第二章:残滓は拭えど頑固な汚れ

第181話 慰安旅行は続きます




 クワイル男爵の治める領内で “ 連中 ” は一気に瓦解。父上様と母上様の効率のいい動きで、主要な場所や人間はしっかり押さえられ、完全に崩壊した。


 けど僕たちは王城に帰らず、まだクワイル男爵のところにお世話になってる。



「殿下にはこのたびのこと、感謝してもし足りません。本当に心からのお礼を申し上げたい。ありがとうございました」

「そのお礼は素直に受け取っておきましょう。ですが今後はあのような者達に隙を見せないよう、十分に注意してくださいね」

 クワイル男爵の領地は小さい。だけど王都の西隣―――悪だくみする人達にとって居座りやすい地だから、しっかりしてもらわなくちゃ困る。



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「ともあれ、” 連中 ” の拠点と主要な構成員は押さえられたそうですから、まず一安心です」

 賓館に戻った僕らは一息つく。


 今頃は父上様達の手配で、押さえられた “ 連中 ” が厳しい尋問を受けてるだろう。そのうち色々と分かるはず。



「それにしてもセレナ……いつの間に鎧を新調していたのですか?」

 改めて彼女の恰好を眺めた。


 前の、准将としての鎧は装甲が重厚で露出部分というものがほぼない。特に首回りはかなりのものだった。

 意匠は品格があって、いかにも高位の将官としての威厳ある雰囲気だったと記憶してる。


 けど新しい鎧は、変わらず重厚な感じなのは違いないだけど、前は死重量になっていたっぽい箇所の無駄な装甲を少し削いで露出も増加。下にビキニアーマーをベースとして着けてる感じのデザインに変わってる。


 アイリーンやヘカチェリーナと並ぶと、まずヘカチェリーナが一番軽装で、アイリーンがバランス型、そしてセレナが重装型といったビキニアーマー3姉妹って感じだ。



「ええと……その、殿下との……ごにょごにょ(婚約)が決まった時にその、ヘカチェリーナさんが……」

 (※「第166話 風雲急を告げます」参照)

 さすがに今までの鎧よりもハッキリと露出があるので、慣れなそうにモジモジしているセレナ――――――カワイイ、そしてエッチぃ。


「ふふーん。どーせならさー、なんかこう殿下の内輪で共通する的な何かがあったらいっかなーて思って。ちなみにシャロちゃんやエイミー様、クララっちのも発注済みだから楽しみにしててよね」

「(ここにクララがいたら、またヘカチェリーナと口ゲンカになってたんだろーなー)」

 でも既に発注済みってことは、どのみち鎧が届いた時にもめそうだ。


 シャーロットやエイミーの分も発注したのは、周りを揃えてクララに有無を言わさないためなんだろうけどさすがヘカチェリーナ、そういうところはホントにぬかりのないコだ。



「まぁ本人が良しというのであれば構いませんが……くれぐれも無理強いはダメですよ?」

「分かってるって。だいじょぶだいじょぶ、クララっちも殿下のためならって納得するから」

 納得すること前提ですか。そうですか。


 確かに僕のためって言ったら、クララはぐうの音も出ないでビキニアーマーを受け取るだろうけども。



「ふう。それはそれとしまして、僕達はもう少し静養の日々を楽しんでから帰ることになります……とにかくお疲れ様でした。今日この後はゆっくりとくつろぐ事にしましょう」





 ことが済んで僕達がすぐに王城に帰ったら、やっぱり悪い連中を懲らしめる目的だったんじゃないか、って諸侯に思われかねない。

 なので、あくまで僕達は慰安旅行中に問題事に遭遇したていを貫くため、もう1週間ほどはクワイル男爵領内に滞在する。


 ちなみにそうするように言ってきたのは母上様。その辺のやり方というか、周囲に不自然に思われない振舞いや行動の仕方については流石さすがだ。



「(問題は魔物のコントロールに関連する話だなー)」

 おおよそ " 連中 " がどういう立ち位置の組織だったのかは想像がつく。


 マックリンガル子爵の下部組織的だけれど、お互いの接触は最低限であくまで独立した裏社会的な者達。

 元々あった小さな反社会組織に子爵が接触して、資金や組織活動における便宜を図ることで、独立を維持させつつも事実上の傘下におさめる。

 組織が得た有用なモノは子爵が吸い上げつつ、新しいナニかは組織に危険を承知で試させる―――そんなところだろう。


「(組織の方は、子爵とはあくまで対等のつもりだったんだろうなぁ)」

 それこそクワイル男爵のような、気がよくて脇の甘い人でもない限り、地中のモグラにいいように使われてくれるような上位貴族はそうそういない。

 下手に接触しようとしたら、逆に脅されて使われる側になるだけ。程度の低い人間に使われるほど、実際の有力者や権力者は甘くない。


 そこにきて、独立を保ってると錯覚させた状態で首輪をつけ、利益だけしっかり得てリスクがあれば簡単に捨てられるよう、" 連中 " と絶妙な関係を築いていた子爵は、相当なやり手だ。

 利益は最大限、リスクは最小限というのは言うのは簡単だけど実現するのはとても難しい。




「(東国境のこともあるし、まず ” 連中 ” からどれだけのものが得られるかが、今後の問題にもかかわってきそうだ……)」

 父上様達なら、取りこぼすことなく全てを絞り出せると思う。あとは有益なモノがたくさん出てくればいいんだけど。




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