第283話 敵地に乗り込んで手を打ちまくります




 僕は、メイレー侯爵から500の兵士を借りて、ヴェオスに気付かれない大回りで迂回すると一路西、マックリンガル子爵領へと向かった。



「シェスカに地図と少しばかりの説明を頂いてきました、まずは領境にあるウルルラーフという町を目指します」

「は! かしこまりました、殿下!」

 さすがに馬車での移動はできないので、僕は馬術の達者な兵士さんの馬に乗せてもらって移動してる。


 アイリーンとクララにはそのまま残ってもらって、シェスクルーナとリジュムアータの守りと、作戦に集中してもらう。


 なので今回は僕1人だ。




「(かなり飛ばしても距離が長い……途中で1回か2回は休憩をいれるとしても、丸1日はかかる……)」

 本当ならシェスカ達姉妹は連れていったほうが事はスムーズに運ぶんだろうけど、残念ながらリジュムアータの容態と、シェスクルーナの血に惹かれる魔物の存在があるので、現時点で姉妹を連れてく事は不可能。


 ただ、代わりにリジュムアータから色々と情報と策を貰ってきた。



「途中の休憩場所として、デッケルムス一位爵が治めるネートプ地方のルヤンダ村に立ち寄ります。皆さんにそのように伝達しておいてください」

「かしこまりました!」

 マックリンガル子爵領までは、ヴェオスの小城から西におよそ70km前後。

 伝令とかの早馬なら、時速60km以上で走れるだろうから、全力で飛ばせばものの1~2時間程度で簡単に走破できるだろうけど、僕達の場合はそうはいかない。


 少数とはいえ500の騎兵隊を気付かれないように動かさなきゃいけないから、飛ばすとは言っても移動速度は上げられない。

 また下手に高速移動をすると諸侯を驚かせる事にもなりかねないし、王弟殿下の行動がヴェオスに伝わることは、なるべく遅らせないといけない。


 そう考えると移動に5~6時間、状況把握にも5~6時間を費やして、その上で子爵領内に達するのがベストっていうのが、僕とリジュムアータが導き出した答えだ。


  


「(メイトリムはセレナが守り、レイアとキュートロース夫人を始めとした四夫人にタンクリオン達、メイレー侯爵の後陣にヘカチェリーナ、北陣にシェスカ、リジュ、クララ。そして別動隊を率いてるアイリーン……)」

 みんなの居場所と状況を頭の中で再確認―――バラけてる状態なのが少し怖いけどしかたない。


 一応、騎兵に混じってシャーロットの " 眠ったままの騎士団スリーピングナイツ " 構成員が数人ついてきてくれている。


 だけど周囲を固める戦力は決して多くない。


「(血で魔物をヴェオスの城に導く作戦はアイリーンとクララに任せるしかないとして、不確定なのは僕が子爵領に移動したことに気付いた時の、ヴェオスの判断だな……)」

 もう魔物であることを隠さなくなったヴェオス。言ってしまえば、子爵領に未練はないだろうから、僕が子爵領内に入ったからといって、いまさら慌てるほどのことじゃないはず。


 だけどもし、もしもヴェオスが慌てふためいて子爵領に戻る、もしくは配下を差し向けるような動きを取った場合、それはつまり子爵領内にヴェオスが慌てざるを得ないような “ ナニか ” がある可能性も高まる。



「(なんにせよ、まずは周辺諸侯の勝手な動きをけん制するところから、だね)」






――――――そして2日後。僕はマックリンガル子爵領にいた。



『長年、マックリンガル子爵を装っていた魔物ヴェオスを打ち倒し、子爵の無念を晴らしましょう!』


 領内で一番大きな町、クーディンガルトの大広場での演説……実はこれも、リジュムアータの策だった。


「王弟殿下がこんな西の果てに……本物?」

「間違いない、あの時のお二人といらっしゃった殿下だ!」

「殿下が来て下さった!」


 集まった観衆の中には、ヴェオスの正体を知った、強制徴兵から戻ったばかりの人も混じってる。

 彼らが証人となってくれることで、僕こと王弟がこの子爵領内で受け入れられやすくするのが、まずこの演説の目的だ。


 リジュムアータ曰く ″ 味方を伝染的拡散 ” させられるんだとか。


「(確かに人の口伝は思いのほか素早く広まるものだけど……)」

 それでも僕は、偽子爵ことヴェオスを支持しようとする声はあるだろうと思って、ちょっと身構えてた。

 だけど、ヴェオスが魔物と化し、魔物達を率いての殺戮現場をその目で見ている人達が混ざっている……彼らのおかげで思いのほか、領民とヴェオスの離間は簡単に運んだ。




 そして演説だけじゃなく、僕は近隣諸侯に詰問状を送りつけた。


「文面は……これでよし、と。では間違いなく届けてください」

「「ははっ!! お任せください!」」

 こちらは、相手のほとんどが反王室派貴族だから手応えは薄い気がする。とはいえ、マックリンガル子爵が偽物でその正体……ヴェオスが魔物であった事などはもう完全に伝わっている状況だ。

 そこにきての子爵領内発の王弟殿下の詰問状。下手気な返しはできない。


「(これ幸いにと手の平を返してくるか、それとも魔物と知ってもなおヴェオスの肩を持つか……)」

 諸侯の反応次第で、行動を変えないとだけど、それを待ってる時間はない。



 今は遠く、大街道の小城にいるヴェオスが僕の動きに気付く前に、多くの事をしておかないと。



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