下も同然ゆえ、いかな任務であろうとも、確かな成果をあげなければならないというプレッシャーもあった。


「よーし、全員帰還するぞ」

「残念ながら、そうはいきませんよ、フフフ」

 兵士達に聞こえない位置―――空中に浮かぶペイリーフは、不敵ふてきむと、片手の中で魔力の輝きを放つ、その直後。



 ……ビュオォオオオオアアアッ!!!


「「「うああああ!!?」」」

「なんだ、た、竜巻!?」

「急にどこから……っ、なんでいきなりっ!?」

「っ! 退避、退避だーっ、無事な馬車を急いでこの場より離脱させるんだ!!! 急げー!!!」


 およそ80両の荷馬車のうち、6割ほどが突如として発生した竜巻に巻き込まれて消失。

 兵士にも被害が出たが無事な分を冷静にまとめ、慌てて兵士達は引き揚げていった。


「……50両足らず、か。まぁまぁ悪くない。バン=ユウロスがもう少しうまくやれる者であったなら、もっと大きく得られたでしょうが……今はこれでも十分としておきましょう、フフフ」

 ペイリーフは、自分が王となっての勢力を築くにあたり、その原資として荷馬車の一部をかすめ取ることに成功する。

 元々は、バン=ユウロス失脚のほどを確かめようと出向いてきただけ。だが偶然に包囲網を突破した荷馬車の部隊を見つけ、突発的に手を出したに過ぎない。


 それでも実入りを得たことで、ペイリーフは自信を深める―――運命の風は自分に吹いている、と。


「積み荷の整理は後にするとしまして……まずはコレらを愚かな長老衆に見つからない場所に隠しにいくとしますか」

 ペイリーフが、輝かせていた片手の中の光を握ると、竜巻は消滅する。

 しかし、巻き上げたはずの荷馬車たちはどこにもなかった。



「着実に、しかし確実に。それでいて小さなチャンスもしかとモノにする……積み上げてこそよ。地固めの何たるかを分かっていなかった老いぼれどもとは違う、ククク!」

 そう言いながら何処かへと飛び去って行くペイリーフ。

 エルフの異才は着実な歩みを確かな実感として感じながら、愉快そうに笑うのだった。




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