第六章:北境は死出の乱れ
第406話 こちらが治まればあちらが波立ちます
メイトリムも代官が置かれ、保養地の色合い強いカタチで機能し始めた。
「代官は、経過は良好だと報告がきていますね」
そこそこ高い位の貴族を中心に客が訪れており、ほどほどの活気が出ていると、現地からの報告書には書かれていた。
「代官のフォアン一位爵は素朴で真面目な方ですから、報告に間違いはないと思いますわ」
クララがそう言うなら間違いのない人物なんだろう。
まぁ兄上様たちがヘンな人選をするわけないけど。
「周辺の治安強化も十分な水準に達しておりますし、問題はないでしょう。懸念があるとしますと、王都からの物流がどこまで回復しているかですが―――」
「あ、それも大丈夫だと思います、セレナ様。王都内の流通関係は安定してきましたし、反王室派のつるし上げが始まりましたので権益狙いの動きが収まってきたらしいです」
シャーロットの言う通り、王都の流通は顕著に安定してきた。メイトリムに供給されているモノは滞りなく、訪れる客の大半を占める高貴な人々を満足させる事もできているみたいだ。
「王都内の貴族は、かなり睨まれているみたいだね。ファンシア家爆破の大事件は、想像以上に貴族社会へと大きな波紋を呼んでいる―――
リジュムアータがそう述べると、クララ、セレナ、シャーロット、そして僕はウンウンと頷く。
だけど―――
「「「……」」」
アイリーン、エイミー、シェスクルーナの3人は、ほあ~として理解が追いつかない呆けた表情を浮かべていた。
「(うん、あの3人は政治的なところに話が及ぶと、やっぱり苦手みたいだ)」
比較的マシなエイミーでも、やはりちょっと深いところに入りかける辺りで、もう頭がショートしそうになってる。
シェスクルーナもそれなりに理解できるだけの知識はあるはずなんだけど、どうやら得意分野と不得意分野があるみたいだ。
「貴族が狙われているという形で踏み込み、強制調査は順調に進んでいるようですから。その際に後ろ暗いモノを見つけられた貴族もいると兄上様から聞いています」
「別件を利用しての浄化が進んでるってワケだね。中央が良くなるのはいいことだよ」
リジュムアータの言う通り、ほぼなし崩し的に貴族達の悪さは暴かれ、厳しく取り締まられてる感じだ。
ただ、それでも
「……とにかくメイトリムは順調だ、という事ですよアイリーン」
お嫁さんがそろそろ頭から煙をふきそうになっているので、僕は簡潔に結論を述べた。
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メイトリムが問題なく回り始めた、となればやっぱり気になるのはエルフの件だ。
「……と、いうわけで兄上様がた。僕は一度、ルクートヴァーリング地方の方へ出向こうかと思っています」
名代領主として僕の代わりに領地を治めてくれているコロック=マグ=ウァイラン卿―――ヘカチェリーナの父より、調査の結果報告は届いてる。
けど、エルフ残党が長年潜んでいた場を、簡単に捨ててどこかに行ったというのは、ちょっと不自然に感じる。
仮に新たな拠点となる場を得たのだとしても、丸々古巣を捨ててしまうのはもったいない。
特に彼らは今、かつての勢力の見る影もないほど小規模だ、拠点を移したとしても、旧拠点をその後も利用しようと考えていてもおかしくない。
それに―――
「ウァイラン卿の
コロック氏は今、病の床に伏せっている。ヘカチェリーナがエルフの調査の件を打診しに行った時、かなりせき込んでいて体調不良を隠そうとしても平静をつくろえなかったそう。
純粋に心配というのもあるし、名代領主の彼が倒れてしまうと、またぞろルクートヴァーリング地方を巡っての問題が再燃しかねない。
僕の所有に変わりはなくとも、新たな名代領主の座を巡って、貴族間での政争が勃発する可能性は小さくないだろう。
「(下手をすると、そこにヘカチェリーナや奥さんであるエルネールさんなんかも巻き込まれる事態になりかねないし……)」
特にエルネールさんは、人妻とはいえその容貌は世の男性垂涎のものをお持ちだ。もしもコロック氏が
それこそ、ウァイラン家の乗っ取りやヘカチェリーナまでもかすめ取られ、ルクートヴァーリング地方そのものも奪われるという最悪の事態にまで陥りかねない。
「では、レイアとアイリーン、シェスクルーナとリジュアータを王城に残していきますので、留守中はよろしくお願いします」
僕はエイミー、クララ、セレナ、ヘカチェリーナを伴って、今度はルクートヴァーリングへと向かうことになった。
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