第293話 合流する夫婦とビキニアーマー部隊です




 僕が西から、ヴェオスの小城の戦場圏内ともいうべき距離に入って来ると、北から迫って来る集団があった。


「!? ……あれは」

「殿下、御下がりを!」「敵に気付かれたか!?」「まだ城まで1kmはあるぞ!」

 護衛の兵士さん達は緊張していたけれど、僕は思惑リラックスしていた。


 というのも迫って来る集団が城のある東からじゃなく、北からだっていうのが、ヴェオスやその手下の魔物達なら考えにくいからだ。




「(……配置関係を考えるとあれは……だけど、こんなところに来てるってことは―――)―――皆さん、構えを解いてください。そしてあの集団と同じ方向に走る準備を」

「?? 殿下、それは一体……??」

「アレはおそらく味方です、が……多分、後方に厄介なのを引き連れてきている最中だと思います。合流後、こちらも止まっている暇はないですから、駆ける準備をしてください」

 僕の予想通りなら、護衛が騎兵ばかりなのは幸いだ。予想通りの状況なら、歩兵の足じゃまず危険だったろうから。



 ……ドドドドドドドドド ド ド ド ドッ ドッ ドッ!!!


 薄っすら見えてきた集団のシルエット。メイレー侯爵のとこの私兵が着用してる鎧姿の多数の騎兵、そしてその中央やや手前に先行する形で走ってきてる赤い髪をたなびかせてる、よく知った女性―――他でもない、僕のお嫁さんアイリーンだった。







――――――ヴェオスの小城、南東。


 つい先ほど、ポーブルマンがオフェナ隊の兵士のサポートを受けて単身、壁を突貫し城内へと飛び込んだ……その後方、メイレー侯爵軍の南陣の前。


『ギギ?』『オイ、見ロよ、女ガいルぞ!』

『グッグッグ、獲物ダ、絶好のカモってヤツダ!』


 魔物達が見つけたのは、敵陣から前方100mほど前に出てきた集団だ。


 全員が一様に装甲の薄い軽装鎧―――ビキニアーマーを纏っており、見た目にはいかにも弱そうな女性兵およそ50人が、魔物達の目に留まった。




「……来た来た、まさかホントに釣れるとはねー」

「魔物はオスしかおりませんのかしら??」

 元より専用のビキニアーマー姿のヘカチェリーナとクララは慣れたものとばかりに堂々としている。

 一方その後ろでは……


「うう、肌寒っ」「このくらいで弱音を吐くな、敵は目の前ぞ!」

「だってぇ、この恰好恥ずかしいしぃ」「野郎の目線がエロいし」

「オフェナ隊長~、ほんとにこんな作戦で大丈夫なんですかぁ~?」

 オフェナ隊の女私兵達は、急遽用意されたパンツとブラ部分しかない最低限の量産ビキニアーマーを着用。

 おかげでオフェナ隊の野郎達のテンションと士気は爆上がりだが、当の女子たちは不満たらたらだった。


「大丈夫、見ろ。魔物、どんどん釣れてこっちにくるぞ、オフェナは大歓迎だ!」

 先の城内突入でしてやられたリベンジに燃えるオフェナは、一番装甲面積の少ないものを、隊長として率先して着用。

 隊の最前列に堂々仁王立ちし、巨大戦槌ハンマーの柄を握る拳に力を込める。その表情には羞恥は一切なく、戦いに向けての喜悦に満ちていた。



「おおー、頼もしいねー。強そうだし」

「メイレー侯爵の部下の方の中でも彼女、1、2を争う実力者だそうですから、事実お強いのでしょう」

 何だかんだで危険に遭遇する経験を積んできたヘカチェリーナとクララは、非戦闘員でありながらもその気持ちにはかなりの余裕があった。


 この策を考えたリジュムアータの狙い通り、二人が率先してビキニアーマー姿で戦場に立たんとすることで、オフェナ隊の女私兵達に嫌々ながらもビキニアーマー着用を促すことに成功。


