第208話 世界のどこかで小さな悲鳴です……
「ヴァウザー氏が彼らの拠点の一つに捕らわれていた
宰相の問いかけの意は、すなわち既に聞き及んでいる、ヴァウザー自身が見聞きしたモノとはまた違う情報だということか、との確認だ。
「はイ……
ヴァウザーが連中―――ケルウェージという組織に使役され、王家で保護された際に語った、組織が行っていたおぞましい実験と研究。
それに使用される魔物を、組織はどこから手に入れたのか? そもそも魔物をそんな簡単に捕獲し、扱うこと自体が常識として考えられないことなのだ。
魔物を操る “ 声刻 ” といい、崩壊したとはいえケルウェージという組織には相当に後ろ暗い背景があると見て間違いないだろう。
「聞かせてください。情報は核心を突くものなのでしょう?」
王に促され、ヴァウザーは少しだけ躊躇うようにしながらも、重々しく言葉をつむいだ。
「……。東の戦端、ソの先……魔物側にハ、こレをマとメる王の如キ者ガいルとの事デス。正体ハ不明なガら魔物達ハその者に従ってオり、組織ハその者の使イの魔物ト、取引シてイた、ト」
コッズは下っ端だ。どれだけ厳しい尋問にかけたとしても引き出せる情報には限りがあるだろう。
王と宰相は、語られた話はまだ想定の範囲内だと驚きはしない。
以前、弟よりあげられた報告の中に、東国境の戦線にて魔物と接触している人間がいたという信じがたいものを見ているからこそ、逆に信ぴょう性が高かった。
(※「第169話 見えない敵です」参照)
「やはりか。恐らくその魔物をまとめている者は相当に知能が高い強い個体か、あるいは人か……」
「魔物にも知性の高いモノがいるという話は、かなり昔からありますからね。取引や交渉を持ち替けたりしてきても不思議ではない……ですが情報の肝要はそこではないようですね?」
王は言葉を切り、視線でヴァウザーに先を促した。
ヴァウザーが、かなりの知者であることは二人も知っている。あるいは二人以上の賢者であるとすら言えるかもしれない。
そんな彼が表情を曇らせるレベルが、この程度のことのはずがない。
「……、非常に気分の悪クなル話でス。……組織 “ ケルウェージ ” はどウやら、魔物ト引き換エに、
「!」「……」
二人の顔が険しくなる。
多くを語らずともその子供達がその後、どうなるかは容易に想像がついた。
「……エサ、ですか……酷い話ですね」
その一言で、ヴァウザーが膝から崩れた。今までずっと堪えていたのだろう。
組織が差し出した子供達の中には、ヴァウザーが暮らしていた村の子らも含まれていた事が判明したからだ。
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完全に気持ちを崩してしまったヴァウザーだが、聞き出した情報はしかと報告し尽くす。
コッズが吐いた情報の全てを聞き終え、王と宰相は思案に入った。
「魔物が人と取引をし、魔物を提供する。代わりに人の子を得る……まさしくゾッとする話です」
「人身売買どころの騒ぎではないな。闇深いとはまさにこのことだ。しかもそうして得た魔物に、あの組織は人と交配をさせていたのだという事実も加わる……どこまでも醜悪極まりない」
怒りが湧くが組織が潰れた今、二人が考えるのは政治的な側面だ。
「おそらく、その辺りの繋がりやルートに関しましては、それこそマックリンガル子爵を始め、怪しい貴族達の何人かは多かれ少なかれ関わっていることでしょうね」
「ああ、確実にな。でなければ騒ぎにもならず秘密裏に魔物を特定の場所まで運ぶことなど出来まい。こちらから子供らを向こうに送るにしても同様……確実に手は入っている」
その貴族を完璧に特定できていればいいのだが、残念ながらまだ掴めてはいない。
そう考えると、クワイル男爵の領内に巣食っていた “ ケルウェージ ” とて、全貌の核心とは言い切れないだろう。単なる窓口程度で、これを潰したとて恐らく、裏での魔物との取引を行う動きは続いているはずだ。
「子供を取引と称して向こうに送っているというのであれば、人身売買を行う裏組織をチェックすべきでしょうね」
「確実にそこからも流れているだろうからな。とんでもない事だが、目を背けることはできそうにないな」
ただ今後の流れは少しは変わるだろう。
何せ子供を差し出して魔物を得ていた “ ケルウェージ ” は潰れたのだ。なら子供を差し出して何を魔物側に求めるのか?
あるいはその取引の形も変化するかもしれない。
「子供が取引の材料とならない……あるいは、取引そのものが一時的にでも減少したならば、人身売買組織は確保している子供達の処分に困ることでしょうね」
「そこで迂闊な動きをする者どもが出てくるのを狙う―――というわけだな兄者?」
「! ……フッ、その呼び方は久しぶりですね」
最低最悪の隠れた実態が見えてきた。しかし同時に、引っ張るほつれ糸も見つけられそうだと、二人は悲観の中に手立てを見出した。
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