第282話 想定外の動きが起きます
ヴェオスの正体が子爵領内で広まった翌日、すぐにも近隣諸侯に大きな衝撃となって駆け抜けていた。
『ど、どうするのだ!? 子爵に協力すると我が領内に触れを出してしまっておるのだぞ!?』
民衆が ″魔物に手を貸すのか” と領主を糾弾気味に騒ぎだされている領主もいれば……
『すぐに手の平を返します。子爵支持を公に発信していなかったのは幸いでした』
冷静に状況を見て乗り切る領主もあり……
『は、はは、子爵が偽物で魔物だった? いやバカなそんな……ど、どうせ民草が勝手な憶測で騒いでおるだけであろう、はは、は……は……』
がっつりとヴェオスを支援表明してしまっている領主は、現実逃避するように事実を否定する。
マックリンガル子爵領の近隣諸侯の反応は様々で、混乱じみている―――シャーロットの "
「(まぁ、そうなるよね……知らなかったとはいえ、人類の大敵を支持したり、ましてや実際に手を貸す行為を行っていたとしたら、貴族のメンツどころか今後に関わる一大事だし)」
そんな大わらわな諸侯はやはりというべきか、多くが手の平返して態度を豹変させる方向に舵をきってる。
今頃は一生懸命言い訳を考えていることだろう、少しでもヴェオスの肩を持ったことで生じる未来のダメージを緩和するために。
それはいい。だけど報告書には気になる動きもいくつか見て取れた。
「(……。ジャラディ三位爵が兵士を整えている……こっちのトリベン二位爵も)」
普通に考えるなら、手の平くるっくるで汚名返上のために対ヴェオスの戦力を捻出しようとしてる動きに思える。
だけど、兵士を整えてる領主の領地はいずれも、マックリンガル子爵領に隣接してる小さいなところばかり。
「(これらの領地の大きさからして、メイレー侯爵みたいに手勢を持つほど財政に余裕はないはずだ。爵位の決して高くない地方貴族たち……、……まさか?)」
僕はふと、前世の世界を思い返した。
ことの善悪よりも、利益の有無や多寡で敵味方を選ぶ国は多い。特に自前では大きな力を持たない国ほど、ことの善悪など二の次三の次で、自己に有益な方を選ぶケースは少なくない。
そして、善悪はそこに免罪符を与えるための方便として後から付け足される……勝利者が正義であり善であるとして。
「(……ありえる、この隙にマックリンガル子爵領を侵食する気でいる可能性は十分にありえる!)」
マックリンガル子爵を名乗るヴェオスが魔物だった事は、もう分かっているはず。だがその脅威的な相手は今、子爵領内にはいない―――
仮に領内に戦力が残されていたとしても、上がいないんじゃその統率は弱くなる。
何が何でも領地の境を侵して、少しでも削りとり、あとでその事を責められても難癖と言い訳を塗り重ねて強引に自分の領地を広げようとする……これはやばいかも。
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「―――という、少し厄介な事態が起きつつあります」
僕はいそいでメイレー侯爵の陣に向かい、リジュムアータの世話をしてたクララも呼んで相談する。
「むう……そのような事になっていようとは。確かに小粒な者の中には卑しい者もいるとは思っておりましたが……」
まかりなりにも貴族。そんな火事場泥棒みたいな卑しい真似をする者がいるとは、誇りを持ってるメイレー侯爵からしたら思いたくはないんだろう。
だけど貴族諸侯の実態は、どちらかといえばそんな卑しい愚者が多い。強欲で利己的で自己中心的……言葉や駆け引きはそれを正当化するための道具でしかなく、残念ながらメイレー侯爵のようなタイプはむしろ少数派なのだ。
「(腐ってる、というよりは最初から腐った性根の者が地位を得る感じだからなぁ……)」
そうそう高潔で高尚な精神の持ち主なんて、世の中にはいないということだ。所詮は貴族を始めとした上流階級者もただの人間―――
「(―――あれ? なんだろ……この
前世でだろうか? 少なくとも転生してからの人生の中でじゃないような気がする。
「(ううん、余計なことを考えてる時じゃない―――)―――侯爵。僕はこの事態に対して一つ、手を打ちたいと思っています」
「殿下、何をなさるおつもりでいますの?」
クララが少し心配そうな表情でたずねてくる。何となく察してるようだった。
「……僕が直接、子爵領へと赴き、この件を
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