 さらにはそんな薄手の女兵士達という少数部隊に釣られ、魔物達の注意がこちらに向いたのも、まさしく狙い通りの展開だった。



「ここからはオフェナさん、どうぞよろしくお願い致しますわ」

「おう、オフェナに任せる! ぶちのめしたくてウズウズしてた、思いっきり暴れてやるぞ!!」

 そうはいっても、オフェナ隊(ビキニアーマー女子分隊)の役割は重く困難で、多大な負担がかかる。

 限界まで彼女らが魔物を引き付け、その上でオフェナ隊の本隊である南陣が前進し、合流することで大量の魔物達と、ヴェオス側の注目を集めるという意図だ。


 それはヴェオスの城の後方に回り込んでいるアイリーンら、魔物誘引部隊をギリギリまで気付かせないため。


 なのでオフェナ隊はこれから、まず50人の軽武装の女子達で迫り来る魔物の集団を迎撃し、城への魔物誘引が成功して破壊が開始されるまで戦い続けることになる。


 かなりの負担をかけることになる作戦を担わせる心苦しさを感じながら、後方に下がるヘカチェリーナとクララ。だがオフェナは嬉々として向かってくる魔物に対峙していた。




  ・


  ・


  ・


 その頃、ヴェオスの城の西側裏手、城から約1km離れた地点。



「! 旦那さまー、旦那さーまー! おかえりなさーいー♪」

 さすがアイリーン、まだ100mくらい離れている上に夜の闇の中だというのに、もう僕に気付いていた。


「やはりアイリーン達でしたね。皆さん、お目当ての魔物の誘因に成功したようです。これからあちらの部隊に合流し、一緒に城裏手へと魔物をけしかける工作行動に移ります、上手く速度を合わせてください」

「「「ははっ、おまかせを!!!!!」」」



 ドドッドドッドドッドドッ!!


 平原を駆ける騎馬の無数の足音。西からと北からの集団が徐々に近づき、やがて1つになる。


 そして、僕を乗せた隊長格の兵士さんの馬が、アイリーンの馬の隣に並走する形となって、隊は走りながらの再編成を完了した。この辺は皆、さすがの腕前だ。



「アイリーンっ、魔物の誘引は成功したみたいですねっ!?」

「はいっ、ですがタイミングがちょっと早かったのでっ、予定を変更しまして裏手からぶつける形になりましたっ」

「大丈夫ですっ、むしろその方がヴェオスを囲む形になりますからっ」

 とはいえ、反対側の城東側の前面、メイレー侯爵の主戦場の戦況がどうなってるかわからないから、ベストかどうかは判断し辛い。


 だけど後陣にリジュムアータがいる。おそらく上手く知恵を貸してくれて、状況に合わせた対応ができるはずだ。


「(不確定要素が多いけど、向こうは向こうで信じて任せるしかない。こっちはこっちでしっかり決めないと)」

 僕とアイリーン―――王弟夫婦の混合騎兵隊が、大型魔物を牽引する。


 ヴェオスの小城までおよそ800m、薄っすらと空が明るくなり始めている今、いつ相手側に気付かれてもおかしくない。


「このまま突っ込みますっ。みんなー、しっかりとついてきてねー!」

「「「はいっ!!」」」

 アイリーンも仕切り直しは不可能な一発勝負と判断してるみたいだ。

 これまで少しずつ垂らしていたであろう、シェルクルーナの血の入った袋の口を、手元に持ち上げる。

 これをヴェオスの城の外壁、または城内にぶちまける。そうすれば血に惹かれる魔物達はそこを目指して突進し、ヴェオスの小城は大破壊を受ける!



「(よーし、いくぞっ)」

 ぶっちゃけ僕は何をするでもないんだけど、いるだけで騎兵さん達の士気は上がる。

 部隊は見事なフォーメーションを組んだまま、僕達は城との距離をどんどん詰めていった。



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