第319話 “ スキル ” に潜在する社会への危険性です




 今まで、スキルっていうとつい戦闘方面に向けたものを意識してた。


「(当たり前っちゃ当たり前なんだよね、色んな分野のスキルがあるのは)」

 前世のオンラインゲームとかを意識しちゃうから、つい戦士だ僧侶だ魔法使いだ、戦闘職だ生産職だ技術職だ……そういうゲーム感覚で簡単かつ単純に “ スキル ” ってシステムを考えがちになってしまう。


 だけど、シェスカとリジュの姉妹の話は、僕のスキル感に一石を投じるものだった。





「えっと……イシカタ衆は、石材採集と加工がとっても得意な人達なんです」

 シェスクルーナ曰く、前世でいうところの ” 石切り場 ” で働く専門の工夫みたいな人々で、彼ら一族は皆、一定の同じスキルを保有しているらしい。


「スキルの名称が “ イシカタ ” だからイシカタ衆って、呼ばれてるんだよ。ボク達も一度、彼らの仕事の様子を現場で見た事があるけれど、納得できるものだったよ」

 話によれば、スキル “ イシカタ ” は岩石に関する総合力スキルとでも言うべき効果みたいだ。


 ―― まず視覚で何となく、どこの石や岩を外せば大地にどう影響するか―――早い話が外すと全体が崩れてしまう石を見分けられ、もちろん岩石そのものの質なんかの目利きにも影響がある。


 ―― 次に触覚で、触れた岩石の感覚が分かるらしい。どういう事かというと、その岩石が最も使い方として適切な使い道が感覚として分かるんだとか。


 ―― さらに聴覚。岩石に何かが当たったり触れたりする事で発せられた音なんかで、何が当たったのかがある程度検討つくらしい。

 

 ―― そして嗅覚。岩石の常人では分からない匂いの差で、目当ての種類の岩石の位置がどのくらい大地の深い位置にあるかだとかをかぎ分けるんだとか。


「(さすがに味覚でどうこうはないみたいだけど、もしかすると試せば味の違いとかもわかるのかもしれないな)」

 そして聞けば聞くほど、スキルというよりは、長年培ってきた経験のなせる業に近いような効果だと、僕は感じた。



「イシカタ衆はもう何百年と一族全員が岩石に関する仕事を続けているからね。一般的な、発動すればパッと効果を得られるようなスキルと違って、才能みたいなスキルと言えるかもしれない。実際にイシカタ衆も、特別スキルを意識して使ってる、という感覚はなく、生まれつきずっと “ イシカタ ” の効果が出続けてる感じだって昔、言っていたよ」

 リジュムアータの言う通りなら、それはまさしくパッシブスキルだ。

 そして一族全員が同じスキルを生まれ持ってくると言う事は、脈々と受け継がれた先祖の経験と記憶の塊が、才能という本来曖昧な形で受け継がれるところを、スキルっていうハッキリとした形を成して、その “ イシカタ衆 ” に受け継がれてるって事で……


「(それはつまり、スキルは突発的な授かりモノじゃない、ってことだ。考えてみると、僕の “ 恩寵 ” だって、いかにも王族っぽいスキルだし、やっぱり生まれや先祖の経験や才能みたいなところも関係してくる……?)」


 つまり “ スキル ” という世界システムなんじゃなくって、本来曖昧な才能がハッキリと具体的に示されるものとして “ スキル ” という形を成している可能性は非常に高い。



「(……この事実は公にはしない方がいいな。優生思想につながっちゃう)」

 いつの時代も時折起こる、血筋や親の才能の良し悪しに言及する潮流。


 確かに優れた両親の間に産まれた子供が、また優れた異性と結婚して優れた子供を産む―――それだけ聞くと、長い目で見ればどんどん人間は優れた存在になっていけそうな気はする。


 だけど、それをやるとじゃあ優れていない人間は排除されるって話になる。


 もし、万が一にも人類全体の未来のためにと、御大層な名目を掲げてダメな遺伝子の淘汰を良しとしてしまった場合……結果、おそらく人類全体が滅亡する。



 なぜなら、前提となる優劣の物差しが狂っているからだ。


「(名家に生まれた子供が、常に優れた才能と精神を有しているだろうか? 貧困にあえぐ家から生まれた子供が、歴史的人物として大成する話もある。そしてまた、その子供が優れているとも限らない……)」


 人間という知的生命体は、非常に多くの項目によって成り立っている、実にアナログな存在だ。

 デジタル的に、単純に良し/悪しと判定など出来ると考えるのがそもそもの間違い。

 例えば、算数・国語・社会のテストの点数が0点で、理科が100点の子供は、全てを均等に70点前後の点数を取る子供に劣っていると言えるだろうか?


 例えば、運動で抜群の成績を叩き出す者と、勉強で最高の成績を出し続ける者をどちらが優れているかと比較することは正しいだろうか?


 例えば、不良で中卒だったが真面目に働き、キチンと生計を立てている者と、真面目で学歴は良いが親のスネをかじって生きている者……どちらが優れているなどと比べられるものだろうか??




「(視点を変えれば、どっちも優れているしどっちも劣っているとできる。何を基準に優劣を語るか……―――それで完全に180度変わってしまうんだからね)」

 それでいて人間は、複雑でアナログな存在なのに、デジタル的な分かりやすい解答を求めてしまう生物。


 もしも スキル=遺伝による才能の具現物 なんて意識したなら、確実にスキルを持ってる人と持ってない人で軋轢のある世界になっちゃう。


「(天上人 vs 地上人 みたいなお話は創作だけで十分だよ……)」

  全ての人が幸せな世界、というのはまず不可能。だけどそこに向かって努力していく事は放棄しちゃいけない。


 だけど理想ファンタジー現実リアリティはバランスが大事だ、そこのところは上手く考えていかなくちゃいけない。




「(……まさか、スキルっていう要素一つにここまでゾッとする事になるなんて思わなかったな)」

 残念ながら前世で数多あった異世界転生の物語は、やっぱり都合のいい夢想なんだなと、改めて思わされる。


 うん、やっぱり僕もスキルを用いるのは、慎重姿勢をつらぬこう。



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