第262話 脱出のビキニアーマー達です




「! う、動きました、殿下! リジュちゃんの気配が動き出しました!」

 シェスカが叫ぶようにそう言う。待機していた僕達は、ついに来たかって一斉に立ち上がった。




「メイレー侯爵側に合図を! アイリーン達の脱出をサポートします、城壁上を注視し、潜入組の姿が見えましたら、ルート上の各小隊にも合図を出してください!」

「「ハッ!!」」


「護衛メイドの皆さんは、ケガの治療を始めとして、潜入組のケアをする準備を。特に救出対象はかなり弱っている事が想定されます。合流後、速やかに対処できるよう、準備を重ねておいてください」

「「はいっ!」」


 僕は指示を出すと、小屋を出て城を眺めた。遠目にも城の麓に火事の光が見える。


 城外にたむろしていた相手側の兵士たちの混乱している様子が、風に乗って聞こえてくる声のおかげでよくわかる。



 アイリーン達は成功した。まずそれは喜ぶべきところだけれど、まだ油断は出来ない。潜入組と合流して、安全を確認できて初めて喜べる。


「……気を引き締めなくっちゃ……」





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――――――ヴェオスの小城、2F北側。



「ここから階段おりて、1Fの窓から出る感じ。適当にあちこちの部屋荒らしたり、窓割ってロープ垂らして、いかにも盗人ぬすっとが混乱に乗じて盗みに入りましたよーって感じに残してきたから、多分大丈夫」

 アイリーンはただ兵の混乱や火災を起こすだけではなく、城内を適度に荒らしまわって、賊が盗みに入ったように見せかける工作もしておいた。


 それはひとえに愛する旦那様が “ 出来る限り、僕達の関与を気付かれないように事を進めなくてはいけない ” と言っていたからで、実はアイリーンの独断での行動だった。




「おー、さっすがアイリーン様。余裕あったんだねー」

「ついでにあらかた城の中、回れるだけ回ってきたよ。隠し部屋とかはさすがに探してる時間も余裕もないからアレだけど、だいたいの部屋の位置だとか構造とか、そういったところは把握……した、と思う。ちゃんと覚えきれてるかは自信ないけど」

 そう語るアイリーンだが、ヘカチェリーナは凄いと思わずにいられない。

 いうても潜入組が城内に入り込み、アイリーンとヘカチェリーナ達で分れてから、経過した時間は1時間にはまだ届かない。


 普通に走り回れるならまだしも、敵側に見つからないようにしながら城内をまわるというのは相当だ。


「(実際に動くことに関しちゃ、アイリーン様ってばやっぱ段違いなんだよねー……色々と)」

 見つかっても賊に見えるように纏っているボロ布の下で時折チラ見えるビキニアーマー越しの胸元。

 これでもかとバルンバルン揺れてる乳房に構わず走る姿に、一切の惑いなし。


 ヘカチェリーナも頭からかぶってるボロ布の下は、アイリーンのお下がりビキニアーマーの自分用カスタマイズしたもので、胸の成長も著しく、走ればかなり揺れる。


 ……が、大きな乳房を持つと、この走るという行為がどれだけ大変かを、今回身に染みて思い知らされていた。


「(~~っ、付け根いったいっ! 肩が凝る~~っっ、アイリーン様はなんであんな揺らして走ってられるの??)」

 ヘカチェリーナはこれでも、アーマーのブラを締める部分をキツくし、更に先ほど上から布を巻いて、なるべく揺れないよう工夫している。それでもこんなに大変だ。


 なのに自分よりも更に大きいものをお持ちなはずのアイリーンは、まったくそういった揺れ対策なんかしていない。

 まるで意に介さず、その美巨乳を激しく暴れさせながら疾走していられるなんて、ヘカチェリーナは驚きと同時になんかズルい、と思いながら後ろを走っていた。




「! ……みんなストップ」

 3mほど先行して前を走っていたアイリーンが止まる。


「「!」」

「「……」」

 それだけで敵が近くにいるのだと理解でき、全員足を止めると同時にアイリーンの後ろでしゃがみ込む。そして一気に緊張感を高めた。



「……また・・、か。思ったより飼ってる・・・・なー……」

「!? また??」

 ヘカチェリーナは、そーっと廊下の曲がり角の向こうを見ているアイリーンの視線の先を伺う。

 あくびをしている1人の鎧兵士の姿がいる。距離は廊下を曲がってから20m少々といったところで、近すぎず遠すぎずといった感じだ。


「……人間っぽいけど、あの中身は魔物なんだよ。城の中回ってる時も30回くらい遭遇してねー。上手く始末して処理はしてきたけど……ヴェオスの周りには思った以上に魔物が数、いるっぽいね」

 予定している城からの脱出ルートは、もう目の前の窓を飛び出すだけ。


 ちょうど城の1F外縁の廊下。ここまでくれば逃げ切るのは容易いが、城から出るところを見られたままにしておくと、逃げた方向がバレて、追手がかけられる。


 リジュムアータの容態を考えれば、追手が追いつけないほど遠くまで逃げる時間はない。

 確実に殿下たちと合流し、そこで応急なりの処置を施すのが必須―――つまり処置をする間、同じところにしばし留まることになる。


 そこまで考えると、もし追手がかけられた場合を想定して、城に侵入した賊が、どの方向に逃げたのかを簡単に特定されないようにしなければならない。


「アイリーン様、どうします? ……アレは、倒せそうですか??」

「余裕。なんだけど……問題は倒した後かな。死骸をそのまま放置すると、それこそ場所から気付かれかねないから、なるべく別のとこに運んで転がすとかしとかないとダメだからね」

 確かにと、ヘカチェリーナは思う。破られた窓の近くに手下の死骸が転がっていたら、それこそそこから出入りしました、って言ってるようなものだ。


 ミスリードさせるためにも、あの魔物を倒した後、その死骸は別のところへと運び、何なら転がしたその近くの窓なりを割るとかしないといけない。



「じゃあ私がアレ、処理しとくから。皆は先に行ってて、私は別のとこ窓割って、そこから外に出る―――もし追手が来たら、別の方向に引き付けてどーにかするから、合流遅くなっても心配しないで予定通りにって旦那様に伝えといてくれる?」

「りょーかい、気を付けてねアイリーン様」


 打ち合わせを終えると同時に、アイリーンは角から飛び出し、まるで風のように鎧兵士に迫って、一瞬でその命を絶った。

 見事な手際だけど、感心してみている場合じゃない。ヘカチェリーナ達はすぐに窓の破壊に取り掛かり、脱出を始める。




 それを見届けるとアイリーンは魔物の死骸を担ぎ上げて、廊下の先に向かって走っていった。



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