第378話 敵地で爆発処理です
――――――時間は少しさかのぼる。
僕はアイリーンに至急、行動を促す。潜入させている<アインヘリアル>3体を用いて、すぐにクルシューマ伯爵の別荘へと兵を踏み込ませる手引きをさせた。
そして僕も、アイリーンを伴って伯爵の別荘へと踏み込んだ。
「旦那さま、急にどうしたんですか? まだ
今回のクルシューマ伯爵の件のかなめは、まさにその
これを無力化できない限り、クルシューマ伯爵は悪夢の終末を迎えることになる。なので慎重にことを運びたい。
だけど、そうも言っていられなくなった。
「……アイリーン、屋敷の
「え? 地下……ですか?? 調べたところ、確かキッチンの小さな食糧庫しかなかったはずですけど……」
「僕たちはそこに向かいます。兵士さん達は本命以外の魔物達の駆逐に回ってください」
「は! かしこまりました、殿下」
最悪、クルシューマ伯爵と彼の一族には犠牲になってもらわなくちゃいけないかもしれない。
僕の直感が正しければ、それほどにヤバイものが、この別荘には仕掛けられている。
「(まさか、まさか……でも誰が?? アレをこの王都の一角で発動させたら、大災害どころじゃ済まないぞ!)」
<ヴァリウス・ドゥーメイガス>
仕掛け型の魔術で、広域を吹っ飛ばす超爆発を引き起こす。
本来は、敵の軍勢が通りそうな場所に敷設しておく戦略運用が主で、こんな都市に仕掛けていいレベルのシロモノじゃない。
「(下手をすると、王都の半分が消し飛ぶ……ううん、それで済むかも分からない!)」
この魔術にはいくつか条件がある。
一つはなるべく低い位置に、魔法陣を敷くことだ。効力は魔法陣から上に発生するので、高い階層などに設置した場合、その下には爆発が及びにくい。
もう一つは空間設定。このシンプルな箱型の建物は、まさにあの魔法の空間設定の大きさそのもの。
僕が建物を見た瞬間にゾッとしたのも、建物がそのまま空間設定の魔力構成に重なって見えたからだ。
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潜入後、急いで地下に降りる。
キッチンの下の小さな地下倉庫は、とても大規模魔術を敷設するのには似つかわしくないように思える。
だけど、注意して地下室の床を
「……なんてことだ。こんな……」
「ど、どうしたんですか、旦那さま?? ……ん、何か光ってますね??」
地下室の端、床と壁が直角をおりなしている場所に、それは見えていた。しかも発動待ちで起動状態にある魔力の輝きを放っている。
魔法陣のわずかな
「アレは魔法陣です。発動すれば大規模な爆発が起こります……おそらく、王都の大半が吹っ飛ぶレベルです」
僕は軽くよろめいてしまう。アイリーンに支えられなかったら、そのまま気を失っていたかもしれない。
「そ、そんなものが仕掛けられてるんですか!?」
「ええ……しかも、この様子ですと、おそらくは魔法陣がこの地に先に仕掛けられていて、後からその事に気付かずに建物が……いえ、それにしてはこの建物の構造は……―――とにかく、事態は急を要します。クルシューマ伯爵の件もそうですが、それ以上にコレをどうにかしなければ!」
考えろ、考えろ……
魔法陣式の魔法は、一部を削れば発動を防ぐ事が出来る。だけど削る場所はどこでもいいわけじゃない。
魔法陣は、その線1本に至るまで意味の塊だ。まったく同じ効果のモノであっても、施した者によって描き方が違ったりする。
なので全体を見てみないことには、削っていい場所を判断することができない。
「……アイリーン。クルシューマ伯爵の方は、
しかし、アイリーンは難しいと表情を曇らせた。
「あのコ達のパワーですと、完璧に封じるのは難しいと思います……私が直接、抑えに行けばいいかもですけれど……」
そう言いながら、心配そうに僕を見る。
「……では質問を変えます。アイリーン、この壁を破壊し、この光る部分をもっと多く見えるようにする、というのは可能でしょうか?」
「不可能じゃないですけど、衝撃が強くなると思いますし、五分五分でこの地下室全体が崩れちゃうかもしれないです……」
さすがに強い衝撃が起これば、酒を飲んで眠ってるという魔物たちも起きるだろう。
それでなくとも地下室が崩れてしまうと、魔法陣への対処が絶望的になる。
「(それでも……やるしかないか。時間がない、いつ発動されるかも分からないんだ―――)―――命賭けになりますが、やるしかありません。アイリーン、まずこの壁を掘削し、この地面の光る部分をより多く見えるようにしてください。その上でアイリーンは、魔物達のところへ。もちろん最優先は
その間に<アインヘリアル>を同時に動かすのは難しい。集中力を必要とする分、<アインヘリアル>を動かしていると、
……つまり僕一人で、完璧にこの魔法陣を無力化してしまわないといけない。
まるで爆発寸前んお時限爆弾を処理する気分だけど、やらなければ王都の民が何万と死ぬことになる。
僕は腹をくくった。
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