第413話 居残り令嬢嫁の情報後援力です
――――――ミデュエルの町、賓館。
僕達が王国北端の村に出向いているその頃、クララは残ってこの地域のさらなる調査を行ってくれていた。
「では、貴方達はこちらの町にお出向きなさい、貴方達はこの村ですわ。どちらも直近においての、物品の売れ行き……あるいは買い入れについての流れを掴むことが第一と
「「はっ! 承知いたしました、クルリラ
護衛の一部、離れて活動しても問題ない人数の兵士さんで小隊を構成し、一般人に
そうすることで正式な政治的ルートで上がって来る報告では分からない、あるいは漏れてしまったり、悪意によってわざと途中で潰されたりした情報を掴む事ができる場合は、結構多い。
特にクララは、そういった政治世界のやり口や流れに強いから、現地で調査の指揮を執らせるのにはまさに適任だ。
この辺りの素養は、父であるエイルネスト卿の厳しい教育方針の
「クルリラ妃殿下、ロイオウ領に出向いておりました者達が帰って参りました」
「ご苦労様、報告書を書かせておいてくださる? 後で直接お話も聞きますわ」
「妃殿下、マンコック領最寄りの村で掴みました情報のまとめ、終えました」
「チェックいたしますからこちらに寄越しなさいな。……こことここは、もう一度報告書と照らし合わせ直しなさい、表現の曖昧さは読み手に情報の誤認をさせてしまいますから。あとこの情報については別途、関連する資料を添付させなさい」
お付きのメイド達は正直、唖然とさせられっぱなしだ。
クララの情報処理能力はかなり高い―――嫁ぐ前から仕えているので分かっていたつもりだった。
しかし、実際にこうして活動する様子を見せられると、クララの能力が並みでない事がヒシヒシと感じられる。
何せクララは、“ 殿下が現地に
さすがに聖徳太子の伝説のように10人同時には程遠いにしろ、その並列スピード処理はメイドさん達だけじゃなく、たぶん本職の文官僚たちが目にしても、きっと仰天することだろう。
「失礼致します。殿下より文が届きました」
「お寄越しなさい」
飛び込んでくるは愛して止まない夫からの手紙―――しかしこの時のクララは、それを破顔して喜ぶことはない。
状況とタイミング的に、何か新たな情報がもたらされる可能性が高いことを、彼女は理解している。
……通常、女性は理性よりも感情が勝るタイプが多いと見られ、感情を持ち込んではならない政治実務の世界には不向きと見られがちだ。
しかしクララの凄いところは、そのスイッチをきっちりとON/OFFできる点にある。
単に能力があるだけでは務まらない世界に対応できる女性だからこそ、彼女は凄いんだ。
「……魔物が
するとクララは手紙を机の上に置くと同時に、広げられている北端3下領の各町や村の位置が記されている地図に視線を落とす。
机の端を抑えるように両手を置き、じっと覗き込むその表情は、一切の甘さのない地図を通して見知らぬ人物の足跡を見透かそうとするかのような真剣さに満ちていた。
「…………。ロイオウ領のウーマル村、ナックホルンの町、加えましてマンコック領のポイスリー村。この3か所に何人か向かわせてくださる? 対象は犬系の獣人で狩人、名はコダと言うそうですわ。それらしい人物を発見した場合、尾行および情報の獲得と持ち帰りを優先するよう、強く申し付けるのを忘れませんように」
「はっ! かしこまりました、ただちに手配いたします!!」
「それと殿下の赴いていらっしゃる村に、村人の救護に手を出すよう要請を。グズるようでしたら、ヘンザックのお尻を蹴り飛ばして構いませんわ」
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「―――と、殿下のお妃様よりご要請が参りましてこの度、はせ参じさせて頂きました……」
僕の前で、ちょっとだけシュンとなってる男性は他でもない、このヘンザック下領を治めているヘンザック家の当主、オルコド=ザブリ=ヘンザック氏。
貴族としては下流も下流なので服装も貴族らしくなく、ちょっと裕福な村人って感じの中年男性だ。
一体どんな圧をクララから受けたのかは知らないけど、かなり脅されたのは軽く憔悴してる様子からして間違いなさそう。
「ご自分の治める地の民が危険にあっているのに、統治者が何もしないのは愚の極みです。むしろあなたが直々に動き、領内の村や町に必要な施策を行わなければいけない立場なんですから、言われて動くのでは遅いですよ」
さらに畳みかける形にはなっちゃうけど、それくらい言わないといけない。
何せこの北端3下領の統治は、いずれも褒められたものじゃないからだ。
先日聞いた、やたらヘンザック氏が臨時徴収を繰り返している話を皮切りに、クララが調べてくれたところでも、他の町や村および他2領においても同様に、領民に優しくない政治が続いてる事も判明している。
「積もる話は後でたっぷりとさせていただきますが、まずは怪我人の手当てが先です。もちろん必要なものは用意してきているのでしょうね、ヘンザック?」
「は、はい、それはもう。すぐ部下を動かしますので、はい!」
数日前に面会した時もどこか後ろ暗いものを隠しながらも、何とか穏便に王弟殿下の訪問を済ませようとしていたヘンザック氏。
性格はどちらかといえば内向的な方で、基本は弱気なタイプっぽいけど、何だか今日は一段と拍車をかけて弱気な雰囲気だ。領主っていうより新米の部隊長みたい。
「(……彼は叩けば簡単に色々と出してくれるかもしれないな)」
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