第351話 お嫁さん達は何かしら働いてます




 僕達がメイトリムに戻って2週間。

 アイリーンとタンクリオン達が山賊のウーバー一味を捕えた以外は、至極平和だった。




「平和なのは良い事なんですが……」

「気になるかい? 諸々の状況とか、戦況とか」

 リジュムアータが少し意地悪そうに聞いてくる。


「ええ。定期的に情報は入っては来ていますが、どうも進展のほどは微妙のようで、大きな動きもないようなのですけども」

 悪い方向に傾いてないだけ、ヨシとすればいいだけなんだけども、どうしてもあのバモンドウらのような裏でうごめいているであろう存在の動きが気になってしまう。


 むしろ至極平和だからこそ、そういうところに思考が及んでしまうのかもしれない。


「クス……殿下って、結構働きものなんだね。だけど、別に殿下が何もかもどうにかしなくちゃいけないってワケじゃないんだから、もっと平和な時間を楽しんでもいいと、ボクは思うよ?」

 まるでたしなめるような含みを持たせたイントネーションでリジュムアータに言われ、僕はその通りだと思わされる。


 一国の王子とはいえ三男で、兄二人のように何か大きな地位に就いているわけでもない。むしろ今の立場で考えたら、このメイトリムの発展を指揮するのだって、十分すぎる仕事だ。



「……確かに。少し色々と気負い過ぎていたかもしれませんね、僕は」

「そうだよ。もっと楽に考えよう? もう十分頑張っているんだから、王子サマは」

 今度は茶化すようになだめるリジュムアータ。

 なんというか―――


「―――かないませんね、リジュには」

「フフッ、そうかな? まぁ今は、この村の整備のことを考えてるだけでいいと思うよ。クララちゃんとセレナさんっていうお嫁さんを貰ったばかりなんだ、面倒ごとはしばらくお兄さんたちにお願いしておけばいいんだよ」

 確かに祝辞の直後だ、何なら新婚旅行とかその代わりに何週間かぼけーっとしても許されてもいいかもしれない。

 ……もっとも、それで言ったら宰相の兄上様だって、待望の子供が生まれたばかりなワケだけども。




「まぁ、僕に出来ることにも限りがありますし、何よりルクートヴァーリングの書類整理も溜まっていますから、他に意識を割いている余裕は、あまりないといえばないかもしれませんね」

 名代領主であるコロック=マグ=ウァイラン卿が大半を担ってくれてるとはいえ、僕が何もしなくていいわけじゃない。

 ヴェオス達魔物との戦いをしている間も、順調に蓄積していった僕が処理しなきゃいけない書類の山は、王都の離宮にどっさり積まれてる。


 王都からメイトリムに来る際に急ぎの分だけ一緒に持って来た。

 以後は王都とメイトリム間の物流の安定と確実さのテストも兼ねて、メイトリムの僕のところに定期的に運ばれてくるよう整えてきたけど、だいたい1日に50枚くらいは処理しないといけない量だ。


「書類の処理なら、ボクが代行しようか?」

「? リジュが……ですか?」


「うん、殿下が処理しなきゃいけないっていっても、目を通してサインが基本のはず。ならボクが目を通して、どうしても殿下の裁可さいかが必要なもの以外は処理しておくよ」

 それはありがたい申し出だ。けど……


「ですが、リジュに負担はかけられ―――」

「リハビリ。それに殿下も知ってる通り、お父様の領地マックリンガル子爵領は、何年も何年もボクがすべての・・・・書類を処理していたんだよ? 今、殿下に回ってきてる分量なら余裕……リハビリに丁度いいからね」

 確かにマックリンガル子爵領は広いし、人口と発展度合いはルクートヴァーリング地方の数倍は余裕である。

 そんな地のすべての書類処理をたった1人で行い続けたリジュムアータだ。その知識・経験・判断も信頼できる。


 何より、毎日歩行の練習ばかりで退屈していた、って僕に目の輝きで訴えてきてるし。


「……分かりました、では僕が見る前に書類はまずリジュムアータに検めてもらう事にしましょう。僕の判断が必要だと思われるものは、どんどんこちらに回してくださいね」

「うん、任せてよ。ボクも殿下の婚約者になったからね、お役に立つよ」

 そう言って軽くウインクするリジュムアータ。

 大量の自分の髪に抱かれてるかのような少女の肌色は、確かに健康を取り戻しつつある。まだまだ身体に肉は少なく、全体が細いとはいえ血色を見る限り、もう心配ないだろう。


 何より発言の声にキチンと力がのっている。少なくとも無理をしていないのは間違いない。




 彼女の容態に安堵感を覚えると同時に、僕は少し考えた。


「(……うーん、シェスカにも何かさせてあげるべきかな)」

 リハビリと言ってもリジュが僕の仕事の手伝いをはじめれば、シェスクルーナの性格からすると、自分は何もできない、申し訳ないって落ち込んでしまう可能性が高い。

 現状、僕のお嫁さん達はみんな、何かしら働いてるというのも大きい。


 アイリーンはタンクリオン達や一部の兵士さんに稽古をつけたり、治安維持のために村の周辺を警戒する指揮や指導を行ってる。

 セレナは言うまでもなく、兵士さん達の総監督と指揮を担ってるし、エイミーはメイドさん達の指揮・指導を行ってる。

 クララは僕の政治的な相談役に加えて、メイトリムの開発に関して上流階級の滞在者に対応するためのアドバイザーもしてる。

 ヘカチェリーナは僕の専属で色々と動いて貰ってるし当然、普段からメイド仕事もしてる。


 なので、何かシェスクルーナにも担わせてあげないと、自分だけ何もしていないって思いつめそう。




「……そうだ、リジュ。シェスカにはスキルがあるという話、前にしましたよね?」

 (※「第320話 迫るブラックシスターズです」参照)


「うん? お姉ちゃんが “ 求める誰か ” のいるところを感知できるっていう話だね、それがどうかしたのかな?」

 急にスキルの話になって、さすがのリジュムアータも話題の転換に頭が追いつかなかったみたいだ。


「ええ、少しそのスキルについて思うところがありまして……確かめてみない事にはまだ何とも言い難いですが、もしかしますとシェスカのスキルは、色々なところで役立つかもしれません」



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