第274話 現場は苦しい戦いを続けます
メイレー侯爵軍は、各所で苦戦を強いられていた。
「ハバーグ隊長! こちらの小隊は子爵側、領民の避難誘導、完了致しました!!」
「こちらはあともう少しです! およそ300!」
「申し訳ありません、魔物どもを抑えきれませんでした。こちらは被害が拡大しております!!」
南から城前に入ったハバーグ隊1500は、子爵軍1万5000を南へと抜け逃がしながら魔物達と戦うという、難しい戦闘に従事し続ける。
しかしながら、城内にいた子爵軍の兵士およそ5000はおそらく絶望的。城前に駐屯していた1万も、おそらく2000はやられてしまっただろう。
敵はおよそ100体ほどとはいえ、1体1体が強力……ハバーグは強く歯を噛み締めていた。
「何とか避難路確保を継続しつつ、こちらも徐々に後退します。各小隊は被害を抑えること第一に!」
「「「はっ」」」
「(まさか、ここまで強力とは……。同じ種類の魔物でも、こんなに差があるものだなんて)」
強力であるとはいっても、その手の内はよく知っている。
にも関わらず、1体に対してこちらは100人でかからないと仕留めきれないという、とてつもない苦戦をハバーグの部隊は強いられていて、また同時に避難誘導という作業もこなさねばならず、襲い来る魔物の駆逐がなかなか進まなかった。
―――そして、城内に達していたはずのオフェナ隊も……
「ハァハァハァ……オフェナ、しく、じった。お前達、後退しろ、ゼェゼェ…」
ドクドクと脇腹辺りからの流血と、それに伴う痛みを我慢しながら、部隊の一番前で
目の前には無数の魔物達がジリジリと迫りつつあった。
「お、オフェナ隊長!!」
「早くさがる!! オフェナ、一人の方が暴れられるっ、行く!!」
突入直後は調子が良かった。次々と湧き出る魔物達を50体程度ぶちのめすところまでは問題なかったが、ここが敵地の、それも建物の中だという事を失念していた。
「(まさか魔物……頭使って戦う、思わなかった)」
突入したオフェナ隊は、魔物達に誘導されてしまった。気付けば狭い袋小路に追い詰められ、逃げ場なしで包囲された状態にあった。
そこからはオフェナが活路を開き、何とか包囲を突破。しかしノーダメージとはいかず自分も、そして部下の兵士達にも死傷者が多数でた。
何とか城の外縁部、突入した場所の近くまで撤退してこれたが、執拗に迫る魔物達を振り切ることは出来ず、オフェナは一人立ちはだかり、兵士達を逃がす時間を稼がんと奮起していた。
「あぁああぁああああっ!!!」
ズドゴォッ!!! ガンッ!! ドグボッ!
『……やりオる。超重量武器をアそこマで振り回すパワー……だガ』
魔物の1体が見切ったと言わんばかりに飛び出した。
「!!」
『そこダ!』
ドッ!! ズドッ!
「ひぐっ!」
『ぬグうっ!?』
魔物の攻撃で武器を振るい終えたばかりの腕が強烈に痛み、オフェナは思わず
だが、同時にただではやられないとばかりに、足を出して魔物を蹴飛ばした。
ドガシャアンッ!!
重量ある
外まで飛び出していってしまったならかなりヤバイと危機感を感じながら、オフェナは廊下の上にもんどり打って転がり、すぐ態勢を立て直そうと身を捻ろうとした。
ズキンッ
「う、ぐ……っ」
脇腹の怪我が激しい痛みを発した。体勢の立て直しはかなわず、そのまま転がって床に倒れ、立ち上がれなくなる。
「(あ……これは、マズい、ぞ……オフェナ、このままじゃ)」
小柄な身体のくせに、言う事を聞かない。上手く動いてくれないこの感覚は、傭兵業を始めたての頃に覚えがあった。
持ち前のパワーに物言わせるだけの戦い方で失敗し、動けないほどのダメージを負った結果、魔物の巣へお持ち帰りされ、あと1歩のところで喰われかけた、駆け出しの頃の記憶がフラッシュバックする。
転がったオフェナにニヤつきながら迫る魔物達。敵も状況も、あの時の比ではない。今度こそ確実にやられる。
こんなところで―――悔しさで涙がにじむ。
しかし、もう動けない。オフェナが何度廊下の無駄に豪華な絨毯を押さえつけ、立ち上がろうとしてみても、ガクガクと四肢が勝手に動いて定まらず、力を入れる事ができない。
自分はここで死ぬ。
そう確信せざるを得ない状況、あきらめざるを得ない状況……
「……あきらめ……て、たまるかなんだぞっ、オフェナはまだっ、おおぉおっ!!」
『アきらメの悪いガキだ』『とドめ』
『マあ待て。活きのヨい人間ハ、
魔物達が何やら不穏な事を言い合う。だがオフェナにその会話を聞いて意味を咀嚼している余裕はなく、もう目の前まで伸びて迫ってきた魔物の異形な手を、いかに引き千切ってやるかに、全思考が傾けられていた。
その時。
グシャアッ
『!?』『!!』『ナ、なンだ!!?』
オフェナの目の前にいた魔物が突然、バラバラに砕けてその場に崩れ、血肉の土砂と化した。
「うーん、やっぱり剣の質はイマイチ……飾りにしたって、もうちょっといいのを飾ればいいのになー」
呑気な声がこだまする。
魔物達の後ろ、この場の状況に怖れ
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