第200話 駆け抜ける王室の女性達です
――――――王都からクワイル領への街道途上。
「クワイル領に入るまで、あと15kmほどだそうですわ。……お加減の方、いかがですかキュートロース様?」
「ええ、大丈夫。この子も分ってくれてるようで、とても大人しいわ。それよりクルリラ様も疲れていませんか? ご無理はなさらないでね」
「
クララの言葉に、キュートロース宰相第一夫人も静かに頷く。
そもそも王城を出た後に、王都内ではなく王都すらも出て、わざわざクワイル領を目指す避難ルートを取るのにはワケがあった。
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王城を脱出後、一時、王弟殿下の離宮に身を寄せていた面々の下に1通の手紙が届いた。
『皇太后様の使いの者がこちらをエイミー様に、と』
届けられた手紙は、王都を脱してクワイル領にいる王弟殿下の元へと向かうようにという内容。
理由は、この魔物襲撃騒ぎに乗じて、前々からよからぬ動きのあったいくつかの貴族が、王都内で本格的に動きだし始めているという。
つまり、王都内に身を置くのは危険。ただでさえこの離宮も王城にほど近い。
脱出した王室の面々が合流し、一時気を休めるために駆け込みはしたものの、騒動が収まるまで居続けるには安全面であまりよろしくなかった。
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「(襲撃してきた魔物たちを撃退できたとしても、お城の近くは危険な状態が続く―――それも長期間にわたって改善しない見込み、という事ですわね)」
皇太后がわざわざ王都を脱するよう催促してきたことからも、そのよからぬ貴族達の動きとやらが、これまでのような政争の域におさまらないであろう事は容易に想像がついた。
そしてその時、一番最悪なのが王室の面々がこの魔物襲撃に対する ” 保護 ” の名目で、そうした貴族側に捕らわれてしまうこと。
特に王弟殿下と宰相閣下は妻子ある身。家族が捕らわれた場合、非常に大きな人質となってしまう。
なので “ 保護 ” は王都外にいる王弟殿下にしてもらわなければならない。
クララはこの騒動の根本を分析し、自分達がどうしなければならないのかを正確に理解していた。
そんな彼女がいたことは、他の夫人達にとって非常に頼もしく、自然とこのロイヤルファミリーの避難部隊もクララが主軸となって行動していた。
「エイミー様、この先の道はいかがでしょう?」
馬車の隣席で地図を覗いてるエイミーは、頭の上の耳をピクピクと動かす。
「道そのものはどうやら1本道のようなのです。街道なので、このまま進めばクワイル男爵の領地にあるメイトリムという村に、まずたどり着けるはずなのです」
複雑ではない道のりに安堵したいところだが、話はそう簡単ではない。
「1本道、ということは賊なども襲ってきやすいという事でもあります。単純な道のりでも気は抜けそうにありませんね」
宰相第二夫人のハイレーナが、キュートロースに
縁起でもないと笑ってはいられない。よからぬ貴族の動きが本当なら、賊だけではなくその貴族の手の者が襲ってきたとしてもまったく不思議じゃない。
「護衛の人数は30名と少し……心もとないですわね」
一行の馬車は2台。
前にキュートロース、ハイレーナ、クララ、エイミー。後ろに宰相第三夫人のヌナンナに、馬車酔いしやすい彼女のケアで第四夫人のルスチア、メイドのエイルネッタが搭乗している。
そして、それを護衛する騎馬兵が30人。しかも武装は完全ではない。ハッキリいって不足も不足だ。
なのでクララはあらかじめ、もし襲撃を受けた場合は逃げの一手を打ち、両方が逃げ切れなかった場合でも、逃げ切れた片方がとにかく先に走るようにと打ち合わせておいた。
その方が助けを呼んでこれて、結果として両方とも助かる可能性が高いからだ。
「(問題はキュートロース様ですわね。このお腹ではもしも馬車がやられてしまいましたらとても逃げられ―――)」
ヒヒィイインッ!!
カッ、カッカ!!
馬のいななきと何かが馬車に当たる音――――――急いで窓の外を見た一同は、驚きよりも ” やはり ” という気持ちが勝る。
「伏せてくださいましっ、矢を打ってきてますわ!」
一行は足を止めない。これも打ち合わせ通りだ。
もし襲撃を受けても驚いて、そこで足を止めては色々とロスになる。
たとえ敵に捕らわれることになるとしても、王都からなるべく離れた位置の方がいい。クワイル領に近づけば近づくほど異変に気付いてくれて、向こうから助けが来る可能性があがる。
「御者さん! 大丈夫なのです!?」
「はい、こちらは問題ございませんっ、エイミー様、お顔をお出しにならないよう! 飛ばします!!」
どちらの馬車も御者はメイド達だ。襲撃に備えて御者台の左右にも防護板が据え付けてある。そう簡単にはやられない。
2台の馬車は一気に速度をあげた。
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襲撃者たちおおよそ50人。その中のリーダー格とおぼしき1人が舌打ちした。
「少数だが、襲撃の可能性をあらかじめ考えていたようだな。止まらないどころか加速しやがった」
「どうします? 足が止まらないんじゃあ、生け捕りは大変ですが……」
「所詮は王室の温室育ちな女どもと生ぬるい兵士。少しばかり頑張ったところでどうにもならない、本物の現実ってヤツを教えてやるまでだ。よーし、予定通り合図を遅れ。
「了解、ここで大手柄たてればチャンスですしね」
「ああ。タイミングのいい事に、デカい顔してやがった “ ケルウェージ ” は絶賛崩壊中の上、最後にヤケまで起こしてくれたもんだから、こっちの
そして、まもなく一筋の煙が上がる。
最初の襲撃を振り切ったクララ達だが、その行く手には敵の第二陣が待ち構えていた。
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