第300話 再三の潜入作戦です




 いきなりのバモンドウの襲来からおよそ30分後。



「ほ、本当に旦那さまも行くんですか??」

 アイリーンは乗り気じゃない、けど断りにくいと言わんばかりにうーうー言ってる。


「はい、言った通りです。あのような怪人の存在がハッキリした以上、今はむしろ、アイリーンと離れて行動する方が危険でしょう。またあのレベルの魔物が襲い掛かってきたとしたら、残念ながら兵士さん達ではまったく歯が立たないでしょうからね」

 アイリーンが立てた新しい作戦―――それは、城内に通じる隠し通路から城へと潜入するというもの。


 城を大型の魔物によって破壊されている今、ヴェオスは憤りと共にその対処に頭いっぱいになっている。

 なので城へ潜入し、四苦八苦しているヴェオスの後ろで、城内を引っ掻き回してやろう―――という感じだ。


「ほら、まずは移動を終えてしまいましょうアイリーン。夜が明けてますから時間をかけると気付かれてしまいますよ」

「あーん、待ってくださいよぅ、旦那さまぁ~」

 





―――――地下隠し通路。


「思いのほか広く作られてありますね。やはり魔物が通ることを見越しての事でしょうか……」

 組まれている石の床や壁はほどほどの造りだ。けれど隠し通路としてはなかなか広い。小隊が2~3、隊列を維持したまま進めそうなくらいには空間が確保されてる。


「だと思いますー。実際、城内にいた魔物はだいたい、この通路通れる大きさでしたから」

 アイリーンはこれで3度目の城内潜入だ。慣れた様子で僕の前を歩く。



「通路の先はどうなっていますか?」

「お部屋ですね、前はクローゼットを重石にして入り口を塞いでました」

 普通なら重くて開けられないんだろうけど、前にここから潜入した時、アイリーンは多分力づくで開けたんだろうなって簡単に想像できる。


「その部屋の位置は、城のどのあたりでしょうか?」

「1Fの、中腹ちょい西寄りです。場所的にもちょうど、崩壊部分の少し南側になるはずですから、ちょうどいい位置ですよー」

 と、なると……



「では、予定通りに配置しましょう。この隠し通路と城との入り口にはワイアックさん、5名を伴って固めておいてください。万が一振動などがありましたら迷いなく退避を、地下道が崩れた場合、危険ですから」

「ハッ、かしこまりました殿下!!」

 ちなみにこの通路と外との出入口にも数名を置いている。


 城内の魔物は、アイリーン1人いれば問題ないけど、あのバモンドウのような強力な個体がいる可能性もあるから、撤退ルート確保のためにも精兵を配置していく。


「(……、ルート確保に配置していくのが精兵っていうのがね……)」

 言い換えれば、精鋭の兵士でもアイリーンの戦闘には邪魔なだけといレベルだということだ。

 20名少々で今回の作戦を決行したけど、作戦上では兵士さん達を戦力に数えていない。それだけあの突然襲来したバモンドウの強さが衝撃的過ぎた。



「(バモンドウの襲来がなかったら、僕も西陣に留まっていて、この作戦はアイリーンとその補助になる兵士さんごく少数だけで行ってたんだろうな)」

 危険な敵地に潜入するアイリーンに同行するのが一番安全という皮肉―――バモンドウの存在は、色々な意味で僕の意識を変えさせた。


 ただ、僕がこの作戦に同行するのは単に、アイリーンの傍が一番安全だからってだけじゃない。


「アイリーン、ストップです」

「はいっ、旦那さまっ」

 アイリーンはなまじ最強過ぎるために、慎重さが足りない。潜入にしても敵にバレたって、力技でねじ伏せることが出来てしまうからだ。


 だけど今回の作戦だと、それじゃ困る。


「まず先行して2人、城内に出てください。出入口の状況確認を」

「「ハッ! お任せを!」」

 今回の潜入一番の目的は、敵側をかき回すことにある。


「(既に一部は城内に突入して戦ってるし、ここで城内をしっかりとかき回すには―――)」

 できる限り、その動きをヴェオスに知られるのを遅らせる。がっつりとかき回し、メイレー侯爵の戦力を城内に突入させ、浮足立つ魔物達を駆逐してもらう。


 理想はヴェオスが状況を知るころには、配下の魔物の大半を倒し終え、ヴェオスを孤立に近い状態にすること。

 アイリーンなら1vs1の状況なら勝ちは揺るがないはず。



「―――アイリーン、僕も可能な限り早く動きはします。ですが基本は僕の移動に合わせてください」

「はいっ、わかりました。旦那さまについていきますっ」

 アイリーンに足りない頭を僕が補う。僕に足りない戦闘能力はアイリ―ンに任せる。



「殿下、通路の出口の部屋、および周辺には魔物はおりませんでした!」

「ご苦労さまです。では行きましょう、アイリーン」

「了解ですっ、旦那さまの事はバッチリお守りしますよぅっ」

 頼もしいお嫁さんは、可愛らしくフンスと鼻息を吐いてる。


 先にハシゴを登り、僕はヴェオスの城の中へと到達した。



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